全国の港湾で強い毒を持つ「要緊急対処特定外来生物」のヒアリの発見が相次いでいることを受け、環境省は、特有のにおいをたどれる探知犬の導入に向けて、来春までに国内で試験的な育成を始める方針を固めた。
中国などから日本に侵入したヒアリの発見事例は今年度、過去最多に達し、海外で導入実績のある探知犬を使って水際対策を強化する。
ヒアリは中国や米国、台湾、オーストラリアなど環太平洋諸国・地域に広く分布している。日本では繁殖を繰り返して自然に増える「定着」に至っていないが、同省によると、今年度の発見事例は10月末時点で9都府県36件に上り、過去最多だった2017年度の26件を上回った。
ヒアリは国際貨物船のコンテナ周辺で見つかることがほとんどで、集団のほか、卵やサナギの状態でも確認されている。同省は「いつ定着してもおかしくない」として、全国の港湾で定期調査し、見つけ次第駆除している。ただ、繁殖力が強く、一度定着して周辺に広がると根絶は難しくなる。
そこで同省が水際対策の要として導入を計画するのが、台湾で活動実績のあるビーグル犬を使った探知だ。
狩猟犬でもあるビーグルは優れた嗅覚を備え、日本では空港の検疫探知犬としても活躍する。台湾ではヒアリ探知犬として導入されており、ヒアリが出す特有のフェロモンをたどり、物陰や地中に潜んでいても近くでお座りして存在を知らせてくれる。
同省は23年、台湾の探知犬と関係者を日本に招いて実証実験を実施し、能力を確かめた。さらに来春までに検疫探知犬などを訓練する民間事業者と連携し、国内でヒアリ探知犬の試験育成を始める。同省外来生物対策室の担当者は「効果や課題を検証後、現場への導入を目指したい」と話す。
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専門家は、ヒアリが確認されたコンテナを運んだ貨物船の航路などから、国内で発見されたヒアリの大半は中国から流入したとみる。
発見急増の背景には、中国での分布域拡大が関係している可能性がある。国立環境研究所の坂本洋典主任研究員(昆虫行動生態学)によると、2000年代初頭は広東省など4省だった分布が今年は13省まで広がり、「拡大を制御できていない」と指摘する。
同研究所では、緊急駆除用の殺虫スプレーに使う薬剤や、薬を混ぜた餌を巣に持ち帰らせて根絶する「ベイト剤」などの開発を進め、現場に導入してきた。坂本主任研究員は「多様な防御策を駆使し、なんとか水際で食い止めたい」と述べる。
◆ヒアリ=南米原産で強い毒と攻撃性を持つ。英語で「ファイアーアント」とも呼ばれ、刺された時の激しい痛みがやけどに似ていることが名称の由来。日本では2017年6月に初確認された。