《掲げました政策が、当選をしたのだからこの通りにやるということにはなりません》
総理大臣である石破茂氏(68)が、そんな驚きの発言を国会の予算委員会でしたのは昨年12月5日のこと。7月に参院選の投開票が迫る中、この発言がいまSNSなどで
《まさか皆、これ忘れてないよね?》
と蒸し返され、拡散されているという。
自民党は6月9日、夏の参院選の公約に物価高対策として国民1人当たり数万円の現金給付を盛り込む方針を発表した。財源は税収の上振れ分、約3兆円を活用する方向だという。
さらに石破首相は40年に日本の名目GDPを1000兆円まで引き上げる目標を参院選公約に掲げた。国民の平均所得の5割以上の上昇も盛り込むよう求めたという。
過去の石破首相の発言が蒸し返されたことで“そんな公約誰が信じるか”という批判が上がっている。念のため石破首相の発言を切り取らずに挙げると
「当選させていただきました。そこにおいて掲げました政策が、当選をしたのだからこの通りにやるということにはなりません」
と話すと議会内の野党から「えー」と悲鳴が上がる。すると石破首相は
「いや『えー!?』と言うほうが問題で。当選をしたら自分が掲げたこと、『全て我が党はこれでやる』というようなことを私どもの党はやったことがございません。『私は当選したのだから私が選挙中に言ったことを全部実現するぞ』ということは、それは私は一度も存じません」
として当選した議員の公約を党内で議論を重ねながら検討するという趣旨の発言をしたのだ。
しかし一部が切り取られて石破首相が「当選したって公約は守る必要がない」と言ったという極端な解釈がネット上に出回ってしまったようだ。とはいえ、公約に掲げたことを全力で取り組んでもらわないと、有権者にはただの“選挙対策”と受け取られても仕方ないだろう。
自民党の森山裕幹事長は6月8日、徳島市での党会合で、
「新しい財源が今はない。消費税減税は慎重の上にも慎重であるべき」
と話した。自民党内からも消費減税を求める声があったが結局、雲散霧消となった。その割には税収の上振れ分を国民にばら撒くというのはいささか矛盾を感じる。
税収は5年連続で過去最高を更新している。では5年間の上振れ分を使い果たすまで消費税を減税するという選択肢は無いようだ。
それでも、自民党の支持率は少し持ち直している。
「コメ担当大臣である小泉進次郎氏の備蓄米作戦が功を奏し、スーパーでのコメの価格が少し下がった。これが大きかったのか、新聞社の世論調査では少し支持率が微増している。しかしネット上では、石破政権が“一部、遺族年金の大幅カット”、子ども・子育て支援金という名の“独身税”の創設など、“手取りを減らす”ことばかりしている。その一方、中国人留学生に1000万円ほどの支援をしていることなどが話題になり、選挙前の攻防が激しくなりつつありますね」
だが、野党の失速も話題になっている。大本命の国民民主党は不倫や政治資金の使い方が問題視された山尾志桜里氏を擁立したことで劇的に支持率が下がっている。
「自民党が苦しんでいるにもかかわらず、立憲や維新もチャンスを生かせずにパッとしません。結局選挙に行かない若者が増えると、票が割れず、自動的に組織票の多い自民党が勝つ可能性が高いのでは」(テレビ局報道記者)
コメ対策で支持率が少し回復した自民党とパッとしない野党。7月の参院選について専門家はどう見るのか。政治評論家の有馬晴海氏によれば、
「ここにきて自民党が現金給付策を言い出したのは、国民のためというよりは、党内の参院改選組と東京都議会選挙のためですよ。小泉大臣のコメ対策により支持率は少し回復したが、東京都民には全くといっていいほど、備蓄米放出は響いていない。しかも、他の野党はすべて消費税減税を打ちだしており、消費税を下げないと言っているのは自民党だけですからね。そうなると、国民にアピールできるのが給付金しか選択肢がなかったということですよ。ですが、国民からは“選挙対策”と見透かされていますから、効果があるかは疑問でしょうね」
衆院は過半数割れしている与党。参議院でも過半数割れに追い込みたい野党だが、
「立憲は食料品だけ消費税を下げるなど中途半端で、“スモール自民党化”しており支持は伸び悩んでいる。国民民主も山尾志桜里氏などの公認問題や玉木雄一郎代表の備蓄米“エサ発言”でせっかくの勢いが失速している。参院選東京選挙区で当初、国民民主は2人とも当選するのではないかと言われていましたが、今は2人とも落ちる可能性が出てきた。現在、参院では与党が16議席上回っているんですが、5~8席くらいは失うかもしれないけれど、過半数はなんとか維持できる見通しです。野党としては議席を増やす党は出てきても、衆院のように過半数割れには追い込めないのですから、野党の勝利とは言えないでしょうね」(同・有馬晴海氏)
と分析する。
参院選でも、与党は過半数を割るのか。それとも……。とにかく有権者は選挙に行き意思表示をする必要があるだろう。