今年5月29日に回転寿司チェーン「くら寿司」の高級業態となる、プレミアム回転寿司「無添蔵」が東京・中目黒にオープン。どのあたりがくら寿司と違うのか。また、米価格高騰のさなかで関東初出店を決めた理由とは。広報担当に話を聞くとともに、実際に足を運び、店の雰囲気、メニュー、味、価格帯などをレポートする。
【画像】なんと1皿1200円超え。無添蔵が提供する「こぼれすぎのいくら」「殻付きのうに」
2025年5月29日、回転寿司チェーン「くら寿司」が、ハイグレードブランドとしてプレミアム回転寿司「無添蔵(むてんくら)」を中目黒にオープン。今回が関東初出店となる無添蔵だが、いったいどんな店なのか。
店舗は中目黒駅西口から徒歩1~2分ほどの場所にあり、アクセスは良好。看板には「一皿150円~」の文字があり、一皿115円~のくら寿司に比べると、若干高価格なことがわかる。
細い階段をのぼり、のれんをくぐって店の中へ。入口近くには重厚感のある盆栽が飾られており、店内のインテリアは落ち着いた色合いでまとめられている。
店内に足を踏み入れると、照明は全体的に薄暗く、静かに流れるBGMが心地よい。通常のくら寿司とはまったく異なる、ラグジュアリーな雰囲気が漂っている。寿司の回転レーンは健在だが、くら寿司お馴染みのガチャガチャサービス「ビッくらポン!」はナシ。回転寿司店らしさを残しつつも、全体的に大人向けで、落ち着いた印象を受ける。
無添蔵最大の特長は、一般的な回転寿司チェーン店とは一線を画す、高級な寿司ネタの数々。
「生本まぐろ三種盛り」(980円)は自社の子会社で委託養殖したマグロを、一度も冷凍せずにそのままネタとして提供しているそうだ。適度な脂がのった赤身に、口に入れた瞬間とろけるような中トロと大トロ。ネタのサイズも大きく、満足感も抜群。
こだわり抜かれたメニューは他にも。通常のくら寿司ではキャンペーン期間中にしか食べられない特別な寿司が、無添蔵ではレギュラーメニューとして常時提供されている。
その中のひとつ「オーガニックはまち」(380円)は、有機水産養殖にも力を入れているくら寿司ならではの特徴がある。
このお寿司に使われているはまちは、国際的基準を満たす日本初のオーガニックフィッシュとして認証を取得しており、エサや養殖環境にこだわっているので、普通のはまちよりも栄養価が高いらしい。
無添蔵には一皿1000円超えの高級寿司も。こちらは、無添蔵でもっとも高額なメニューのひとつ「こぼれすぎいくら軍艦」(1200円)。ぷりぷりで大粒のいくらが「これでもか」というほど盛られた、“映える”一皿だ。
いくらとくれば食べたくなるのが、こちらも高額メニューの「うに殻盛り」(1200円)。殻の中にうにとシャリが隠れている、目にも楽しい逸品。まろやかで濃厚なうにをたっぷりと味わうことができる。
また、高額なメニューを食すのもいいが、中目黒店限定の特別なラインナップ「朝獲れシリーズ」も見逃せない。
朝5:00に福井県内の漁港で水揚げされた魚を新幹線で輸送し、その日の夕方に店舗で提供するという“超新鮮さ”がウリだ。提供メニューは水揚げ状況によって異なるので、どんな寿司が出てくるかはその日のお楽しみ。
この日に提供されたのは「福井 朝獲れ 真あじ」(380円)。新鮮なあじならではの、淡泊な味わいとコリコリ食感がたまらない。
“大人の隠れ蔵(家)”をイメージしている無添蔵はお酒やおつまみのメニューも充実している。特に、無添蔵厳選の日本酒を楽しめる「純米酒 三種飲み比べ」(980円)と、いわし、ガリ、大葉、芽ネギを有明海苔で巻いた「いわし薬味巻」(480円)の組み合わせが最高。風味豊かな薬味巻は、どの日本酒とも相性ぴったりだ。
ちなみに、通常のくら寿司と同様、無添蔵の寿司もすべてサビ抜きで提供される。わさびを入れたい人は、ぜひ「生本わさび」(280円)を注文してもらいたい。自分で本わさびを削るため、わさび本来の自然な風味を堪能することができる。
