「2月~3月の中途入社組から相当数の辞退者が出ているそうです。退職希望者も続出しています。こんな状況で保険が売れるわけがないから、出来高が減って収入は激減しますが、会社から補填案などについて、何の説明もありません」
プルデンシャル生命保険の現役若手社員は、そう語ると深いため息をついた。
現役社員ら107人が架空の投資話等を使って顧客のカネを騙し取っていた前代未聞の不祥事は、’24年に同社の元社員が立て続けに詐欺容疑で逮捕されたことで発覚に至った。1月16日に同社が公表した調査報告書によれば、被害は最も古いもので’91年。被害者は約500人、被害総額は31億円に上るという。
35年におよぶ詐取の背景にあったとされるのが、「完全出来高払い」の給与体系が生んだ歪(いびつ)な成果主義だ。同社の中堅社員は、「プルデンシャルには億万長者か貧乏人しかいない」と、その苛烈さを明かす。
「営業を担う社員はライフプランナー(以下:LP)と呼ばれます。最低賃金補償は月10万円以下で、収入の大半は契約本数に応じて入る販売手数料に依存しています。この手数料は、給料はもちろん、ボーナスの支給額の基準にもなっている。契約が取れず年収300万円台の社員がいる一方で、昨年の営業成績1位は年間4億円もの収入を得ています」
不正を働いた社員の多くが「稼げないLPだった」という。
「入社前に必ず『作れるだけクレカを用意しておけ』と言われます。入社前のカネのない時期はカードローンで高級スーツや腕時計を買え。入社後も交通費や会合費などの経費はすべて自腹だから、これもカードローンでまかなえってことです。現金収入は期待できませんからね。契約が取れればいいが、そうじゃなければ働くほど借金が増えるという悪循環に陥る。借金漬けになり首が回らなくなった先に残っていた最終手段が『客のカネに手を付ける』だったのでしょう」(同前)
食うために不正行為に走る者がいる一方、私利私欲のために不正をはたらいた者もいる。問題への関与が認められた社員のなかには、年収8000万円クラスのLPが少なくとも3人いたという。カネに対する歪んだ倫理観が根付いた背景を取材すると、成績上位者だけが優遇される独自の企業風土が見えてきた。
茶髪美女に後ろから抱きつき、満面の笑みを浮かべながら胸をこれでもかと揉みしだく中年男。40秒ほどの動画の中で、男は美女の首筋にキスをするなどハレンチの限りを尽くしていた。これはプルデンシャル生命の、ある成績上位者が後輩へ送った動画の内容である。この男はロングヘアの女性が風呂場でシャワーを浴びる姿を隠し撮りしたと思しき動画も後輩に送りつけていた。成績上位者だったあるOBが語る。
「後輩にハレンチ動画を送ったのは、自身の成功を見せびらかすためでしょう。トップセールスたちが口を揃えて言うのが、『世の中、カネがすべて。女だっていくらでも抱ける』というもの。それを地でいくように、彼らはタワマンに住み、高級車に乗り、銀座で豪遊する生活を送っています。
自分が住んでいる超高層マンションに講習会と称して後輩を集め、そこに大物芸人を呼んで、一発芸をさせたLPもいました。カネの亡者となったLPが増えた裏には、彼ら間違ったロールモデルの存在があるのです」
トップセールスマンになると毎週月曜の会議で表彰され、年に1回、ハワイなどで開催される「コンベンション」にも招待される。さらに世界上位100位に入れば、アメリカ・タイムズスクエアで最も高い場所にある街頭ビジョンに顔写真入りの広告が流されるという。前出の中堅社員は「売り上げさえ出せば何をしても許されるという風土がある」と語る。
「コロナ禍以降、コンベンションは国内で行われてきましたが、有名歌手が招待されるなど豪華なものでした。実はコンベンションは不正調査が始まった’24年から表向きは中止されているのですが、会社は名前を研修会と変えて継続させていた。問題が発覚した後もトップセールスの晴れ舞台を守ろうとする姿勢に、この会社の異常な成果主義を感じました。売り上げがすべてという社風が、モンスターたちを生み出したのだと思います」
1月23日に行われた記者会見では、間原寛社長(60)が引責辞任し、グループ会社のプルデンシャルジブラルタファイナンシャル生命保険社長の得丸博充氏(55)が後任を務めると発表された。変革が求められるプルデンシャルに必要なものは何か。桜美林大学ビジネスマネジメント学群の西山守准教授が解説する。
「成績優秀者だけを重んじる社風が、なりふり構わず金儲けすればいいという発想を植え付けたことは明らかです。企業風土を刷新するには、社長の辞任では足りない。コンプライアンスに詳しい外部取締役を入れるなど抜本的なテコ入れが必要でしょう」
35年分の膿を出し切るのは並大抵のことではない。
『FRIDAY』2026年2月13日号より