「現代ビジネス」が入手した1本の動画。そこに映されているのは、「入居者の奪い合い」が起きている高齢者ビジネスの現状を象徴するようなトラブルだ。
大阪府の介護事業者(以下・K社)は、府内で2つの高齢者施設を運営している。1つはビジネスホテルの数フロアを高齢者に住居として提供する介護サービス事業。そしてもう1つが、マンションタイプのグループホームである。にわかには信じがたいトラブルは、昨年5月、前者のビジネスホテルで起きた。
動画は、ホテルの入り口付近で複数の男女が口論をしている場面から始まる。
K社の職員が、「アンタ、来たらアカンやん! 警察呼んで!」と声を張り上げれば、ホテルに入ろうとする中年女性が、「なんで入ったらアカンの」と応戦。
互いに携帯で動画撮影をしながら、しばらくは押し問答が続いたが、やがて大柄な男性が強引にホテルへの侵入を試み、立ちはだかった職員ともみ合いに……。
「アカン、アカン!」
周囲からあがる悲鳴を意に介さず、大柄な男性は、「開けろや!」と迫る。
無理やりホテルのドアを開けようとする男性の腕がぶつかったのか、職員はいきなり、頭を押さえながら地面に倒れ込んだ。やがて警察が到着し、ホテルに入ろうと押し掛けてきた面々は引き上げていったという――。
彼らはなぜ、高齢者が暮らすホテルへの侵入を試みたのか。K社のオーナーを務める橋本裕子さん(仮名)が驚きの経緯を明かす。
「うちはもともとビジネスホテルの経営を行っていました。しかしコロナ禍で経営が苦しくなったので、せっかくなら空室を介護部屋として利用できればと思い、ホテルを使った介護サービスを約3年前にスタートさせました。
入居者さんにはホテルの一室を自宅として利用してもらい、うちが提携する訪問介護部門がサービスを提供する仕組み。現在、介護、看護を受けている入居者は約25名になります。
ホテルに入ってこようとした人たちは、その入居者さんを、勝手に別の施設に移そうとしていたのです」
K社の名義上の代表は以前、橋本さんの実兄だった。だが、橋本さんによると、資金面や従業員との間でトラブルが頻発したため、株主総会で決議を取り、やむなく兄を代表取締役から解任したのだという。
橋本さんが続ける。
「昨年3月には、兄は解任を不服として訴訟を提起しましたが、棄却されています。ホテルでのトラブルが起きたのは、その提訴の約2ヵ月後。押し掛けてきたのは、兄とその仲間たちです。
兄たちは『親族の委任状がある』と主張し、わざわざ入居者を連れ出すための車イスまで持参していました。しかし、我々に事前の相談もなく、転居先もわからないまま『引き渡せ』なんて異常です。
入居者さんの身体に危害を及ぼす問題ですから、当然、こちらは拒否した。もみ合いになり、うちの職員が兄の仲間から暴行を受けましたが、その人物は傷害の容疑で逮捕されました。これを「連れ去り」と言わず、何と言うんでしょうか」
以降、橋本さんの兄らがK社のホテルに押し掛けることはなくなった。
後編記事『老人ホームからある日突然、入居者が消えた…!怪しいブローカーも大量発生、介護業界で起きている「入居者奪い合い」の実態』へ続く
「週刊現代」2025年09月29日号より
【つづきを読む】老人ホームからある日突然、入居者が消えた…!怪しいブローカーも大量発生、介護業界で起きている「入居者奪い合い」の実態