在籍する保育士14人のうちなんと10人が、園児を殴るなどの虐待行為をしていた–福岡県田川市の私立「松原保育園」で、保育士が園児に虐待などの行為をしていた事件。8月に懲戒解雇されていた保育士・中村麗奈容疑者(25)は11月19日、福岡県警に傷害と暴行の容疑で逮捕された。取材に応じた中村容疑者の夫は、「麗奈は園でいじめられ追い詰められていた」と主張したのだった–。【前後編の前編】
【写真】中村麗奈容疑者(25)の保育園在籍中と、取材に応じた夫。保育園の玄関には厳重な張り紙が
全国紙社会部記者が語る。
「5歳児クラスの担任だった中村容疑者は8月4日の昼過ぎ、園児の顔を手拳で殴打し、さらに頭を手に持った紙箱で複数回殴打した容疑で逮捕されています。被害者の園児は全治4か月の顔面打撲を負った。
容疑者の犯行は、園長が8月に虐待行為に気付いて、田川市に報告したことで明らかになった。容疑者が園児を叩く様子は防犯カメラに残っており、その後容疑者は懲戒解雇となりました」
その後、県と市は特別指導監査を実施。結果、中村容疑者を含む10人の保育士が園児をたたいたり、大声で叱責するなどの虐待行為をしたと認定したのである。
「その後、園を運営する社会福祉法人『松原福祉会』は20日、園内に防犯カメラを設置した6月から約2か月間で、100件を超える虐待を含む不適切事案が記録されていたと公表しました。虐待行為の多くは給食の時間に行なわれていたと言います。
また、2年前に就任した園長と保育士との間の確執で、直近2年間で12人の保育士が相次いで退職していたことも明らかにされました。
経験の浅い職員が保育について相談できる体制がなかったとして、県と市に副園長や主任保育士を新たに採用することなどを改善案としてあげています」
園は11月16日に保護者説明会を実施。子供を預けている母親のAさんは、まさに中村容疑者が担任だったという。
「2か月の間に、100件近く虐待行為があったと説明がありました。そのうち4分の3ほどは中村先生ともう1人の先生の行為みたいで、その2人が懲戒解雇になってます。
私の子供はまさに中村先生が担任だったんですが、『今日蹴られた』と言うことがありました。先生にも子供がこう言っていると伝えていたんですけど、『嘘つきだから。子供が嘘ついている』って言われちゃって。それで、子供は保育園に行くのを怖がるようになってしまいました。
ちゃんと聞いたら、私の子供が『トイレに行きたい』と頼んだけど、先生が忙しいという理由で行かせてくれなくて、それで漏らして怒られて蹴られたということでした」
園長と保育士の間で確執があったことは、保護者間でも話題になっていたというが、「ストレスで子供に手をあげること自体意味がわからない」と怒りをあらわにする。
「上司が変わってストレスで手をあげていたらキリがないじゃないですか。それは園のなかで解決して欲しいです」(Aさん)
中村容疑者はなぜ手をあげてしまったのか、園の職場環境はどのようなものだったのか。自宅を訪れると、容疑者の夫が取材に応じた。
「麗奈は確かに悪いことをした。子どもを叩いちゃ絶対にいけん。それはわかっちょる。誰に言われんでもわかっちょる。本人もこうなって、絶対わかっちょる。子供達にも親御さんにも、申し訳ないという気持ちがある。
でも、何が原因かっていったら、環境もあるじゃないですか。麗奈は追い詰められてた。あの子、仕事に行く前も帰ってきても、毎日泣きよった。子供たちの前では、絶対に泣かれんきっち。保育園では気を張っとる。帰ってきたらやっぱしんどいって涙が止まらんって泣きよったんですよ……」
2023年の4月から松原保育園で栄養士として働いていたというこの夫は「俺にも責任があるし、子供と親には悪いことをした」と話す。
「麗奈はもともとめちゃめちゃ明るい子で、保育の仕事が好き、子供が好き。担任やってた子らは何年も長いこと抱えてたけ、自分の子みたいに愛情はあった。だけん、子供たち全員から好きって言われてた。
仕事もめちゃくちゃ真面目。だけど、一人で抱えれんくなってきてからは、ちょっとおかしくなってきてた。休みよ、とは言ったけど、休めんのよ、麗奈は。俺も自分はやめたけど、麗奈にもちゃんと休んでって強く言うべきやった。
前は、あの子が子供に手をあげたとか大きい声で怒鳴るとか、聞いたことがないけん。やっぱ心の支え(の先輩保育士たち)がおらんくなったのが、一番でかいと思う。ベテランの先生にかわいがってもらいよったけど、園内での確執が原因で、周りの先生がどんどんやめて、頼るところがなくなったんよ」
中村容疑者が8月に解雇された翌月、2人は入籍したという。後編記事では、大半を占めた「給食の時間の虐待」の詳細や、園に取材を試みた際の対応について詳報する。
(後編につづく)