アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議出席のため韓国を訪問していた高市首相は1日、一連の日程を終えて帰国した。
就任から12日間で米中韓との首脳会談をそれぞれ行うなど多忙な外交デビューとなり、「女性初の首相」の立場も生かして存在感を発揮した。(韓国南東部・慶州 上村健太)
「日本外交の地平を切り開く歩みを着実に進めることができた」。韓国・慶州で1日に行われた記者会見で、首相は充実した表情で振り返った。
10月21日に就任後、4日後にはマレーシアに渡り、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席。オーストラリア、フィリピンなど安全保障協力を強める国との会談も重ねた。
高市氏が特に意義を強調したのが、28日のトランプ米大統領との会談だ。議員仲間と宴席を共にすることは少なく、「人付き合いが不得手」(自民党ベテラン)との評判もあったが、「とにかく懐に飛び込む」(首相側近)戦略が奏功した。
政府高官によると、会談冒頭は緊張した様子だったが、盟友だった安倍晋三・元首相の話題を突破口に会話を盛り上げた。米軍横須賀基地を共に視察した際には、「サナエ」「ドナルド」と呼び合う仲になっていた。
トランプ氏は帰国後にもSNSに、「日米の友好関係が強固であることを、これまで以上に確信している」と書き込んだ。
中韓両国には首相の保守的な政治姿勢を警戒する向きがあった。そうした中、31日の日中首脳会談前にはAPEC首脳会議の控室で、首相は中国の習近平(シージンピン)国家主席に笑顔であいさつし、習氏も表情を緩める場面があった。
韓国の李在明(イジェミョン)大統領も1日の記者会見で「個々の政治家と、国家の経営を担う立場では考え方や行動が異なる」と首相の現実的な姿勢を評価し、「心配は全てなくなった」と語った。会談時、首相が韓国国旗に一礼したことも韓国メディアは好意的に報じた。
APECでは、女性首相として注目を集めた。各国首脳に積極的にあいさつして回る姿は、「石破前首相とは対照的」(首相同行筋)との声も上がった。
外務省幹部は「重要かつ難しい会談を一気に総なめにできた。ほぼ1年分の外交成果に値する」と語る。
ただ、各国との懸案は依然として残る。米国との関税合意で日本側が約束した5500億ドル(約85兆円)の対米投資の道筋は不明確で、中国公船による沖縄県・尖閣諸島周辺への領海侵入は続いている。
首相は記者会見で「今回の会談を様々な課題に取り組むきっかけとしたい」と強調した。今後、いかに懸案も減らして実利を得られるか、外交手腕の真価が問われることになる。