自民党総裁選はやっぱり見ておいたほうがいい。昨年も行われたしメンバーもほぼ同じ。茶番はいつまで続くのか? とシラケている方も多いだろう。しかしそれでも見たほうがいいと思うのは、こういう舞台でやらかす人がいるからだ。
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振り返ってみよう。朝日新聞は総裁選告示5日前に早々と『有力2氏、異なる「総裁への道」 小泉氏・高市氏』と報じた。小泉進次郎氏と高市早苗氏の一騎打ちという体で書いていた。
しかし選挙戦が始まるや「有力2氏」はやらかしてしまう。まず高市氏の「鹿ショック」(by日刊ゲンダイ)である。告示日に自民党本部で開かれた演説会で、高市氏は外国人観光客の一部が「奈良の鹿を足で蹴り上げ、殴って怖がらせる人がいる」と主張。外国人政策の厳格化を訴えた。
高市早苗氏 時事通信社
これは本当なのか? 昨年7月にSNSで拡散された動画を指しているとみられるが(現在は削除)、さっそく東京新聞が取材していた。すると、奈良県庁で奈良公園を所管する部署の担当者は「動画の人物が誰か、外国人であるかどうかは特定されていない」。
さらに「毎日2回、公園を巡回をしているが、観光客による殴る蹴るといった暴力行為は日常的に確認されておらず、通報もない」。暴行行為が頻発しているとの見方を否定した。
高市氏の演説については読売新聞の報道も興味深い(9月23日)。
《陣営でも演説内容に戸惑う声が出ており、党内では「これでは広い支持は見込めなくなるだろう」との受け止めが広がった。》
まさに鹿ショックである。陣営も戸惑うって凄い。批判と疑問が続出して根拠を問われた高市氏は24日の討論会で「自分なりに確認をした」と回答。ただ具体的に何をどのように事実確認したのか詳細は語らなかった(朝日新聞9月25日)。
これだけではない。高市氏には次の発言もあった。
・ 高市氏「外国人、通訳間に合わず不起訴」発言 識者「実態と異なる」(毎日新聞9月26日)
刑事事件を起こした外国人に関し「警察で通訳の手配が間に合わず、不起訴にせざるを得ないとよく聞く」と高市氏が発言したが、法務・検察幹部は「最後まで通訳が確保できなかったという話は聞いたことがない」と語っている。複数の専門家も高市氏の発言を「国のリーダーになる可能性がある政治家の発言は重い。データや具体的な事案があれば示してほしい」「実態と異なる」と述べている。何かを言えば根拠を問われまくる高市氏なのである。
なぜこんなことを言うのか? 各報道では7月の参院選で「日本人ファースト」を掲げた参政党に自民党支持層が流出したとされている。こうした層にウケることを意識したとしたら重要な注目点だ。
というのも6月の東京都議選を現場で見たとき、排外主義的な演説の多さに驚いたことを思い出すからだ。しかも事実とは異なることも平然と言われていた。この流れは7月の参院選でも続くだろうと思い、いろんな候補者に「排外主義的な言説についてどう思うか」と私は聞いて回った。それほど外国人問題は“大化け“していた。そして今回の総裁選では候補者がこぞって「外国人政策」を掲げ、高市氏は初日から演説の半分近くを割いた。
候補者だけではない。報道番組も総裁候補を呼んで「安全安心を…外国人政策は」とテロップを出して尋ねていた(テレビ朝日「報道ステーション」)。いつしか「外国人問題」は経済対策などに匹敵するような扱いとなっていた。アメリカのトランプ大統領がせっせと真偽不明な自説を述べたらメディアが報じることで、まんまと深刻な問題のようになる現象を思い出した。それにしてもキャスターは本人たちが目の前にいるなら「治安悪化」などの根拠をいちいち聞いたほうがいい。
高市氏と言えば、安倍晋三元首相の国葬に関して「反対のSNS発信の8割が隣の大陸からだったという分析が出ている」と述べたという件もあった。三重県議が高市氏の講演内容を記したメモをもとにTwitter(現X)に投稿したのだ。そのあと撤回し、高市氏も否定したが、発言を巡る騒動は今回の鹿ショックを想起させる。
そういえば総務省の行政文書と確認された放送法解釈を巡る資料について、自身にかかわる記述の内容が「捏造」だと繰り返したこともあった。あれも真偽不明のままに終わったが高市氏はこの手の騒動が多すぎないか。かなりの頻度で自身の発言が問われている。
高市氏を支持する方々には「国益」を重視するイメージもあるが、これだけ発言が問われてしまう人が総理総裁になったらそれこそ「国益」が不安になってしまわないか。外国との交渉や会合で真偽不明な発言をぶっ放して混乱を招きそうで心配になってしまう。
では「有力2氏」のもう一人、小泉進次郎氏で安泰かといえばそうではない。初挑戦だった昨年の総裁選は論戦で不安定さを見せて失速した小泉氏。今回、小泉氏の周辺議員は、際立った改革姿勢を封印する戦略を練ったという(朝日新聞9月17日)。持論はほぼ言わないのだ。一体何のためにトップになろうとしているのか不思議だ。

さらにはステマ作戦の発覚である。小泉陣営が「ニコニコ動画」に小泉氏を称賛するコメントを投稿するよう要請するメールを陣営関係者に送っていたという週刊文春報道があった。陣営はおおむね認めた。今でもニコ動を重視している姿勢がちょっと面白かったが、この問題は「ステマ要請」としてSNSなどで炎上している(産経ニュース9月26日)。
文春によると、送ったのは小泉陣営の広報班長を務めた牧島かれん元デジタル相の事務所で、コメント例として「ビジネスエセ保守に負けるな」もあった。高市氏を意識したものと言われている。自民党の他陣営からすると高市氏はそう見えるのか? 今回の行動は野党議員などを匿名のTwitterアカウントで誹謗中傷していた「Dappi」をどうしても思い出す。
「Dappi」と言えば、
《自民党や党職員関係者などが関わっていたと取りざたされた。改革どころが(原文ママ)こういったことばかり引き継ぐ自民党に何を期待しろというのか。》(日刊スポーツ「政界地獄耳」9月27日)
私がそれでも総裁選を見ておいたほうがいいと思うのはこういうことでもある。しかもトップを争うという2人が政治家の命とも言える「言葉」でやらかし、器量も確認できる場となっている。出直しは決してしないであろう自民党総裁選をじっくり見ておいたほうがいい。解党となってしまう前に。
(プチ鹿島)