〈エントランスで“おっぱじめる”カップルに、血痕のついたシーツ…「ラブホ清掃員」たちの“奇妙すぎるお仕事事情”〉から続く
世の中には非常にたくさんの仕事が存在する。このうち、見知らぬ人たちが「行為」に及んだ部屋をテキパキと片付ける「ラブホテル清掃員」たちは、どんな理由でこの職業を選んだのか。これまでフリーライターとして活動してきた神舘和典さんが、60歳を超えて飛び込んだところ、意外にもそこは若い女性が主流の職場だった――。
【画像】この記事の画像を見る
神舘さんが62歳で「人生で初めての就職活動」を行い、さまざまな職業を体験したルポ『60歳からのハローワーク』(飛鳥新社)から一部抜粋してお届けする。(全4回の3回目/つづきを読む)
ラブホテル清掃員たちが、この仕事を選んだ理由とは?(画像はイメージ) AFLO
◆◆◆
「バイブの消毒、慣れましたか?」
ササキさんに聞かれた。
「さわれるようにはなりました。ササキさんは苦手な作業はありますか?」
「排泄物かな。浴室の掃除をしていると、1週間に1度か2度はあります」
かつての知り合いに浣腸を使っての行為が好きな女性がいた。ベッドが汚れるので、いつもラブホテルを利用していると話していた。
このホテルはLGBTを積極的に受け入れている。時代の要請と言っていいだろう。“LGBT”とは性的マイノリティのこと。Lはレズビアン、Gはゲイ、Bはバイセクシャル、Tはトランスジェンダーだ。男性同士のカップルの多くは、肛門を使って行為をする。おもらしのリスクをともなう。性的マイノリティに寛容な社会になり、客室に“黄金”が残っているケースが増えたそうだ。
「でも、お店が一番困るのは排泄物よりも嘔吐物です」
ササキさんが付け加えた。
今も男が女に酒を飲ませて酔わせてホテルに連れ込む古典的なナンパは多いらしい。チェックインしたものの、酩酊状態で正体をなくし、部屋のなかでゲロゲロ吐いてしまう。
「排泄物は消臭剤を使って掃除をすれば、たいがいはにおいがとれます。でも、吐瀉物のにおいはなかなか落ちません」
嘔吐臭の残る部屋にお客さんを案内するわけにはいかない。吐瀉物の量にもよるが、においが消えるまで1週間ほどその客室は使えない。ダイレクトに売り上げに響く。
そう話すササキさんに、この仕事を続けている理由を聞いた。
彼女はとても手際がいい。リーダーシップもある。ほかの業種・職種は考えなかったのだろうか。
「ラブホテルは、ほかの仕事よりもコストパフォーマンスがいいんですよ。時給換算では1000円台ですけれど、慣れてしまえば、仕事はそれほどきつくありません。それに、ホテルは24時間稼働しているので、店長に相談して、自分の都合のいい時間帯に入ることができます。Wワークができます。この仕事をやる上で、もっとも大きな敵は“飽き”でしょうね」
出勤してから退社するまで、ひたすら掃除をして、シーツを替え続ける。来る日も来る日もそのくり返し。
「毎日同じ作業なので。飽きてきたときにどうやって自分にカツを入れられるかが大切です」

シンプルな仕事なので、スキルアップも少ない。だから、自分から生活にメリハリをつけるように努めなくてはいけない。仕事はルーティンとして割り切る。そして、終業後のプライベートを充実させる。その心がけが大切らしい。
やる気があり、健康ならば高齢者でもできるのも、ラブホテルの仕事のメリットのようだ。シフトの関係で直接会えなかったが、このホテルの従業員には83歳の男性もいる。5年以上ここで働いているらしい。つまり、70代後半に勤め始めた。
Wワークをしているから、出勤は週に1日だけ。ただし、もう1つの仕事もラブホテルのセットアップだそうだ。ホテルが違えば、掃除やベッドメイクのやり方も少しは違うかもしれない。でも、基本的な作業は同じはず。よほど性に合っているのだろう。
若いミズモトさんにも、この仕事を続けるモチベーションを聞いた。
「お金です」
即答だった。彼女は32歳の社員だが、ラブホテルの仕事の前は自動車販売の会社を転々としていたそうだ。どの会社でも、月給は16万円台だった。
「関西では、資格を持たない高卒の女子の月収は、16万円がほぼ標準です。でも、ラブホ業は20万円以上もらえます」
32歳で月収4万円の差は大きい。彼女は岐阜で育ったそうで、そこでは家賃4万円以内の部屋はいくらでも見つけられるそうだ。あるいは、月に4万円貯金すれば、年間50万円近く貯められる。
ラブホテルは24時間稼働なので、Wワークしやすいのもありがたいという。彼女は若いので、まだまだ余力がある。関西では多くのホテルがWワークを認めている。そうしなければ、24時間365日人材を確保できないのだろう。
この日の帰り際、ラブホテル業を20年以上やっているというオクムラ店長に今までで一番きつかった仕事体験を聞いた。すると、ご臨終に遭遇したことだという。
「70代くらいの男性のお客様が行為中に倒れられて意識を失い、客室からの通報で救急車を呼びました」
相手は若い女性。行為中よほど張り切ったのか、持病があったのか、心臓発作を起こした。いわゆる腹上死だ。
「救急車が到着したときはもう動かなくなられていました」
オクムラ店長は恐ろしくて、直視できなかったそうだ。
「ご臨終は、ラブホテルに限らず、ホテルの仕事を続けていると、誰もが一度や二度は体験するとは聞いています」
〈「別の職場ではなかなか雇ってもらえない」時には獣のように四つん這いで…『70代男性』が“週6勤務”で10年も続ける『ハードすぎる仕事』とは?〉へ続く
(神舘 和典/Webオリジナル(外部転載))