年末年始は絶好の帰省シーズン、子や孫の帰省を心待ちにしている人も多いのではないでしょうか。もっとも、なかには子どもたちの帰省に“怯える”親もいるようです。いったいなぜなのか、70代夫婦の事例をみていきましょう。
「孫に会えるのは楽しみですが……娘とは正直話したくない」
地方都市に住むAさん(74歳)と妻Bさん(70歳)夫婦は、今年も初孫(小3)に渡すお年玉を準備して、ひとり娘Cさん(39歳)一家の帰省を待っていました。
ただ、Aさん夫婦は娘一家の帰省を素直に喜ぶことができません。
なぜなら今年のお盆、妻のBさんは帰省中のCさんから「孫の中学受験のための塾代や入試費用、そして合格したら中学の学費を援助してほしい」と頼まれていたからです。
Cさんいわく「自分たちは住宅ローンの返済で大変だから、全額とは言わないけど助けて欲しい。年末年始にまた詳しく話すから、お父さんにもお願いしておいて」とのことでした。
Bさんはこれまで、Cさんから小遣いをねだられたらなるべく渡してきていました。しかし今回のおねだりは、金額も頻度も違います。そのためすぐにAさんに相談したのでした。
Aさん夫婦は自分たちで中学受験の費用を調べて(その時、孫の援助は大学まで続くのではと思ったそうです)、ファイナンシャルプランナーの筆者のもとを訪れました。
ふたりが調べたところによると、中学受験の進学塾の月謝は、地域や志望校などで差があり、おおよそ年間で小4(小3の2月から)は50万円前後、小5は80万円前後、小6は100万円以上とのことでした。
さらに小6になると、夏休みや志望校対策、受験直前といった名目で、別途受講してその分費用が増すこともあり、上限のブレは大きいようです。
東京都「令和7年度東京都内私立中学校の学費の状況について」によると、平均の都内所在の私立中学校初年度納付金の総額は、103万3,387円で、そのうち入学金は26万5,296円でした。参考値として1校あたりの検定料(受験料)は、2万3,946円です。
また文部科学省「令和5年度子供の学習費調査の結果」では、1年間の学校教育費や学校給食費、学校外活動費を合わせた学習費総額は、公立中学校が54万2,475円に対して、私立中学校は3倍近い156万0,359円でした。
総務省「家計調査(家計収支編)2025年」によると、65歳以上・二人以上の無職世帯の実収入は25万2,818円でした。一方、税や社会保険料も加えた支出額は28万6,877円と、毎月3万4,059円の赤字になります。
一方、Aさん夫婦の収入は、老齢厚生年金のみで夫婦で月23万円、統計値よりも約2万円少ないです。ただ、Aさん夫婦は家計の見直しに励み、貯蓄を取り崩すこともなく生活しています。
また退職金やそれまでの貯蓄は、退職後に計画していた自宅のリフォームや旅行などの費用、想定外のCさんの住宅購入資金の援助に使いました。
残っている貯蓄は約800万円で、これは介護・看護費用や予備費として残しておく予定です。
そのようななか、Aさん夫婦が孫の中学受験を援助するためには、収入を増やすか支出を減らすかのどちらかしかありません。支出については「すでに見直して家計簿をつけている」とのことで、また収入についても働くつもりはなく、年金の増額も見込めないため、この状況で援助を行うのは現実的ではなさそうです。
また、机上ではさらに家計支出を減らして受験費用を少しでも捻出することは可能ですが、その生活を見た娘孫は喜ぶでしょうか、とも話しました。
そして迎えた正月、Aさんたちは帰省した娘夫婦に自分たちの家計の現状を伝えたうえで、孫の受験援助は難しいと話しました。
「すまん、お年玉だけで勘弁してくれ……」
受験費用をまとめた書面や、志望校のパンフレットも持ってきたCさんは、顔面蒼白です。Cさんが横に座っている夫の顔を覗き込むと、夫は「ないんなら、しょうがないんじゃない」と、仏頂面で言い放ちました。
年金暮らしのAさん夫婦と現役世代のCさん夫婦の収入は、Cさん夫婦のほうが多いはずです。
Aさん夫婦は子どもから頼られたことがうれしく、つい甘やかしてしまっていたと悔やんでいました。
どれほど子どもがかわいくても、無理を続けて自分たちの家計が破産しては元も子もありません。Aさん夫婦が自分たちの家計を守るために、率直に家計の状況を話したのは、賢明な判断だったといえるでしょう。
牧野 寿和牧野FP事務所合同会社代表社員