事故や事件で人が亡くなった「事故物件」。その響きに「怖い」「気味が悪い」と感じる人は少なくありません。こうした心理的な抵抗感=心理的瑕疵が理由で、所有者は家賃を下げざるを得るケースもあります。そんな中、物件に特殊な機材を設置し、映像や音声、電磁波や温湿度の異常を調べることで“オバケの有無”を科学的に検証する「オバケ調査」を行う不動産コンサルティング会社・カチモードの代表、児玉和俊氏です。本記事では、事故物件の定義や心理的瑕疵について、児玉氏とみつつぐ氏(著、マンガ)による書籍『事故物件の、オバケ調査員 心理的瑕疵物件で起きた本当の話』(Gakken)から一部抜粋して紹介します。

「最近、事故物件に自ら進んで入居を希望される方が増えている」という話を耳にしました。
その理由としては「家賃が安い」「設備が新しい」「自身が望む条件を呑んでくれた」など、事故物件となった部屋の入居を検討している希望者に対して有利な付加価値が付いているケースが多いからなのだそうです。しかし実際には「人の亡くなった部屋に住むのは気持ちが悪い」と思われている方も多くいらっしゃるのではないかと思います。
このような気持ちや嫌悪感を、不動産業界の用語では「心理的瑕疵」といいます。心理的瑕疵が発生する部屋に関しては、例えば賃貸物件の場合、オーナー(貸主)から入居者(借主)へその内容を一定期間、告知をする義務も課されます。では、事故物件の大きな要因となる心理的瑕疵とは、どのようなときに発生するのでしょうか?
賃貸不動産の管理会社に勤務していた時の話です。
ある戸建てに住む老人がいらっしゃいました。随分と歳を重ねられた老人は、身体が弱り、病院の一室で自身の死期を悟ります。そして老人は家族に願ったのです。「最期は自宅で迎えさせて欲しい」と。老人が自宅に移動し、程なくしてその時は訪れました。老人の容態について連絡を受けたご家族は早急に自宅へと集まり、そして医者と共に、眠るように穏やかに息を引きとられるその姿を見守ったのです。
私が管理担当をすることになった戸建て住宅は、元々はオーナーのお父様(亡くなられた老人)が所有されていた家でした。しかしこの度、お父様がご逝去され、お母様もすでに他界されていらっしゃることから、息子であるオーナーが戸建てを相続することとなりました。しかしその戸建てについては現状、使い道がないため、どうにかできないものかと相談を頂戴したのです。
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「空き家のままにしておくのはもったいないし、誰も使っていないと家が傷むから」
そのように考えをまとめられたオーナーは早速、その戸建てを賃貸運用することに決めました。室内リフォーム後、タイミングよく入居者も決定しました。順調な滑り出しです。しかしそれから数か月後、入居者家族のご主人ら1本の電話連絡を受けることになります。
「今借りているこの戸建てで人が亡くなっていると近所の人から聞きました。この家は事故物件なんですか? それならなんで、そんな重要なことを契約前に教えてくれなかったんですか。最初に聞いていればこの家に住むこともなかったのに!」
「家で人が亡くなられたと言われたのですか?」「そう聞きました。もうここには住んでいられない。どうしてくれるんですか!」「すみません。そのことについては私も初耳です。所有者に確認をしますので少々お待ちください」
私はすぐにオーナーに確認しました。
「実は入居者さんから連絡がありまして。それがあまりよい内容ではないのですが…」
「何かあったんですか?」「入居者さんが近所の方から聞いたそうです。オーナーの物件で人が亡くなっていると。事故物件なんじゃないかとお怒りになっています。戸建ての中でどなたかが亡くなった。そのような事実はあるのでしょうか?」
数秒、沈黙の時間が流れます……。
「児玉さん。人が亡くなっているのは事実です」「ッ!」「でも児玉さん。老衰で亡くなった父を、皆で看取っただけなのです。それでも私の家は事故物件となってしまうのですか?」
(そうか…。そういう事だったのか)「いいえ、オーナー。その場合には事故物件とはなりません。それは通常に起こり得ることです」「よかった。それではそのように入居者さんにお伝えください」
そして私は入居者さんに連絡し、事の経緯を説明しました。
「オーナーのお父様が老衰で…。自宅で看取られた…?」
「はい。そうです。その理由を加味し、改めて当社内にて検討したところ、住まわれている戸建ては事故物件ではないと判断しました」
「そうですか…」
「はい。それで…、今後のことについてはいかがいたしますか?」「……その理由であれば何も問題ありません。住み続けさせてもらいます」「承知いたしました。どうもありがとうございます」
近所の人が何と言ったのかはわかりません。しかし、その言葉が原因となり、その言葉を耳にした入居者に心理的瑕疵が発生しかけたのです。
実はこのような人の死に関するやり取りは珍しいことではなく、私が賃貸不動産の管理会社に勤めていた時にも何度も発生し、都度、その場その場で判断をしつつ対応していくという状態が長く続きました。
そして2021年10月、国土交通省より【宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン】が発表されます。これにより、心理的瑕疵の発生する死因やそれを告知する期間などが定められました。
出所:児玉和俊(著)、みつつぐ(著、マンガ)による書籍『事故物件の、オバケ調査員 心理的瑕疵物件で起きた本当の話』(Gakken)より
心理的瑕疵が発生しないとされる死因・老衰・入浴中の転倒や溺死・食事中の誤嚥・持病・心筋梗塞 など
心理的瑕疵が発生するとされる死因・自殺・殺人・腐敗などが発生し特殊清掃を実施した孤独死
さらに入居者や買主に対する告知については「それが賃貸物件の場合には死が発生もしくは発覚した時から概ね3年を経過した後には原則として借主に対してこれを告げなくてもよい(ただし、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではない)」とされました。
事故物件かどうかを見分ける方法としては、部屋探しをする際に確認する物件の募集図面をよく見ることが重要です。備考欄に〈告知事項あり〉と書かれていた場合にはその物件はもしかしたら事故物件なのかもしれません。
しかし、〈告知事項あり〉という文言が書かれていても事故物件ではない場合もあります。それは例えば、そのマンションやアパートの近隣に“特殊な臭い”の出る工場や、“騒音”が発生する建物がある場合などです。
以前、業務用の大型エアコンを稼働させている店舗の隣に建つ分譲マンションの一室を管理させていただいたことがあります。後に分かるのですが、24時間365日エアコンを稼働させているため、それに繋がる室外機も常に動き続け、ブーンという低周波音が鳴り響いていたのです。当初そのことには気づかなかったのですが、先住者の退去後、新しく住み始めた方からの入電でそれは発覚しました。
低周波の聞こえ方には個人差があり、それまで長く住んでいた旧入居者には影響がなかったようなのですが、新しく住み始めた入居者は低周波の鳴り響くその状況に耐えられなかったため、大問題に。なんとか解決の糸口を見つけて対応をしたのですが、その後、その物件の備考欄には〈告知事項あり〉という文言が追加されたのです。
児玉和俊
宅地建物取引士賃貸不動産経営管理士相続支援コンサルタント