最近なにかと話題の「残価設定ローン(残クレ)」。月々の支払額が抑えられることから、収入・資産に見合わないほどの高級車を購入する人も少なくないようです。そのようななか、現金一括購入が可能でありながら、“あえて”残クレを選択する人も。その理由と残クレの仕組み、メリット・デメリットについて、具体的な事例をもとにみていきましょう。宮路幸人税理士/CFPが「節税」の視点を交えて解説します。
「残価設定ローン」(以下、残クレ)というサービス、最近よく目耳にするという人も多いのではないでしょうか。
車の購入方法には、現金一括購入、カーリース、そして最近注目を集める残クレがあります。
残クレは、車両価格からあらかじめ設定した将来の下取り価格(残価)を差し引き、残りの金額でローンを組む方法です。
この仕組みにより、月々の返済額を抑えることができます。
ただし、通常のマイカーローンと比べて高金利なことが多く、残価分の金利も支払うため、総返済額は多くなる傾向にあります。
そんな残クレを選ぶ人たちがどのような点に魅力を感じているかと言うと、月々の家計負担を軽減しつつ、高級車や最新モデルを購入しやすくなるという点でしょう。
しかし、金利、維持費、残価精算のリスクを理解せずに契約すると、想定外の出費が生じる可能性も。
そこで、筆者のクライアントの事例を交えて、残クレのメリット・デメリットとともに、残クレの利用が“向いている人”についても解説していきます。
筆者のクライアントには、十分な資金を持ちながらも“あえて”残クレを選ぶ人が少なくありません。
たとえば、残クレで新型のアルファードを購入した50代の経営者Aさん(年収約3,000万円、貯金1億円以上)です。
Aさんは都心の高級マンションに住み、休みの日には家族と郊外の別荘へドライブを楽しむ生活を送っています。
収入も多く資産も潤沢なAさんは、現金一括での購入が可能にもかかわらず、なぜあえて残クレを利用したのでしょうか?
AさんはIT企業の社長として多忙な日々を送り、車は単なる移動手段ではなく、ステータスと快適性を求めるアイテムです。
新型アルファードの豪華な内装と先進技術に社用車としての魅力を感じたAさんは、「月々の支払いを抑えることで、自由に使えるまとまった資金を手元に残しておける。それに、事業用として購入するのだから、車両に係る費用は経費として計上できる」と考えました。
Aさんの選択の背景には、残クレのメリットとリスクを十分に理解した戦略があります。
残クレは、ローン満了時の下取り価格(残価)を最終回に据え置くオートローンです。通常のローンに比べて月々の返済額が安くなり、手元にキャッシュを残せます。
ただし、満了時に買い取る場合、支払総額が現金一括や通常のローンより多くなる点には注意が必要です。
残価を下取り価格と相殺する前提のため、ローン満了後に新たに残クレを契約することで、負担を大きく増やすことなく次の車に乗り換えられます。最新技術搭載のモデルを3~5年ごとに楽しみたい人に最適です。
契約満了時の下取り価格が残価を下回ると、追加支払いが必要になる場合があります。
走行距離の増加や車両の損傷が原因で価値が下がると、このリスクが跳ね上がるため注意が必要です。
たとえば、過度な使用で車の状態が悪化すると、数十万円の追加費用が発生する可能性もあります。
カーリースとは異なり、税金、車検、メンテナンス費用は月々の支払いに含まれません。これらの費用は別途準備し、都度支払う必要があります。
憧れの車を購入するということで舞い上がってしまい、自分のキャッシュフローを都合よく試算して維持費を軽視した結果、短期間で泣く泣く手放す羽目になるという話は意外なほどよく耳にします。
ちなみにAさんは、アルファードについて年間約20万円の維持費を予算化しているそうです。
残クレを選択する人が増えた背景として、近年の中古車市場の高騰が追い風となっています。
特にアルファードやランドクルーザーなど値崩れしにくい高級車に多い印象です。これらの車種は需給のひっ迫から一時“プレミア価格”となっていたため、「実質タダで乗れる。上手くいけば儲かる」と考えた人が、資金に余裕がないまま残クレを利用する、というケースが増えたと考えられます。
ただし、中古車市場の変動や車両の状態(走行距離や故障・損傷)によっては損失が出るリスクもあるため、上記のような期待を抱いた安易な購入はお勧めできません。
Aさんのような資金に余裕がありながらも残クレを選択する人は、手持ちの資産を投資や他の運用に回し、車のローン金利以上のリターンを狙う人が多いです。
Aさんは「現金で買うより、投資で増やした方が得」と考え、年5~7%のリターンを目標に運用しています。
また、社用車として購入すれば、燃料、保険、車検などの費用を経費計上できるメリットも。Aさんは「リセールバリューを気にせず好きな車に乗れて、3年ごとに最新モデルに乗り換えられる。残クレは最高ですよ」と笑顔で語ります。
週末のみの使用など、走行距離が少ない場合、残クレの走行距離制限(例: 月1,000km)に収まりやすく、追加料金のリスクが低いです。
反対に、地方などで普段からよく車を利用する、定期的に長距離走行の予定がある人などは向いていないでしょう。
契約満了時に新たな残クレで新車に乗り換えられ、まとまった出費を抑えつつ最新モデルを楽しめます。最新技術やデザインに魅力を感じる人にとっては有効でしょう。ただ、もちろんその場合も自身の資産状況を勘案して判断する必要があります。
残クレについては、近年YouTubeやSNSを中心に賛否両論が飛び交っているサービスです。
特定の人には確かに魅力的ですが、仕組みを理解せずに契約すると、残価精算時に高額な追加支払いが発生するリスクもあります。契約前には、金利、走行距離制限、維持費を慎重に検討し、自分に最適な購入方法を選びましょう。
賢く使えば、残クレは夢の車を手に入れつつ、資金を有効活用する強力なツールになります。Aさんのように、ライフスタイルと資産運用を両立させる戦略を取り入れることで、車購入がよりスマートな選択になるでしょう。
宮路 幸人
宮路幸人税理士事務所
税理士/CFP