面積世界第6位(排他的経済水域)、しかも北からの親潮やリマン海流といった寒流、南からの黒潮や対馬海流の暖流が交錯、世界でも名だたる好漁場として高いポテンシャルを持つ日本の海。その恩恵にあずかり、わが国では古くから豊富な魚介類を獲り、食し、和食文化を形作ってきた。
その日本の魚食・漁業がいま、危機に瀕している。
1990年代前半まで世界一を誇っていた漁獲高もいまではベスト10圏外から転落、すでに漁業大国とは言えない現状になっている。
なぜこのような事態に陥っているのか?
日本の漁業を30年以上取材し続けているベテラン記者が、新刊『国産の魚はどこへ消えたか?』(講談社+α新書)でそのリアルを明らかにする。
『国産の魚はどこへ消えたか?』連載第51回
『サーモンを牛・豚・鶏と並ぶ「第4の肉」へ…ノルウェーが目論む「サモ肉プロジェクト」の実態』より続く。
回転寿司の人気ランキングでサーモンが14年連続で1位となっていることからわかるように、若い世代を中心にマグロ人気が下降気味であると言わざるを得ない。総務省の家計調査では、メバチマグロを中心とした「マグロ」の消費が急減しているため、「マグロよりサーモン」といった人気の逆転は、間違いなさそうだ。
マグロがサーモン人気に押されている理由のひとつに、小谷フードビジネス代表の小谷一彦さんが打ち明けたように、スーパーでのマグロの売り方が挙げられるのではないかと思う。築地時代から今の豊洲でも、市場関係者は「スーパーのマグロはおいしくない」と口を揃える。
もっとも、豊洲には最高級マグロとして知られる青森・大間産という国産・天然・生のマグロが入荷するほか、内外から天然・養殖・生・冷凍といったさまざまな「上マグロ」が日々取引されるため、そんな魚市場のマグロと比べれば、スーパーのマグロの質が落ちるのは仕方がない。
ただ、豊洲がそうした上マグロ専門の魚市場だから、スーパーのマグロが「おいしくない」と言っているわけではない。ほかにも要因があるのだ。それは、小谷代表が指摘したように、比較的安い冷凍メバチマグロ(なかにはキハダマグロを扱うスーパーなどもある)に特化し、飾り付けも施した販売が定着していることにある。
スーパーなどの鮮魚売り場を思い出してもらいたい。店頭には綺麗なパックの中に、ツマや大葉が敷かれ、黄色の造花(菊の花?)や練りワサビも添えられ、そこへ一口サイズにカットされたマグロが載せられている。パックの蓋を取ればすぐに食べられるようになっている。
こうした簡単・便利な刺身パックについて、豊洲の競り人はこう話す。
「手を掛けてマグロをスライスし、数種の付け合わせを用意して綺麗なお造りのパックを作るには、それなりのコストが掛かる。そのコストを考えれば、主役となるマグロの質を落とし、仕入れ値を安くしなければならない。結果として脂の乗りが良く、身がしっとりしたうま味のあるマグロは扱えない。だからスーパーで売られるマグロは、あまりおいしくない。スーパーだって売り上げを稼ぎたいのだから、コスト意識だけじゃなく、少しでもいいマグロを売ろうと頑張ってほしいよね」
綺麗に、どのパックも均一な商品として店頭に並んでいるが、そうするためには、端材・ロスも多く出てしまう。決して見た目が綺麗で、すぐ食べられなくても、どのパックも均一ではなかったとしても、いいのではないか。
見栄えの良いパックや、ツマ、大葉、練りワサビ、さらにマグロの均一なカットに対するコストを省けば、その分、マグロのグレードを上げられるのではないかと思う。
マグロは冷凍物の場合、魚市場や水産加工場で解体機にかけて、徐々にサクにしていくが、その過程で骨や血合い、筋などをすべて取り除いていく。自然と端材がたくさん出て、その処理にも一定のコストが掛かる。
つまり、一口サイズにカットするだけでも相当なロスが出てしまう。筆者は時折、豊洲でマグロのブロックを入手し、自宅でさばいて食べるが、この時、血合いや骨なども少々含まれていることがある。
血合いはこれまでトースターで焼いていたが、解凍してすぐならおいしく食べられることを知った。血合いだけが嫌なら赤身と一緒に切ればいい。ワサビ醤油だけでなく、ゴマ油に塩を振りスライスした血合いに付けて食べると、かつて居酒屋などでいただいた「レバ刺し」を彷彿とさせる味わいになる。
