世界中の航空機の位置を表示するサービス「フライトレーダー24」で、欧州から日本に向かう全日空(ANA)機が北朝鮮上空を飛んでいるように表示される珍事があった。ANAは、飛行したのは「通常通りの経路」だと説明しており、北朝鮮上空の飛行を否定している。
仮にそうだとすればフライトレーダー24の不具合ということになり、アプリのバグや、妨害電波でGPS(全地球測位システム)障害が起きていた可能性も指摘されている。
2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻を受け、日本と欧州を結ぶ路線は、シベリア上空を避けて運航している。特に欧州から日本に向かう便は、ジョージア、アゼルバイジャン、カザフスタンといった中央アジア諸国を経て中国から黄海に抜け、韓国を横断して日本に向かうことが多い。
そういった中で、25年8月23日(現地時間)にベルギーのブリュッセルを出発し、成田空港に向かったNH232便(ボーイング787-9型機)が、通常とは違うルートが表示されているとして、一部で注目を集めている。
フライトレーダー24の表示では、8月24日(日本時間)13時17分頃に中国・丹東市から北朝鮮に入り、27分に平壌市上空を通過、37分に開城市上空を通過し、韓国に抜けたように見える。
ただ、ANA広報部の説明では、「通常通りの経路」で飛行しており、「よって、北朝鮮の上空は飛行しておりませんでした」としている。
フライトレーダー24は、航空機が出す「ADS-B」と呼ばれる空中衝突を回避するための信号を活用する。ADS-Bには航空機の位置情報、高度、管制官と交信する際に使う呼び出し符号(コールサイン)などが含まれる。世界中のボランティアが地上から受信したデータをフライトレーダーのサーバーに送り、それを集計して世界中の航空機の情報を表示する仕組みだ。1つの受信機がカバーできる範囲は半径250~450キロ程度。そのため、海の上や、人が入りにくい土地の上空を飛ぶ航空機はカバーしにくい傾向があったが、20年から、航空機が出したADS-Bを衛星で受信して地上に送る取り組みが本格化し、カバーエリアが広がった。
航空機がADS-Bで送る位置情報は、GPSに代表される衛星測位システム(GNSS)を使って得ている。そのため、GPSに障害が起こると、フライトレーダー24も正しく表示されなくなる可能性が高い。
なお、ADS-Bを利用する類似のサービス「フライトアウェア」でも、北朝鮮上空を通過する経路が表示されており、この日のNH232便が出していたADS-Bに異常があった可能性もある。
異常の原因のひとつとして考えられるのが、北朝鮮による妨害だ。国連の専門機関、国際民間航空機関(ICAO)は25年4月に開いた理事会で、24年10月2日以降、GNSSに対して継続的に発生している電波妨害を「深刻な懸念をもって認識した」とする決定を発表している。決定によると、妨害が起きているのは、欧州から日本に向かう飛行機も通過する仁川飛行情報区(FIR)で、
と、北朝鮮を名指ししている。
この決定は、韓国政府の問題提起を受ける形で行われた。韓国外務省の発表によると、「北朝鮮のGPS無線妨害活動は24年10月2日から25年2月14日にかけて、20以上の国・地域の約4400機の民間航空機に影響を与えた」という。
では、なぜフライトレーダー24では、なぜ北朝鮮上空を飛んでいるように表示されたのか。GPSなどに障害は起きていなかったのか。この点については、ANAは
とのみ回答した。
(J-CASTニュース編集委員 兼 副編集長 工藤博司)