厚生労働省の「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」によると、2024年の悪性新生物(がん)の死亡数は38万4111人で、死亡総数に占める割合は23.9%だったそうです。「2人に1人はがんに罹る」と言われるなか、高松宮妃癌研究基金理事長や静岡県立静岡がんセンター名誉総長を務める慶應義塾大学客員教授・山口建先生は「今では6割の人々が治癒するが、それでも患者は時として『身体と心の弱者』になってしまう」と語ります。そこで今回は、山口教授の著書『高齢者とがん-健康管理、診断・治療から心と暮らしのケアまで』より一部引用・再編集してお届けします。
【図表】がんの可能性がある自覚症状一覧
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健康な時期のがん対策のひとつは日常診療である。
予防で防げず、検診で発見できなかったがんを診断するための、最後の砦である。
がん診断のきっかけは、検診と日常診療であるが、その割合は検診で2~3割、日常診療で7~8割程度とされている。
日常診療でがんが見つかる状況は、大きく3つに分かれる(下図表)。
<『高齢者とがん-健康管理、診断・治療から心と暮らしのケアまで』より>
生活習慣や感染症、遺伝性がんなどの体質により、がんに罹りやすい人々、あるいは、がん検診などで、いわゆる「前がん病変」が見つかり、定期的なチェックが必要な人々である。
前がん病変とは、正式な医学用語ではなく、がんの発生母地となる病変や検査所見を指す。たとえば、比較的大きな大腸や胃のポリープからがんが発生する可能性がある。膵臓がんが発生する可能性がある膵管内乳頭粘液性腫瘍も経過を追わねばならない病変である。肺のCTスキャンで、初期の肺がんの可能性がある病変が見つかることがある。
『高齢者とがん-健康管理、診断・治療から心と暮らしのケアまで』(著:山口建/中央公論新社)
腫瘍マーカーの異常値が認められた患者についても経過観察が必要で、前立腺がんの腫瘍マーカーPSAの高値が認められ経過観察を続けている患者は多い(PSAは前立腺がんだけでなく前立腺肥大症や前立腺炎でも高くなる)。医師は、こうした病歴や検査結果に基づき、患者に定期的な受診を求め、がんが発生していないかチェックしている。
感染症に関しては、下図表に示したとおり、肝炎ウイルスによる慢性肝障害由来の肝臓がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)持続感染からの子宮頸がん、ピロリ菌感染由来の胃がんなどが発生していないか確認するため、定期的な受診が必要である。
<『高齢者とがん-健康管理、診断・治療から心と暮らしのケアまで』より>
がんに罹りやすい生活習慣を持つ人々や特殊な発がん物質にさらされた人々も重要な対象である。喫煙者の肺がんや頭頸部がん、大量飲酒者での食道がんや肝臓がんなどが代表である。また、原子爆弾による被爆や放射線を長期に浴びたような状態から発生する様々ながんや、アスベスト由来の肺がんや悪性中皮腫も定期検査を受けることが勧められる対象疾患である。
日常診療でがんが見つかる第二のきっかけは、患者が訴える自覚症状である。健康管理に生かすために、がんに関わる自覚症状を下図表にまとめてみた。
筆者は、このような図を磁石などで冷蔵庫に貼っておき、3~4ヵ月に1度、症状をチェックすることを勧めている。仮に思い当たる症状があれば医師に相談し、何も思い当たる症状がなければ、また3~4ヵ月後にチェックしてほしい。それを何度か繰り返すうちに、主ながんの症状を覚えることができるだろう。
ただし、この図に記載した症状があれば、必ずがんがあると考えてはならない。「この症状があれば、がんに違いない」という明白な関係はほとんど存在しない。この図に記載した症状のうち、可能性が高いものでも、最終的にがんと診断されるのは10人に1人程度で、多くはそれ以下である。
しかし、自覚症状の原因を調べ、良性疾患が見つかることがあるので、健康管理という点ではメリットが大きい。何らかの症状があれば是非医師に相談していただきたい。
日常診療におけるがん発見の第三のきっかけは、がん以外の病気で通院中に、担当医が、患者の症状や検査所見から、偶然、がんを疑うような場合である。たとえば、のど周りのがんで起きる声がれや甲状腺がんのしこりなどは重要な所見となる。
また、検査結果がきっかけになることもある。風邪で受診し肺炎の疑いがある患者が、胸部X線撮影を受けて肺がんが見つかることが時にある。血液検査で血液のがんや肝臓がんが、尿検査で腎臓がんや膀胱がんが見つかることもまれではない。
日常診療の重要性を考えると、気軽に相談できるかかりつけ医を持つことは、個人のがん対策のためにも重要である。
※本稿は、『高齢者とがん-健康管理、診断・治療から心と暮らしのケアまで』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。