高速バスで隣に他の客が座らないよう、2席分を予約して乗車直前にキャンセルする「相席ブロック」と呼ばれる行為が問題化している。
バス会社側が損害を被る場合もあり、各社は払戻手数料を値上げするなどの対策に乗り出した。年末の帰省ラッシュを控え、担当者は「モラルを持って行動してほしい」と呼びかけている。(青木聡志、糸魚川千尋)
「迷惑行為が続けば経営状況が悪化しかねない」。首都圏を発着する「ジェイアールバス関東」(東京)営業部の藤原翔さん(43)はそう話し、顔を曇らせた。
同社が相席ブロックをされている可能性に気づいたのは2022年頃。隣や後方の2~4席を予約した上で、乗車直前に1席を除いてキャンセルする行為が増えたという。当時はコロナ禍で、近くに人がいる状況を避ける目的があるとも考えられた。
だが、コロナ禍が収束しても相席ブロックはなくならなかった。1人客の場合、長時間の移動では「隣に誰もいない方が気楽だ」と感じる人が少なくないとみられ、1人で10席予約し、直前に9席をキャンセルしたケースもあったという。
相席ブロックが行われると、バス会社側は本来得られたはずの料金を手にできない上、乗車したい他の客の利用も阻まれる。同社は今年4月、X(旧ツイッター)の公式アカウントで「絶対におやめください」と呼びかけた。藤原さんは「帰省ラッシュの時期は、キャンセル待ちの客で座席がすぐ埋まるので、相席ブロックは意味がない」としつつ、「前もって帰省の計画を立てる家族連れなどは、事前に予約がとれずに他の移動手段に変えざるを得なくなる。他の人のことも考えて行動してほしい」と訴える。
問題の背景には、高速バスの払戻手数料が比較的安いことがあるとみられる。
同じ長距離移動の手段でも、例えば、東海道新幹線の当日払戻手数料は、乗車券の220円と指定席特急券の30%。東京―新大阪間であれば2000円ほどになる計算だ。また、途中の停車駅からの乗客が多いこともあり、JR東海の担当者は「相席ブロックは確認されていない」と話す。
一方、高速バスは運賃が比較的安価で、払戻手数料が一律100円のバス会社もある。客が柔軟に予約を変更できるメリットはあるものの、これを逆手にとって相席ブロックが行われている可能性がある。
こうした事態に、各バス会社は相次いで払戻手数料の値上げに踏み切っている。ジェイアールバス関東は今年4月、東京―大阪間の路線で乗車前日や当日の払戻手数料を、運賃(平日4列タイプで4000~6000円)の20%から30%に引き上げた。富士急バス(山梨県)は今月1日、東京―富士五湖間の路線で、一律100円だった払戻手数料を乗車前日や当日は運賃の50%に。九州を発着する西日本鉄道(福岡市)も昨年12月、東京行きの高速バスの払戻手数料について、乗車前日から、従来は110円だったものを運賃の50%にした。
ネット予約の普及により、キャンセルが簡単にできるようになったことも相席ブロックを生む要因の一つという指摘もある。
高速バス事業者の経営を支援する「高速バスマーケティング研究所」(横浜市)の成定(なりさだ)竜一代表は「窓口や電話で直前にキャンセルを申し出るのは気まずいものだ。ネットで気軽にキャンセルできるようになったことが、相席ブロックという迷惑行為に及ぶ心理的なハードルを下げたのは間違いない」と推測する。
消費者トラブルなどに詳しい越田雄樹弁護士は「ウソをついて業務の邪魔をするような行為は、偽計業務妨害罪にあたる可能性がある。バス会社側は得られるはずの利益を失ったとして、損害賠償を請求できることもある」と指摘する。
直前にキャンセルするケースの中には、同行者が急に体調を崩したなどやむを得ない場合もある。越田弁護士は「最初から相席ブロックするつもりだったという故意性を立証するハードルは高い」としつつ、「悪質なケースは、払戻手数料を支払ったとしても、法的責任を問われる恐れがあると自覚してほしい」と話している。