関西エリアではすでに4店舗を展開する無添蔵だが、なぜ米価格が高騰しているこのタイミングで東京進出を決めたのか。くら寿司株式会社・広報担当の辻明宏氏に話をうかがった。
「以前から無添蔵の東京進出の構想はあり、テナントは探していました。そんな中、くら寿司の店舗がすぐ近くにあり、くら寿司を出すには少し狭い、この物件が見つかりまして。無添蔵にちょうどいいと思い、出店を決めました。
米価格についてですが、そもそも、米よりも前から水産物の値段が上がり続けています。くら寿司も、数年前からお値段を調整せざるを得なくなりました。正直、地方は物価高騰により夜の遅い時間など、客足が戻らない店舗もあります。
一方の都市型店舗は、地方より最低価格を高めに設定しているのにもかかわらず、おおむね好調。都市部では価値に対して相応の金額を支払ってもらえるとわかり、勝算が見えてきたことも、無添蔵東京進出の後押しになりました」
東京進出にあたり、従来の無添蔵からリブランディングを実施。中目黒店は「日常の中の非日常」をコンセプトに、回転寿司店ならではのよさを残しつつも、高級感を演出することで他店との差別化を図るという。
「コロナ禍以降、店に足を運んでいただくためには、そこでしか体験できない“非日常”を提供することが重要になりました。一説によると、回転寿司店は回転レーンが目の前にあるため会話が生まれやすく、デート向きなのだそうです。
こういう“大人の隠れ家”のような落ち着いた空間で、寿司が流れるレーンを眺めながら、上質な寿司やお酒をゆったりたしなむことができる回転寿司店はなかなかないですよね。そういった点で、一般的な回転寿司チェーン店とも、職人が威勢よく寿司を握るグルメ系回転寿司店とも、隠れ家風居酒屋とも大きく差別化ができると考えています」
回転寿司チェーンの中では高価格帯だが、高級寿司店と比べればかなりリーズナブルな無添蔵。なぜこの値段で、品質のいい魚が提供できるのか。
「弊社では、網にかかった魚は種類や大きさ関係なく、全て一定の価格で買い取る『一船買い』を国内三か所で行い、漁師さんとのパイプも120か所以上持っています。新幹線を使った物流もそうですが、大手ならではのスケールメリットを生かし、クオリティの高いネタを抑えた価格で出すことができています」
通常のくら寿司では、この仕入れ力を生かしきれていなかった部分もあるそうで…
「くら寿司は540店舗以上あるので、貴重な魚はキャンペーンなどの数量限定でしか提供できません。でも無添蔵は店舗数が少ないので、貴重なネタでもレギュラーメニュー化できる。無添蔵では、くら寿司が持つ仕入れのポテンシャルを最大限楽しんでもらえると思います」
いっぽうで、くら寿司と同じようなネタもいくつかあるが、値段は無添蔵のほうが高い。これはなぜか。
「たとえば『えびアボカド』は、くら寿司の都心部での価格が150円なのに対し、無添蔵では280円で提供しています。このふたつの違いは、ネタの大きさにあります。メニューの写真を見比べてもらえればわかるのですが、無添蔵のエビは圧倒的に大きいですよね。
ほかにも、寿司ひとつひとつにハケで出汁醤油を塗ったり、150円の大ばちまぐろ一貫にも丁寧に飾り包丁を入れるなど、無添蔵では、くら寿司では低価格高品質を実現するため、省くことを追求してきた“手間ひま”を、逆にかけています。その分を考えると、コスパ面ではくら寿司と無添蔵はほとんど変わらないのではないかと思います」
最後に、無添蔵の今後の展望について聞いた。
「中目黒店の評価を見つつではありますが、全国の都市部に100店舗は出店できると考えています。次にまた都内で出店するとしたら、食通が集う街、銀座あたりがいいかもしれませんね。物件次第なのでまだ何とも言えませんが、今後の展開を楽しみにしていただきたいと思います」
取材・文/渡辺ありさ