首都圏向けの巨大物流センターが建ち並ぶ千葉県市川市(人口約50万人)の田中甲・市長に驚きの疑惑が浮上した。
【写真】“レンタル”疑惑が浮上している田中甲・市川市長 2022年の市長選当選時
民主党などで代議士を3期務めた田中氏は、前市長の公私混同市政が批判された2022年市長選で、「税金の使われ方を厳しくチェックする」「情報公開の徹底」を掲げて当選し、”改革派市長”と見られている。
ところが、当選するために公選法違反の”禁じ手”を使い、政治資金の収支報告書も杜撰であった疑いが浮かび上がったのだ。【前後編の前編】
疑惑の舞台となったのは前回市長選だ。
出馬したのは田中氏のほか、高級車「テスラ」を公用車にしたり市長室にシャワー室を設置するなどの公私混同批判を浴びた前市長、立憲民主党系の女性千葉県議らで、田中陣営は女性県議を最大のライバルと考えていた。そこで田中氏側は、女性候補に投じられる票を分散させるために、「選挙活動をしない名前だけの女性」をもう1人立候補させ、ライバルの女性県議の票を削る戦術を採ったという。
田中陣営の選対幹部を務めた後援会関係者が証言する。
「絶対に当選したいと田中氏からの依頼があり、有力候補の女性県議から何千票でもいいから削れないかと田中氏と私と別の選対幹部の3人で協議した時、『ダミーの候補者を立てて女性県議を攻撃させたり、女性票を横取りしてみてはどうか』という2馬力選挙のアイデアが出て、田中氏は『勝つためなら何でもやる』と本気になった。それで、一般人から女性有権者に刺さるような候補を見つけるために、私が色々と声をかけ、地方などにも遠征して探しました。
結局、市内の企業で派遣社員として働く4人の子を持つ女性に名前を貸してもらうことになった。選挙用の通称名もこちらで考えました」
市長選には最終的に3人の女性候補を含む6人が出馬。田中氏が”レンタル”した女性候補のA子さんは本名ではなく通称名で立候補して5000票近くを獲得したものの最下位で落選、供託金を没収されている。
しかも、選挙運動は一切しなかったという。
「彼女は選挙公報にプロフィールを載せてポスターに写真を使った以外、選挙活動には一切関わっていない。事務所(連絡先)は田中氏の元秘書のものにした。選挙費用は告示の1か月ほど前に田中氏個人と田中氏が経営する会社を通じて用意され、供託金100万円、ポスターのデザインや印刷費などがそこから賄われた。そのなかには仲介者を通じて現金で支払った彼女への謝礼も含まれています」
証言通りなら衝撃の事実だ。市長がライバルの票を削るために費用丸抱えでダミーの対立候補をレンタルするなど前代未聞だろう。
当時の市長選報道を見ると、全候補者の公約などが紹介される地元紙や地方版の記事でも、A子さんだけが「取材・撮影に応じなかった」という旨の不自然な記載になっている。
市川市選挙管理委員会に提出されたA子さんの選挙運動費用収支報告書を確認すると、「選挙用ポスター印刷代」と「ポスター貼り 選挙公報版下作成料」として合計約86万円を使い、全額「自己資金」で賄ったことになっていた。
真相はどうだったのか。
本誌記者がA子さんに取材を申し込むと、質問には基本的にイエスかノーでしか答えないという条件で取材に応じた。
――田中氏の後援会の方に頼まれて出馬した?
「イエス」
――選挙運動は一切していないのか。
「イエス」
――田中氏本人には会っていない?
「イエス」
さらに後日、選挙運動費用収支報告書と謝礼金についても再取材した。
――選挙費用はいくらかかったのか。
「存じておりません」
――誰が負担したのか。
「存じておりません」
――選挙運動費用収支報告書は作成したか。
「存じておりません」
――出納責任者は誰か知っているか。
「存じておりません」
――市長選出馬の謝礼金はいくらもらったか。
「わからないです」
A子さんは田中陣営の依頼で市長選の候補者として「名義貸し」をしただけで、選挙運動にはノータッチ、選挙費用も自分では把握していないことを認めた。
田中氏の後援会関係者の証言と一致する部分が多い。選挙費用の報告書で出納責任者として記載された人物は、市内にあるジャズバーで演奏する80代のピアニストで、選挙翌年に亡くなっていた。
疑惑は深まるばかりなのである。
政治資金を監視している上脇博之・神戸学院大学教授がこう指摘する。
「田中市長陣営が選挙の費用を全額出し、謝礼も出しているとすれば、『公職の候補者等の寄附の禁止』(公選法199条の2)に抵触する可能性があります。また、女性候補は立候補したが、何もしなかった、お金の処理も報告書にも携わらなかったとすれば、収支報告書が正確に報告されていないとして、公選法189条の『選挙運動に関する収入及び支出の報告書の提出』の規定に違反します。ただし3年以上前の選挙なので、時効にはなりますが」
後編記事《田中甲・市川市長、政治資金報告書の会計責任者に”勝手に元秘書の名義を使った”疑惑 元秘書は「全く知らない」、市長は「連絡を取っていますよ。私は」と証言に食い違い》では、この疑惑について田中市長を直撃、政治資金をめぐる別の疑惑についても報じている。
(後編につづく)
※週刊ポスト2025年10月10日号
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