海面を覆(おお)い尽くすように広がった無気味な白い物体――。
掲載したのは、神奈川県横浜市の「みなとみらい地区」で大量発生したクラゲの写真だ。撮影日は今年6月中旬。温暖化の影響で海水温が上昇したため、好物のプランクトンが増えクラゲが大量発生したとみられる。近隣に住む60代の男性が話す。
「クラゲは2~3年前から、夏になると横浜の河口で発生しています。ゾッとするほどの数で、初めて見た時は天変地異の前触れかと驚きました。猛暑が年々厳しくなるにつれ、発生頻度が増えているように感じます」
今年も耐えがたいほどの暑い日が続いている。気象庁によると、6月30日に気温35℃以上の猛暑日となったのは全国914の観測地点のうち118。東京では30℃以上の真夏日が、6月としては過去最多の13日を記録した。原因は、高気圧による下降気流が高温の空気を押し下げ閉じ込める「ヒートドーム現象」だとみられる。気象予報士の森田正光氏が解説する。
「日本の夏の暑さには、太平洋高気圧の動きが大きく関係しています。今年は南方の海水温が例年より高く、蒸発した空気が上昇し太平洋高気圧を強めているんです。太平洋高気圧の勢力が強いため、本来なら南に下がる梅雨前線が北へ押しやられている。梅雨明けが早まり、高温の空気は日本列島に閉じ込め続けられることになります」
日本をヒートドーム化しているのは、太平洋高気圧だけではない。異常気象に詳しい三重大学の立花義裕教授が語る。
「中国西部から偏西風に乗ってチベット高気圧が、北海道の北からは南北傾斜高気圧が日本列島に来ています。今年は太平洋高気圧を含めた3つが非常に強力です。このトリプル高気圧により、6月にもかかわらず記録的猛暑になっていたんです。梅雨前線がなくなれば、さらに暑さが厳しくなる。例年以上の猛烈な暑さです。海水温の上昇により海から熱い空気が流れ込み、耐え難い猛暑は8月まで続くでしょう」
現在は35℃以上が猛暑日となり「異常」とされるが、近い将来それが「普通」になるという。立花氏が続ける。
「温暖化が進めば、日本で40℃超えは夏の日常になるでしょう。45℃まで上昇してもおかしくありません。日本は周囲を海に囲まれているので、ジメジメした空気が運ばれ不快感の強さは世界有数です。同じ40℃でも乾燥した内陸の国より日本のほうが、体感温度が高くなります」
総務省消防庁によると、6月16日からの1週間で熱中症により病院へ搬送された患者は全国で8603人にのぼった。前週から実に7637人の増加である。
「熱中症で亡くなる人は年間1000人ほどといわれます。しかし酷暑が原因で心臓や脳などの機能が低下し、命を落とすケースも多い。関連死を含めれば猛暑で亡くなる人は、年間数千人になるとされるんです。異常な暑さが続けば主食の米などが育ちにくくなり、食料自給率の低い日本はたちまち食べ物不足となる。国家としての危機的状況は、戦争が起きている時と同じなんです」(立花氏)
殺人的な猛暑に苦しめられているのは、日本だけではない。ポルトガルでは6月29日に、同月としては過去最高の46.6℃を記録。フランスでは「人命が危ぶまれる」と96県中84県で高温警報が出され、ドイツではライン川の水位が下がり貨物の輸送が滞(とどこお)ってしまったのだ。
国連の事務総長アントニオ・グテーレス氏は、’23年7月の記者会見で次のように人類へ警鐘を鳴らしていた。
「地球温暖化は終わり、地球沸騰(ふっとう)化の時代が来たのです。化石燃料から利益を得るのは止めましょう。(中略)すべての国は、焼けつく暑さ、呼吸ができないほどの高温、命を脅(おびや)かす洪水、干ばつ、猛火から国民を守らなければならない。最悪の事態を回避することはまだ可能です」
国連によると「地球沸騰化」による災害で全世界で年間50万人が死亡、27億人が命の危機に晒(さら)されるというのだ。
人類を脅かす、前例なき灼熱(しゃくねつ)の日々――。「地球沸騰化」を止めるために残された日々は、そう多くはない。
『FRIDAY』2025年7月18日・25日合併号より