ジャーナリストの伊藤詩織さんが、ドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』で承諾なく映像を使用していたとして、タクシー運転手とその家族に謝罪した。
承諾のない映像や音声の使用をめぐっては、タクシー運転手の映像のほか、現場となったホテルの防犯カメラ、捜査官、性被害訴訟の元代理人、集会の参加者などが登場するシーンも問題視されてきた。
10月25日に公表された謝罪文では、これらの点について触れられておらず、性被害訴訟の元代理人側は報道各社にコメントを公表し、伊藤さんに対して説明を求めた。
「タクシー運転手の方と伊藤氏との話し合いがまとまったというのは一歩前進であり、よかったと思います。しかし、その他の問題点についてどのようになっているのかの説明がないのは極めて残念です」
一方、伊藤さん側は弁護士ドットコムニュースの取材に回答を控えるとした。
伊藤さんの謝罪文公表を受けて、元代理人の西広陽子弁護士と加城千波弁護士、両弁護士の代理人の佃克彦弁護士が10月28日、報道各社にコメントを送付した。
西広弁護士らは、昨年10月の記者会見で、承諾のない映像や音声の使用に問題があると指摘し、伊藤さんに説明を求めていた。しかし、タクシー運転手の映像以外の扱いについては、それから1年経った現在も「伊藤さんから説明がない」としている。
「少なくとも、今夏にフランスで発売された映画のディスクを私たちが確認したところ、その内容は、当初から私たちが問題としているオリジナル版のままでした」(西広弁護士らのコメントから)
伊藤さんは今年2月、日本外国特派員協会の記者会見を欠席し、声明で「最新バージョンでは、個人が特定できないようにすべて対処します。今後の海外での上映についても、差し替えなどできる限り対応します」としていた。
しかし、西広弁護士らによると、この声明以降も、海外の航空機内でオリジナル版が上映されていたとの情報があるという。
西広弁護士らは、伊藤さん側との交渉の経緯も明らかにした。
今年9月、伊藤さん側から、本人の口から説明する機会を提案されたものの、それには応じなかったという。
その理由として「自身との会話を無断で録音された西広は、伊藤氏本人との直接のやりとりではなく代理人同士のやりとりを望んで」いることもあり、書面での回答を求め続けたとしている。
「私たちが伊藤氏に対して最初から一貫して求めているのは、“会って謝罪”ということではなく、“許可のとれていない音声・映像は許可をとってほしい。許可がとれないものは編集・削除してほしい”ということです」(コメントから)
西広弁護士らによると、東京都港区の映画館で近々上映されるという情報もあるという。
「私たちはここであらためて、『声明』後も海外でオリジナル版の公表をしたかの点について必要な説明をすることを求めるとともに、私たちが指摘した映像の各問題点についてすみやかに対応されるよう求めます」(コメントから)
弁護士ドットコムニュースが伊藤さん側にも取材したところ、代理人の神原元弁護士は「当方の基本的な考えは2月20日の声明と12月26日の声明をご覧ください。それ以上の点については現時点でのお答えは控えます」とコメントした。
「なお、西広弁護士側には本年2月以来くり返し、修正したバージョンを見てほしい、面談して経緯など説明したいなどの話し合いを求めていますが、残念ながら拒絶されています。弁護士が元依頼者との話し合いを拒絶している状態です」(神原弁護士)
(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)