著名人によるSNS発信はコメント欄を閉鎖することが多く、開放していたとしても本人は反応しないというのが通常だろう。ましてや、疑惑の渦中にある人ならばコメント欄は閉じておくのかと思いきや、小川晶・前橋市長は逆に公式Xのコメント欄「開放」へ踏み切った。臨床心理士の岡村美奈さんが、小川市長はなぜ炎上を恐れずコメント欄を開放したのか分析する。
【写真】小川晶前橋市長Xがコメント欄を「開放」、書かれていた投稿は?
* * * 前橋市の小川晶市長が25日、自身のXを更新し改めて続投に意欲を見せるとともにコメント欄を開放、ユーザーからのコメント1つひとつに返信している。疑惑や問題の渦中にいれば、SNSのコメント欄を閉鎖するのが一般的だろう。なぜ今になって彼女はコメント欄を開放したのだろうか。
メディアでは小川市長のXに寄せられたコメントとして、「自分でまいた種ですね。しっかり受け止めてください」というものや、「あなたは、自らが前橋の子どもたちの間でラブホ市長と呼ばれていることを知っていますか?あなたの行動は将来世代に悪い影響を与えています」などが紹介されている。だが実際、Xのコメント欄を読んでいくと、思った以上に彼女を応援する声が多いことに驚かされる。ここに小川市長がXのコメント欄を開放した狙いがあるのではないだろうか。
この問題を時系列でみていくと、既婚の市役所男性幹部と複数回ラブホテルを訪れていた問題で、男女の関係は否定した上で「深く反省している」と小川市長が緊急会見を開いて謝罪したのが9月24日。うっすらと目に涙を浮かべ、うなだれた様子で深く謝罪したが、その内容は誰が聞いても素直に納得できるものではなかった。市役所には苦情や無言電話が殺到、電話回線を増設し職員たちは電話対応に追われ、市議会全10会派は速やかに出処進退を決断するよう促した。
10月10日、小川市長は個人事務所にコールセンターを設置。組合側から文書で「落ち着いて仕事ができる環境を求める」と要望を提出され、職員の負担軽減と、市へのクレームや問い合わせを分散させるためというのが理由だった。市役所への問い合わせ電話は9日時点で約7900件。このタイミングで自身のXのコメント欄を開放すれば、辞職要請ばかりで批判の嵐にさらされるから、それはしたくなかったのだろう。さらに自身の事務所にコールセンターが置かれれば、問い合わせ件数や内容は公に見えなくなりやすい。
振り返ってみれば、この時期から辞める気はなかったのだろう。市民の意見を聞く方法の1つと位置づけられていたが、彼女が辞めれば苦情電話はなくなる。コールセンターを設置したのは、メディアの報道とともに高まっていく市民や世間の不満や苦情をガス抜きするためだったのかもしれない。不満や批判は時間とともに沈静化していくものだ。
10月13日には市民の声を聞くとして非公開の「市民対話会」を開催。だが17日には給与50%カットを表明し、続投すると述べた。22日には市議会7会派が小川氏に辞職を要求する文書を提出し、選挙で民意を問うべきとしたが、24日の定例記者会見で「信頼回復に専念する」として続投の意向を表明。「公約を1日でも早く果たしてほしいという市民の言葉をいただき、ここで退くのではなく、掲げた公約を実現することが私に課せられた責任」として「誠実な説明と行動を重ねながら信頼の回復に努めていきたい」と述べた。
疑惑の卒業証書を「私にとっては本物」といまだに主張している学歴詐称疑惑渦中にいる伊東市の田久保真紀市長も、応援する市民の声があると続投を表明した。議会で不信任決議が出ても辞めず、議会を解散し市議選に。ついに31日に招集される市議会臨時会で不信任決議案が可決され失職する見通しだ。
続投を表明した2人に共通するのは、応援する市民の声があるという主張だ。問題が起きてもなお、彼女たちに期待し、信頼を寄せ、応援し続ける人たちはいる。批判され非難されていれば、そのような声を心の支えにしたくなるが人間だろう。さまざまな声や情報が洪水のように押し寄せ渦巻く中では、自分にとって重要な声や情報だけに反応し、そこに注意を向けるという「選択的注意」の傾向が強くなりやすい。市長を辞めたくない彼女たちはこの傾向により、自分を応援する声に注意を向けたはずだ。
24日の会見では信頼回復のため「市民との対話会」を企画していると説明し、対話会での市民の声を自身の去就に反映させる考えだという小川市長。辞職か続投か、「最終的な判断は私自身が結論を下すことになる」と述べるが、支持者が展開しているという続投支持のネット投票も参考にしているという。コールセンターを設置して2週間が経ち、以前ほどメディアで報じられなくなり、もしかすると苦情などの問い合わせが減少してきたとも考えられる。
「期待の声もまだある」という市長にとって、支持者たちの声がどれくらいあるのかを世間に見せるにはXのコメント欄が一番いい方法だったのではないだろうか。そう考えると小川市長という人物はなかなかの策士かもしれない。