大阪・関西万博の人気パビリオン「クウェート館」で、入場列を巡って同館スタッフと来場者の間でトラブルが相次いでいたことがJ-CASTニュースの取材で分かった。複数の万博関係者が証言した。
来場者数が増え始めた8月頃からスタッフが来場者に胸を突かれたり、肩を押されたりなど「暴力」を振るわれるケースが多発しており、警察官が駆け付ける事態も起きているという。8月下旬には、警備員が負傷する事故が2回発生し、各1人が負傷したとの話だ。
クウェートは、産油国で国土の大部分が砂漠だ。パビリオンでは、実際の砂漠の砂を使った宝探しや、砂漠をイメージした部屋で寝そべりながら、映像に没入できるドーム型のシアターもあり、万博のパビリオンの中でも屈指の人気を集める。
そのため、同館では予約も受け入れているものの、予約なしの入場列は2時間待ちといった長い待ち時間となっている。周辺に並べる場所も少ないため、入場列を締め切っていることが多かった。
クウェート館周辺の通路は、幅約30mの通路に中央に植栽、端にはパビリオンの入場列のレーンがあり、一番狭い箇所で通路が幅約5mと周辺と比べて狭くなっているところもある。入場列は、ある程度人数が減った段階で開放するシステムを取っており、「なんとしても入りたい」という来場者が一定数、禁止されているにもかかわらず、入場列の周囲に滞留する事態となっていた。滞留する来場者で通行の妨げになる場面も見られ、万博内でも混雑の激しい場所となっている。
万博関係者の話では、8月下旬、列を開放する際に来場者が入場列に殺到し、警備員が倒される事故が2回発生。警備員計2人が腰を打つなどし、数日間勤務できなくなったという。また、負傷には至らなかったものの、同様の事例は何回か発生しているとの証言だ。
完全予約制などの協議は行われていたというが、事故発生後の9月上旬になっても入場列のシステムが変わらず、列に並べなかった不満を持った来場者とスタッフとの間でトラブルが発生する状態が続いた。多いときには1週間で4回程度警察に通報したという証言もある。
また万博関係者によると、入場列を打ち切るタイミングで、その周辺にいた来場者からスタッフに対し、「金を出しているのになぜ入れない」などのカスタマーハラスメント(カスハラ)行為や、腹を立てた来場者から肩を押されたり、胸を突かれたりするなどされるケースがいずれも複数回あった。また、トラブルや列の最後尾に人が滞留したことで、入場列が1時間ほど規制されたことも複数回あったという。
万博協会の高科淳副事務総長は9月15日の定例記者会見で、クウェート館周辺の混雑について「非常に混雑をしていて、列を途中で打ち切っても近くで待機しているという状況が続いている」と述べた。
また完全予約制の導入など予約システムの変更は、各パビリオンの判断に委ねられるとしてこう話した。
その後、J-CASTニュースが万博協会にクウェート館のトラブルについて質問状を送付したところ次のように回答があった。
今回、証言してくれた万博関係者の一人は、対応の遅さを次のように漏らした。
そして、負傷事故から1か月ほど経った9月23日頃からは、トラブルの要因となっていた入場列のオペレーションを変更。入場列をある程度で締め切る方法から、なるべく列をレーンの外であっても伸ばすことを認め、トラブルは解消されてきたという。ただ、29日に現場で確認すると、一転、入場列を締め切るオペレーションに戻り、「ここに並ばないで」と呼び掛けるスタッフの姿が見られた。
記者は9月18日にもクウェート館前を訪れたが、その際、入場列にはラミネートされた注意文が貼られていた。書かれていた内容は、次のようなものだ。
その日は、入場列は締め切られており、警備員が拡声器を使って「立ち止まらないでください。万博協会から禁止されています。移動してください」と呼び掛けていた。ただ、このときは約20人が待機していた。
また、クウェート館の向かいにある当日予約の端末が入る建物の入場列では、スタッフが「大人なので、せめてルールを守ってください」との声が響いていた。
クウェート館の近くで列を待っていた人に話を聞いた。
大阪府池田市の50代パート女性は、クウェート館の混雑を見て「通路が狭い」と話し、こう嘆いていた。
通期パスを購入し、17回目の万博という大阪府枚方市の50代会社員女性は「海外パビリオンはあと7つで制覇できるが、クウェート館には入ることができていない。仕事終わりの18時頃に来ても、本日分が終了していて、『最難関』のパビリオンだと思う」。そして、取材中に入場列が開放されると、女性は駆け足で並び列に駆け込み、入場列に並べたことを喜んでいた。
万博会場とその周辺を警備している大阪府警の会場警察隊に話を聞くと、8月末時点で、会場警察隊の事件・事故の取り扱い件数は約1640件(うち事件は約490件)だった。
来場者と万博スタッフ、来場者同士のトラブルに関して見ると、8月末時点で約210件起きている。4月で約10件、5月、6月で各約40件、7月で約50件、8月で約70件と入場者数の増加ともにトラブルも比例して増加傾向だ。
9月の数字についても「集計はまだだが、このままのペースだと8月の数字を上回る」という。怪我を負った人もいるが、いずれも軽傷とのことだ。また、暴行や傷害の疑いで被害の申告のあった件数(会場警察隊取り扱い)は、8月末時点で約20件あった。
トラブルの内容としては、列に並んでいる場面などで「体が当たった」「足を踏まれた」「傘が当たった」といったものが多いという。
万博で発生した主な犯罪としては、入場口のセキュリティーチェックで刃物などの危険物を所持していたことによる銃刀法違反容疑や軽犯罪法違反容疑、万引きなどの窃盗容疑があったという。
会場警察隊の堀本和貴副隊長は、「来場される方々の楽しい思い出として残る万博になるよう、お互いを思いやった行動をお願いしたい」と呼び掛けた。