「あなたが他界してから精神的に弱くなって薬物を…」
刑務所に収容されている受刑者が犯罪に至った経緯や出所後の夢などを赤裸々につづった手紙を展示するアート展が、東京都墨田区の「京島劇場」を主会場に開かれている。
主催団体は「作品を通じて、受刑者も我々と変わらない存在なんだと感じてもらえたら」と語る。(弁護士ドットコムニュース・玉村勇樹)
手紙の展示は刑務所で過ごす人や関係者の芸術作品を展示する「刑務所アート展」の一環でおこなわれた。
このイベントは芸術活動を通して、刑務所からの社会復帰を後押しする活動に取り組んでいる任意団体「Prison Art Conections(PAC)」が主催。今回で3回目になる。
展示を企画したPACの共同理事、鈴木悠平さんは「本当に伝えたいことのある相手へ実際に手紙を送るのは難しい部分もある。作品という建てつけがあることで、書ける本音もあるのではないかと思った」と話す。
展示されている44通の手紙のうち、43通は現在も刑務所で生活する受刑者のもの。宛名はあえて「あなた」に統一した。
「本来の宛先は家族やパートナーがほとんどだが、それを特定せずに、『あなた』という代名詞にすることでより共感してもらえるのではないかと考えた」(鈴木さん)
誰でも返事を書けるようにと会場には便箋と封筒も用意している。
展示されている手紙の一つ、「東日本大震災で他界したあなた」の書き出しで始まる手紙。
「あなた」が他界してから精神的に弱くなってしまい、薬物に手を出して何度も受刑所に入っていること。そして、今回の受刑生活を最後に「あなた」が残した会社で子どもたちと一緒に仕事をしたいなど、差出人の心境が包み隠さずつづられている。
後半には「人は変わろうと努力すればきっと良い方向に変われる」と赤字で書いてあり、次こそ更生しようという悲壮な決意が滲み出ているように感じられる。
鈴木さんと同じく共同代表をつとめる奈良県立大学講師の風間勇助さんは「犯罪はどうしても凄惨なものやスキャンダラスなものばかりが報道されやすく、刑務所にいる人たちのイメージもそうしたものになりやすい。作品を見てもらうことで、私たちと変わらない存在として感じ取ってもらえるのではないか」と話す。
手紙だけでなく、塀の中から叶えてほしいことも募集し、作品として展示した。「盲導犬の育成をしたい」「剣道を習いたい」など、多種多様な願いを目にすることができる。
「刑務所から届いた作品に対して応答できる方法がないかと企画した。受刑者の社会復帰は決して関わることがないか、がっつり現場でサポートをするかの両極端になってしまう。実はいろんな方法で関われる、関心を向けられるというのを考えるきっかけになれば」と風間さんは語る。
会場にはその他にも、絵画や書、俳句など約200点の多彩な作品が並んでいる。開催時間は午前11時から午後7時、入場無料。6月14日まで。