日本各地でクマによる被害が急増している。東京でも今年に入ってから目撃例が相次いでおり、「都民もクマ鈴が必要になる日が来る」という声すら聞かれる。
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なぜ都心部でクマの目撃例が増えているのか。自然解説者・佐々木洋氏の『新 都市動物たちの事件簿』(時事通信社)より、東京や神奈川にツキノワグマが現れる「2つの理由」を抜粋して紹介する。(全4回の1回目/つづきを読む)
写真はイメージ Yuto.photographer/イメージマート
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私は長年にわたり、テレビ朝日の「スーパーJチャンネル」という番組で野生生物の問題の解説を行っている。この町田市のツキノワグマの事件も取り上げることになり、2023年11月13日、番組のディレクターらとともに、今回ツキノワグマの目撃された現場へ向かった。ここは自分の住んでいる市内であるということもあり、いつも以上に徹底的に検証をするつもりであった。
自宅を出て1時間ほどで撮影場所に到着し、改めて「こんな近くにクマが出たのか」と背筋が寒くなった。
しかし、周辺でツキノワグマの痕跡を探すが、だいぶ時間が経っていることもあり、見つかるのはイノシシのものばかりだった。考えてみれば、ここにそれほどイノシシがいるということも、怖いことである。
やがて、私たちは、車道わきに立派な獣道を発見した。
私はここをツキノワグマも通った可能性が高いと判断した。なぜなら、その獣道は、イノシシ、ニホンジカなどの体重の重い哺乳類がわりと頻繁に通っていると思われる、幅の広い、そして、草がかなり平らに倒れた道だったからだ。
また、今までの各地での私の観察や調査では、どの獣道もたいてい複数の種類の哺乳類が利用していて、日数が経つとともにそこを通る動物にだんだん大型の種が加わっていく傾向がある。
今回の現場からさほど離れていない八王子市の緑地で調べたときも、初めのうちはニホンイタチ、テン、ノウサギなどが通り、やがてそれらにタヌキ、キツネ、アライグマなどが加わり、その後イノシシも通るようになった。
私のもう一つの経験では、とくにニホンカモシカが通ったあとは、まさに“大トリ”という感じでツキノワグマもよく通る。ツキノワグマがやってくるのは、先に通っている哺乳類を餌にするためというより、ほかの動物のにおいがすると安心するからではないだろうか。
だから、私は、獣道のあった場所の近くの住民に「カモシカを見かけたらクマに注意して下さい」と必ず伝えることにしている。
同時に、住宅地などに入ったツキノワグマ以外の大きな哺乳類も、ツキノワグマがやってくる前になるべく早く山に追い返すことが大切だ。
この日のロケでは、この町田市内の現場のあと、そこから近い神奈川県相模原市の一戸建て住宅に向かった。
ここではしばらくの間、ほぼ毎晩、部屋の窓の外の暗闇から大型の動物の気配がするので、そこの住民がイノシシだと思い、猟友会にお願いしてイノシシ捕獲用の罠(わな)をかけてもらった。
しばらくしてその罠にかかったのはイノシシではなく、なんとツキノワグマだったのである。
「毎晩窓の外から聞こえていた音の主はクマだったかもしれないんですね」とその家の住民は震え上がっていた。
この事件は、私が現場を訪れる前に起きていたのだが、ここにツキノワグマが来た理由を考察してテレビカメラに向かって話すのが私の仕事だった。
そして、その答えはすぐに出た。理由は主に二つあり、一つは、家の近くにオニグルミの大きな木があることだ。ツキノワグマはオニグルミの実が大好きなのだが、それが秋なのでたくさんなっているし、地面にも落ちていたのだ。
もう一つは、その木のすぐわきに道志川(どうしがわ)という川が流れているということだ。
野生哺乳類は川に沿ってよく移動する。流れに沿って草木が繁ったり、道路などより低いところを水が流れていたりして、人目につきにくいからだ。しかもそこを通るときに餌を見つけることもできる。
このツキノワグマは、おそらく、毎晩のようにねぐらにしていた場所から、川に沿ってこのオニグルミの木へ通っていたのだ。
〈「ハンターの高齢化」「自然の減少」だけじゃない…「クマが都内にやってくる」もう一つの“意外な理由”とは〉へ続く
(佐々木 洋/Webオリジナル(外部転載))