通常運賃とは別にグリーン料金を支払うと利用できるJR在来線のグリーン車。普通車よりも快適なはずのこの車両でも、実は厄介な乗客トラブルが多発している。現役鉄道マンが目撃したグリーン車トラブルの数々を紹介する。(全2回の1回目)
2025年春から中央線快速・青梅線に2階建てのグリーン車が導入されたのは、私たちの記憶に新しい。
1969年に新幹線や特急列車で運用が始まったグリーン車は、通常運賃に加えてグリーン料金を支払うことで利用できる特別車両だ。以前から東海道線や宇都宮線・高崎線、常磐線などの首都圏の在来線でも指定席タイプではないグリーン車が導入されており、座席の確保のしやすさや座り心地の良さから、長距離移動をする乗客を中心に根強い人気を誇っている。
ただ、目的地までの快適な移動を実現するはずのこの車両でも、乗客とのトラブルは後を絶たない。
例えば、車内での料金収受に関するトラブルはそのひとつだ。
グリーン車は、通路などに立っていたとしてもグリーン券代が必要になる。しかし、いまだに一部の乗客はこのルールを理解していない。
車内改札の際、40代くらいの女性がグリーン車の通路に立っていたので声をかけた。
「恐れ入りますが、グリーン券をご提示ください」
すると、女性は「は?」とでも言いたげな表情で私のほうを見た。
「座席に座るつもりないので持っていませんが」
原則、グリーン車は立ち入るだけでもグリーン券が必要になる。ただ、あまりに杓子定規ではかわいそうなので、グリーン券を購入してもらうか、グリーン車から出て行ってもらうか、選択してもらおうと思って改めてルールを伝えた。
「グリーン車は座席に座らなくてもグリーン券が必要です。ホームページや車内でもその旨、注意書きをしておりますし、放送も流しております。もしお支払いが難しいようでしたら普通車に移ってもらえないでしょうか?」
すると突然、女性が声を荒げた。
「座席に座っていないのに別料金を支払う必要があるなんて、アコギな商売ですね!周知しているって言いますけど、そんなの見たことも聞いたこともありませんよ」
しかし、まもなく車内放送が頭上で流れると、空気が一変する。
〈グリーン車をご利用の際にはグリーン券が必要です〉
「今、放送流れましたよね?」
女性は黙り込んでしまった。顔を見ると真っ赤だ。「じゃあ、お金払えばいいんですよね!?」とグリーン券代を支払うと、早歩きで隣のグリーン車両に消えていった。
こうした料金に関するトラブルのほかに、乗客が持ち込んだ食べ物を巡って揉めることもしょっちゅうだ。
同じく車内改札の最中、50代ぐらいのサラリーマンに声をかけられた。
「ほらそこ、2つ前に若い男の人が座ってるでしょう? さっきから肉まん食ってて、くさいんだけど。こういう非常識な人間と一緒になりたくないからグリーン車料金払ってるのに意味ないじゃん。食べるのやめさせてよ」
私は非常に困ってしまった。
エキナカの開発もあり、駅構内では食べ物を扱う店がひと頃に比べて明らかに増えている。実は、この肉まんもそこで売っているのだ。鉄道会社が出店を許した店の商品なのに、「食べないでほしい」と指摘するのは気が引ける。
そもそも、グリーン車での飲食を禁止する規定は旅客営業規則上なく、乗客に指摘したとしても強制力のないお願いベースになってしまうのだ。
ただ、サラリーマンの言い分もごもっともだった。車内には肉まん独特のにおいが充満していて、とても快適とは言えない。さすがに注意しないわけにはいかなかった。
「恐れ入りますが、においの強い食べ物は他のお客さまのご迷惑にもなるので控えていただけないでしょうか」
肉まんを頬張っていた若者は一瞬驚いた顔を見せたものの、すぐに反論してきた。
「いやいや、グリーン車って飲食禁止じゃないですよね!?それとも何か特別なルールでもあるんですか?」
これは若者の言うとおりで、禁止規定はない。一方、グリーン車料金を支払っているからと言って何でも許されるわけでもない。
「確かに強制力はございませんが、列車はお客さまひとりが利用しているわけではなく、他のお客さまにもご利用いただいております。できるだけ多くのお客さまに快適にご利用いただきたいと考えておりますので、繰り返しで恐縮ですが、お控えいただけませんか?」
何かしら暴言を吐かれることも覚悟したが、この若い乗客は素直に注意を聞いてくれたので助かった。
「……わかりました。とりあえず食べかけの肉まんは口に入れさせてください。あとは食べないようにします」
ただ、この若者のように注意を聞き入れてくれる乗客ばかりではないのが実情だ。
強制力がないのをいいことに乗務員に突っかかってくるケースもあれば、他の乗客からの指摘に腹を立てて傷害事件にまで発展したケースもある。におい問題はなかなか厄介なのだ。
他の乗客の食べ物のにおいに耐えられなくなった際は、自分で解決しようとは考えず、トラブル防止のためにも必ず乗務員に声をかけてほしい。
実のところ、今回紹介した2つのエピソードはまだ序の口だ。グリーン車ではもっとひどいトラブルが日々起こっている。
つづく記事〈「若いんだから席を譲れ!」満席のグリーン車で老人が大暴れ…厄介な乗客を一瞬で黙らせた「鉄道乗務員の一言」〉では、信じられないグリーン車トラブルをさらに紹介する。
【つづきを読む】「若いんだから席を譲れ!」満席のグリーン車で老人が大暴れ…厄介な乗客を一瞬で黙らせた「鉄道乗務員の一言」