職場で「女は~すべき」、もしくは「女のくせに~するな」という一方的な決めつけをされ、苦しんだ経験がある女性は少なくないだろう。関東地方に住む伊藤さん(仮名、50代女性)は以前の職場でパソコンのトラブル対応をしていた際、男性管理職から、
「女のくせにパソコンができるわけないだろう。できもしないのに偉そうに言いやがって」
と、いきなり貶されたという。ジェンダーハラスメントに厳しい目が向けられている昨今では、決して許されない暴言だ。
理不尽なハラスメントがまかり通る、異常な職場の実態について、編集部は伊藤さんに話を聞いた。(文:天音琴葉)
これは、伊藤さんがフルタイムパートの保育士として保育園に勤務していた、平成後期の話だ。前職がパソコンの指導員だったため、この職場でもPC関連のトラブル対応をよく頼まれていた。ところが、働き始めて1年目、冒頭の出来事が起きた。
ある日、園児の登降園を管理するシステムに不具合が発生。降園時間までに復旧させる必要があり、対応にあたった伊藤さんは、当時の心境をこう振り返る。
「10時頃から対応を開始し、子どもたちが降園し始める16時までに何とかしないといけないと思っていました」
原因を調べると、ネットワークの設定にパスワードの入力が必要だと判明。パスワードは市内の別の場所にある本部で管理されていたため、伊藤さんは電話で問い合わせた。
電話口で対応した相手は、本部で事務方を仕切る男性管理職で、園長経験もある人だった。であるならば当然、降園までにシステムを復旧させなければならないという切迫した状況を理解できるだろう。
ところが、伊藤さんが「設定にパスワードが必要なのですが」と伝えると、上司は開口一番、「ヒラにパスワードが教えられるわけないだろう」と言い放ったのだ。
入職1年目とは言え、「ヒラ」呼ばわりされたら誰しも嫌な気分になるもの。だが、伊藤さんは業務に支障が出ていることを冷静に説明し、こう食い下がった。
「ネットワーク会社に確認したところ、パスワードが必要と言われました。教えていただけないようでしたらこちらに来て設定していただきたいのですが」
すると、上司は「ヒラが呼びつけるとはどういうつもりだ。そっちに行く暇なんかない」と怒り出した。そこで伊藤さんは謝罪した上で再度、丁寧にお願いした。ところが、事務長はぶつぶつと文句を言いながら、衝撃的な言葉を口にしたのだ。
「まったく女のくせにパソコンができるわけないだろう。できもしないのに偉そうに言いやがって」
たとえ平成後期でも時代錯誤も甚だしい。伊藤さんは「ヒラのくせに」「女のくせに」というパワーハラスメント×ジェンダーハラスメント発言に唖然としたが、刻一刻と降園時間が迫っていた。
「嫌がらせなんだろうなと受け取りましたが、何とかなだめてパスワードを教えてもらわないと困ると考えていました」
そもそも職場には「管理職には口答えはしてはいけないというムード」があり、反論できる雰囲気ではなかったようだ。なお、電話のやり取りを園長や主任などがそばで聞いていたが、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、何のフォローもなかったという。
伊藤さんが孤軍奮闘した結果、上司からパスワードを聞き出すことに成功、システムは無事復旧した。終始、大人の対応に徹したものの、心の中では、
「さんざん文句言いながら、復旧作業をやらせるというのも、どういうつもりなんだと思いました」
と毒づいたのは無理もない。
この件に限らず、事務長や管理職は普段から職員に対して高圧的な態度をとっていた。伊藤さんは、いかに会わないようにするか、考えるようになっていったという。
「ただ、担任を持っていると運動会やお遊戯会などで会わなくてはいけなくなるので、3年目からは短時間パートに切り替えました」
管理職との関わりを減らすため、フルタイムから時短勤務へ変更したが、それでは解消できない問題があったのだろう。結局、その翌年に退職した。
「周囲から『よく4年もがんばったね』といわれる職場でした」
その言葉が示す通り、この職場の問題は山積みだったという。すべての元凶は管理職だった。
「スイカ割りの後、『こっちが金を出したのに、スイカを届けにも来ない』と文句を言ってきたり、行事の最中でも挨拶しない職員を怒鳴りつけたりと、園児より自分たちを最優先する態度でした」
複数の保育園に勤務した伊藤さんだが、今は保育士という仕事そのものを辞めたという。いろいろ思うところがあったのだろう。
「少し前の話なので、今ほどジェンダーに関する発言への空気は厳しくなかったかもしれません。ですが、保育園のような閉鎖された環境では、こんなことがまかり通るのだなと感じました」
業種や職種に関係なく、ジェンダーに関する偏見が今なお根強く残っている職場はあるのではないだろうか。無意識に誰かを傷つけることが無いよう、まずは管理職や経営層が意識を変えていく必要があるだろう。
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