〈「激混み電車」なのに改善の余地なし! 「埼京線」がJRの混雑度トップに君臨し続ける納得の理由《2024年度・JR路線の混雑度ランキング》〉から続く
国土交通省が例年発表している「混雑率調査」。JR路線や地下鉄・私鉄路線の混雑率(ピーク時の1時間で、輸送人員÷輸送力で算出した数値)が明らかになっている。
【ランキング】「日本一混雑している路線」はどこだ! 各種路線の混雑率を見る
混雑率の目安(国土交通省資料より)
今回は2024年度の調査から「地下鉄・公営・新交通システム」のランキングを見ていく。(全3回の2回目/JR編を読む/民鉄・モノレール編を読む)
まずは3~5位を見てみよう。
3位:都営地下鉄大江戸線(計測区間:中井~東中野)混雑率:155%(2023年:152% 2020年:122% 2019年:161%)

4位:東京メトロ南北線(計測区間:駒込~本駒込)混雑率:152%(2023年:146% 2020年:115% 2019年:159%)

5位:東京メトロ東西線(計測区間:木場~門前仲町)混雑率:150%(2023年:148% 2020年:123% 2019年:199%)
3位の都営大江戸線と5位の東京メトロ東西線は前年から順位変わらず。4位の東京メトロ南北線は利用者が4%ほど増加したことで前年の7位から順位を上げた。
続いて2位を見てみよう。
2位:東京メトロ日比谷線(計測区間:三ノ輪~入谷)混雑率:163%(2023年:162% 2020年:110% 2019年:158%)
コロナ禍前(2019年度)と比較して、多くの地下鉄路線で混雑が緩和される中、日比谷線は混雑率が5ポイント悪化した。ピーク時の輸送人員も4万3068人→4万5550人と増加しており、コロナ禍からの回復が急激で速かった。

混雑の原因は、北千住から日比谷線に直通する東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)や、北千住経由で都心に向かう東京メトロ千代田線にもあるだろう。日比谷線は、北千住で各線からの乗り換え客を受け止める。
しかし、同路線は部分開通が東京五輪前の1961年と早かったこともあり、1編成・7両(13000系)の編成定員は1000人少々。あらゆる設備がコンパクトに作られている。一方、東京五輪開催後の1969年に部分開通した千代田線は10両で約1500人を運べる。
ピーク時の輸送能力は日比谷線の2万7945人に対して千代田線が4万4022人と、実力差が歴然としている。輸送能力が小さい分、日比谷線が混雑するのは当たり前、というわけだ。
そして1位は、次の路線だった。
1位:日暮里・舎人ライナー(計測区間:赤土小学校前~西日暮里)混雑率:177%(2023年:171% 2020年:140% 2019年:189%)
日暮里・舎人ライナーは、JR・私鉄を問わず、計測対象の全路線の中から5年連続で不名誉な「混雑率1位」を記録している。1時間当たりの輸送能力は2023年度の4788人から2024年度は4887人と微増したものの、それを客数の増加が上回って混雑率は前年比で6ポイント上昇した。

日暮里・舎人ライナーが圧倒的に混雑する原因、それは1編成・5両で250人程度という「車両定員の少なさ」にある。この路線はもともと「地下鉄7号線(のちの東京メトロ南北線)」の一部として計画されたものの、周りが未開発であったため地下鉄ルートから外された経緯がある。その結果、定員が少なく無人運転が可能な「新交通システム」(AGT)に変更された。
現状では朝ラッシュ時に3分ほどの間隔で運行しているものの、乗客をまったくさばき切れていないがゆえに、圧倒的な混雑率となっている。もし8両編成・1200人程度を一度に運べる地下鉄として開業していれば、ここまで混み合うことはなかっただろう。
ただ、実は昼間だとガラガラなのが日暮里・舎人ライナーの特徴で、建設費の償還を含めるとずっと赤字が続いている。車庫を拡張すれば増便・増結できるが、あいにく車庫を地下に作ってしまったため、拡張できない。赤字路線のために、もう1カ所車庫を構えたり、地下空間をさらに拡張したりといった判断はしにくい。
苦肉の策として、現在はロングシートで車内スペースを広くとれる車両への置き換えという策を取っている。つまり「ちょっとだけラッシュ時に人を多く乗せられる車両を増やす」程度でしかない。日暮里・舎人ライナーの“トップ独走”は、しばらく続く可能性が高い。

首都圏の各路線を見ると、コロナ禍前後で客足の戻り方に差が出ている。例えば東京メトロ日比谷線や都営浅草線・三田線などはコロナ禍前の輸送人員に戻しているのに対し、東京メトロ有楽町線・半蔵門線・東西線などはコロナ禍前にまったく届かないほど輸送人員が減少、混雑率もすっかり落ち着いている。

半蔵門線は乗り入れ先である東急田園都市線が低迷していることを織り込んでも、乗客が6割ほどに減少、混雑率は2019年度の169%から2024年度は103%と、かなり落差が激しい。
東京メトロ東西線や東急田園都市線など、かつて200%をはるかに越えていた「混雑率の絶対王者」たちのラッシュがことごとく緩和されたことで、混雑が解消しない日暮里・舎人ライナーの混雑率が、相対的に上位に上がってしまった、と言えるだろう。
ただ、来年からは混雑率ランキングに異変が起きるかもしれない。
なぜかというと、東京メトロが導入している「列車混雑計測システム」の精度が向上した銀座線が「98%→147%」、副都心線が「137%→117%」(両路線とも2023年度→2024年度の数値)というように、大きく数値が変わっているからだ。

これまでのシステムは「改札の通過人員」「車両の重量測定で計算」「目視」など、計測方法がバラバラで正確といえなかった。東京メトロが開発した新システムは、人工知能を活用して混雑状況を計測する。最近「NAVITIME」などのアプリで見かける「車両ごとの混み具合表示」も、このシステムによるものだ。
これによって、従来以上に正確な混雑度が今後明らかになるだろう。実際、他路線よりコンパクトな車両の銀座線で朝のラッシュ時にぎゅうぎゅう詰めになりながら「これが混雑率98%なわけないだろうが!」と違和感を持っていた人もいるのではないか。
東京メトロによると、このシステムは有楽町線・南北線などでも導入しており、他路線への導入も進めていくとのこと。新システムの導入や他事業者への外販などで、来年からの混雑率の数値も変わってくるのではないか。
〈1位は「東京」でも「大阪」でもない…意外過ぎ! 日本で“最も混雑率が高い民鉄路線”とは《2024年度・民鉄、モノレール混雑度ランキング》〉へ続く
(宮武 和多哉)