コメ問題へのアプローチ、ただストレスを溜めているだけではうまくない。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。
【写真】食パンのコスパは?
* * *「備蓄米」が熱い注目を集めています。今月頭からスーパーなどに並び始めましたが、発売初日はどこも大行列ができる大人気でした。もちろん安さは魅力的ですが、話のタネに食べてみたいというニーズも大きそうです。
今のタイミングなら、やっぱり不味かったとか意外に美味かったとか、絶好の持ちネタにできますね。モチ米じゃなくてうるち米だけど。こういうノンキなことを言うと、怒りっぽい人から「切実な人もいるのに無神経だ!」「面白がるなんて不謹慎だ!」といった非難のコメントをいただいてしまいそうです。コメだけに。……失礼いたしました。
それはさておき、日本に生まれ育った私たちにとって、ご飯は揺るぎない主食の王様です。だからこそ米の高騰は大問題なわけですが、一食分のご飯がいくらなのかは意識したことがありません。そして、主食の王様であるご飯は、ほかの主食系の食材(うどん、パスタ、そうめんなど)と比べて安いのか高いのかも、ちゃんと考えたことはありません。
こんなことではいけない。一食分のご飯がいくらぐらいかも知らないようでは、ほかの主食系と比較したこともないようでは、米が高いとか安いとかを論じる資格はないと言えるでしょう。さっそく、それぞれ計算してみました。
備蓄米の販売価格は、多くの店で5キロ2000円弱(税抜き、以下同)です。お米一合は約150グラムで、炊き上がりの重量だと約330グラム。定食の普通盛りや牛丼一杯のご飯が200~250グラムなので、一食分に必要な米はだいたい100グラムぐらいでしょうか。5キロで50杯。備蓄米なら一食分40円です(光熱費などは別)。
昨今、スーパーで一般的に売られている米は、5キロ4000円前後。その場合は一食分80円です。魚沼産コシヒカリとなると安くても6000円前後なので、一食分は120円。食べたことがないのでどれだけ味が違うかはよくわかりませんが、さすがにお高いですね。
一食分のご飯の値段がわかったところで、ライバルたちの出番です。うどんにせよパスタにせよそうめんにせよ、安いのから高いのまでさまざま。今回は「お得比べ」なので、近所の大手スーパーでもっとも割安な商品の値段をチェックしてきました。
まずは、うどん。この日は、ひと玉(200グラム)30円の生麺が最安値でした。特売品で、ひと玉18円とかのものも見たことがあります。乾麺もいろいろ並んでいましたが、どんなに安いものでもひと玉30円の生麺よりは“高級品”でした。
パスタは、700グラム248円のものが最安値。一食(100グラム)あたり35円ぐらいです。うどんには及びませんが、備蓄米よりもリーズナブル。そうめんは、600グラム198円のものが最安値で、一食(100グラム)あたり33円です。うどんやパスタやそうめんの小麦粉麺類トリオは、最安値の商品を選べば、どれも「備蓄米よりやや安上がり」ということが判明しました。
ご飯にせよ麺類にせよ、調理するには光熱費がかかるし、おかずや具に関しては贅沢を言い出したらキリがありません。ただ、単品で食べるにしても、ご飯は「塩むすび」というシンプルで安上がりな食べ方がありますが、麺類はスープの素なり麺つゆなり、追加のコストが必要です。そのへんを考えると「いい勝負」と言えるでしょう。
小麦で思い出しました。パンという大事な主食系メンバーを忘れるところでした。スーパーの売り場で見つけた食パン(8枚切りひと袋)の最安値が108円。2枚で一食分とすると27円です。同じ値段の6枚切りを2枚食べた場合は36円。備蓄米や小麦粉麺類トリオとどっこいどっこいです。大手メーカーの「有名な食パン」はひと袋300円ぐらいなので、米で言うと魚沼産コシヒカリ並みの「超高級品」ですね。いわんや専門店の食パンをや。
いっそのこと、パンを自分で焼くのはどうか。売り場に並んでいたパン用小麦(強力粉)の最安値は1キロで398円。6枚切り2枚に必要な小麦を80グラムとして計算すると、一食分30円ちょっとです。ただ、パンを作るには塩や砂糖やバターも必要なので、いちばん安い食パンを買ったほうが安上がりですね。おいしさはさておき。
小麦粉を水で溶かして「ホットケーキ風の何か」を焼く手もあります。パン用よりも安い1キロ358円の薄力小麦粉を80グラム使うとすると、一食分で約29円。お好み焼きを作るときに使う小麦粉は一人前50グラムなので、食べ応えはありそうです。
地道な計算の結果、備蓄米は一食分約40円、うどんもパスタもそうめんも安いものは一食分30~35円ということが判明しました。食パンも「ホットケーキ風の何か」も同じぐらいです。とすると、特売のうどん玉は別格の安さですね。
ここまでわかれば、備蓄米が品切れで買えなかったとしても落ち込む必要はありません。うどんや小麦粉など、ほかの主食系の食材を買い込みましょう。そして、素うどんや素パスタ、素そうめん、あるいは「ホットケーキ風の何か」を食べながら、「自分は今、備蓄米よりもお得な食事をしている」と自分に言い聞かせます。「米がなければ、うどんを食べればいいじゃない」と、貴族になったつもりで呟くのもオススメです。
すると、あら不思議、たちまち優越感や満足感に包まれて、豪華な食事を楽しんでいる気分になれるはず。現実の食卓が見えないように目を閉じて言い聞かせたほうが、たぶん効果的です。そんな工夫と努力で、自分の心の中にたくさんの幸せを備蓄しましょう。