先月、横浜地裁で「引きこもりの自立支援」をうたう業者が訴えられ、裁判所は業者側に88万円の支払いを命じた。この業者は自宅から無理やり連れ出した人々を施設に監禁、精神的な苦痛を与えたと元入所者7人から集団訴訟されていた。このように支援の名のもとに自由を奪う業者は「引き出し屋」と呼ばれている。
【映像】“引き出し屋”に連れ去られた後、監禁状態になった施設での生活とは
「ABEMA Prime」の取材に応じた渡邉豪介さん(37)は被害を受け、集団訴訟した原告の一人だ。今から7年前、30歳のころに自宅にやってきた業者3人によって突如、自宅から連れ出された。かつて勤めた大手通信会社を精神疾患により退職、治療を受けながらアルバイト生活を送っている最中だったが「(呼び鈴の)ピンポンをめちゃくちゃ鳴らしてきた。居留守を使って無視していたが、母に預けていたはずの鍵を使って」自宅内に業者が侵入。「僕らは福祉の人間で、とりあえず話を聞くだけだからと言われた」が、車に乗せられるとチャイルドロックがかかり出られない状態に。そのままどんどん見知らぬ場所へと連れていかれ「これはヤバいやつだ」と自覚した。
渡邉さんが連れされた場所は、他に50人ほどが暮らす謎の施設。一切の自由がなく、ほぼ監禁状態で世間から隔離された世界だった。「ドアを開けるとブザーが鳴るようになっていて自由が奪われた。酷い人はオムツだけ渡されてトイレも行けなかった」。携帯電話や現金、身分証の所持は許されず、生活は計算ドリルや軽い運動など最低限の活動に限定されていた。社会復帰を目指すようなプログラムは一切なく、まさに監禁に近い状況だった。外出も1日1時間だけで、外部との連絡は電話禁止、SNSやメールは制限、手紙も検閲された。閉じ込められてから4カ月が過ぎたころ、渡邉さんは他の入所者7人と一斉に脱出。福祉施設に逃げ込むと、現在は障害年金や生活保護を受けながら一人暮らしをしている。
実はこの業者、無差別に突然やってきたわけではない。きっかけは母だった。渡邉さんと母は同じ病院の医師にかかっており、母が状況を相談したところ、医師がこの業者を母に斡旋、手配したことが後に判明する。
引きこもり状態にある人は、全国に推計で約146万人いる。その中でも「8050問題」が生じており、介護を必要とする80歳超の親と数十年引きこもっている50代の子どもがいる家庭が増えており、親子ともに高齢化することから「9060問題」とまで言われるようになっている。母からすれば、自分の身に何かあってからでは遅いとの判断から「引き出し屋」のような業者に依頼するケースも見られるが、引き出し屋について取材するジャーナリスト・加藤順子氏は「人権侵害行為が支援の名の元に行われているということは明らか」と非難する。「無理やり連れていくこと自体が押し付けで、望まない生活をさせられること自体も押し付け」と語るが、親の心境として「子どもの将来を心配して、プロの支援者に任せた方がいいと思って信じて任せてしまう」ことから被害者が生まれる実態を紹介。「子どもにはいくらでもお金をかけてしまう傾向が見られる。親から受け継いだ遺産をそのまま業者に取られてしまった家庭もあるし、家を売ってまで子どもの自立に期待して業者にお金を入れてしまった人もいる」と述べた。(『ABEMA Prime』より)