SNSなどを通じて知り合った男女9人を2か月間で次々と殺害し、社会を震撼(しんかん)させた事件の発生から約8年。
白石隆浩死刑囚(34)の刑が27日、執行された。10~20歳代の若者たちは、ふともらした自殺願望につけ込まれ、無残に将来を絶たれた。被害者の遺族は「このような事件が二度と起きてほしくない」と語った。
「死刑は極めて重大な刑罰だが、慎重かつ厳正に対処した」。午前10時半過ぎ、東京・霞が関で会見した鈴木法相は、23日に執行命令書に署名したことを明かし、「誠に身勝手な理由で9人の尊い命が奪われ、亡くなった方、ご遺族も無念だったと思う」と述べた。
死刑執行は2年11か月ぶり。直近では2022年7月、秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大元死刑囚(執行時39歳)に執行された。長らく行われなかった理由について鈴木法相は、「事件の関係文書を精査した上で、慎重に執行判断をしている」と述べるにとどめた。
白石死刑囚はSNS上で自殺願望を書き込むなどしていた男女を誘い出し、17年8~10月、神奈川県座間市のアパートで9人を殺害。同月末に逮捕され、9人への強盗・強制性交殺人罪などで東京地裁立川支部に起訴された。
1審の裁判員裁判は20年9~12月に開かれた。公判の最大の争点は、自殺願望があったとされる被害者9人が殺害されることを「承諾」していたかどうかで、弁護側は承諾殺人罪などが成立するにとどまると主張した。ただ、白石死刑囚本人は起訴事実を全面的に認め、被告人質問でも「承諾はなかった」と語り、検察側は「前代未聞の猟奇的連続殺人」だとして死刑を求刑した。
同12月15日の判決は、白石死刑囚の法廷供述を基に「承諾はなかった」と判断し、求刑通り死刑とした。弁護人は1審判決を不服として控訴したものの、白石死刑囚が控訴を取り下げ、21年1月5日に死刑が確定した。
事件当時、行方不明になった被害者の捜索などにあたった警視庁の捜査員は「SNSを悪用し、若い被害者を言葉巧みに自宅に誘い込んで殺害した、過去に例を見ない衝撃的な事件だった。死刑執行は一つの区切りではあるが、見ず知らずの男に殺害された被害者の無念は計り知れない」と話した。
事件で高校3年生だった娘(当時17歳)が犠牲になった福島市の男性(70)は27日午前、自宅で読売新聞などの取材に応じ、「(白石死刑囚が)亡くなったことは何も感情が湧いてこない。娘が亡くなったという実感も湧かず、会えない時間が続いているだけだ」と話した。「白石死刑囚には生きて罪を償ってほしかったという思いもある。同じような事件は二度と起きてほしくない」とも語った。