こうしたマグロのブロックも、「切り分ける時間もなく面倒だ!」「切り方がわからない」という人もいるかもしれないが、すべての消費者が「お造りのパックでないと買わない」とは限らない。
それに間違いなく、おいしいマグロを食べたいという人は多いはずである。少々大きなロットになるが、ブロックや不揃いのサクの販売を増やせば、きっと現状よりもおいしいマグロが店頭に並ぶはずだ。
比較的脂が乗ったマグロは、スーパーではなく、寿司店をはじめ料理店にわたってしまう傾向が強いが、日常の食卓においしいマグロが並ぶよう、切って食べるマグロの塊を求めたい。
一方、回転寿司のマグロはどうか。100円ほどで皿に2貫(2個)載って、薄くスライスされたマグロは、おいしいとは言えないという声が多い。安いからそれなりの質のマグロが載っていて当然かもしれないが、ここがサーモンと決定的な違いではないかと思う。
サーモンは、スーパーで買っても回転寿司で食べても、比較的脂が乗っている。少し脂がきついと感じることはあるだろうが、マグロとの差はかなりある。さらに回転寿司では、炙りや軍艦巻きなど、レパートリーが豊富だ。「○○サーモン」といったメニューで、7~8種類提供されている回転寿司チェーンもある。
回転寿司で良いマグロは1皿(2個)100円というわけにはいかないだろうから、そこで「勝負あり」となるが、少なくともスーパーではそれほど手を掛けなくてもいいから、もう少しグレードの高いメバチマグロを提供してほしいと感じている。
おいしいマグロは獲れているし、流通している。スーパーなど量販店で売っていないわけではない。ただ、残念ながら多くのスーパーでたくさん売られている目玉のマグロは、おいしいとは言いがたい。グレードの高いマグロは多くが寿司店や料理店で扱われているのが現状である。
筆者は、そうした違いがマグロとサーモンの人気逆転の要因ではないかと推察する。日常のマグロとサーモン。今のところ、サーモンに軍配が上がっている。脂がそれなりに乗っていて、赤身のうま味も感じられるおいしいマグロが、もっと手軽に味わえるようにならなければ、今後もノルウェー産を中心とした輸入サーモンの人気は、不動の地位を築き上げていくに違いない。
『マグロの目利きの常識を覆したのは「電通」の社員だった…AIを活用してマグロの品定めを的確にこなす新技術“TUNA SCOPE”』へ続く。
【国産の魚はどこへ消えたか?】
【目次】
第一章 減り続ける日本の魚
〇漁業生産、過去最低を更新中〇世界は増加傾向だが天然魚は頭打 〇日本漁業、水揚げ1位はマイワシ etc.
第二章 獲っても食べない国産魚
〇今の魚の自給率は半分近く 〇スーパーの台頭が魚離れの原因か 〇マグロやアジの開きも安さ重視 etc.
第三章 日本一の魚を食べない理由
〇マイワシが魚の餌ではもったいない 〇マイワシの流通阻む100グラムの壁 〇職人からも調理が敬遠される etc.
第四章 消費の主役は外国魚
〇伝統・郷土料理にもノルウェー産 〇ノルウェーに漁港がない理由 〇アフリカ諸国で人気、日本産のサバ etc.
第五章 秋の味覚はいつ復活するのか
〇豊漁には程遠い推定資源量 〇サンマ漁業関係者の苦境 〇マグロ漁やイカ漁へ挑戦 etc.
第六章 揺れ動く日本のマグロ事情
〇「大間まぐろ」がほかの追随を許さない理由とは 〇マグロ管理の甘さを露呈、国の対応急務 etc.
第七章 強化される内外のマグロ管理
〇日本周辺のマグロ、一時は最低水準に 〇流通の主役・普及品のメバチマグロ
第八章 マグロ人気に陰り・サーモンが台頭
〇当初は「日本では無理」と門前払い 〇回転寿司やスーパーのマグロはおいしいか etc.
第九章 おいしいマグロが食べたい!
〇冷凍マグロのおいしい解凍法とは 〇血合いには赤身の100倍のセレノネインが etc.
第十章 大衆魚の利用が水産業復権のカギ
〇獲れる魚を食べられるように 〇小サバのうまい食べ方とは?etc.
第十一章 漁師の減少を食い止めよう
〇10年前の3割減 〇各地で続々、女性漁師が誕生etc.
【つづきを読む】マグロの目利きの常識を覆したのは「電通」の社員だった…AIを活用してマグロの品定めを的確にこなす新技術”TUNA SCOPE”