世間の常識からかけ離れた、意味不明な校則ができてしまうのはなぜなのでしょうか(写真:Graphs/PIXTA)
「男子を欲情させないためポニーテール禁止」「汗をかくので、体操着の下に下着を着用してはいけない」――そんな世間の常識からは乖離したブラック校則が学校には数多く残っています。『教師の本音』から一部抜粋・編集のうえ、その実態に迫ります。
『ブラック校則』はたびたびSNSを賑わせる話題のひとつ。
実は私がショート動画でバズったのは、2020年に出したブラック校則についての動画が、中高生の間で共感を集めたことがキッカケです。なので、ブラック校則問題についてはここ数年、本当に真剣に向き合ってきました。私のSNSを見てブラック校則という言葉を知ったという人も多いと思います。
変な校則というのは昔からありましたが、なんでこんな意味不明な校則ができてしまうのでしょうか?
たとえば、『くるぶしソックス』が出始めた頃の話。
くるぶしぐらいまでの短いソックスは今では当たり前にあるものですが、それが世に広まりはじめた頃、ある体育教師が激怒していました。
「なんだその靴下は! そんなくるぶし丸出しの靴下で運動して、くるぶしをケガしたらどうするんだ!」と。その後、職員会議でこう言ったのです。
「最近、くるぶしソックスが流行っていますが、くるぶしを露出した靴下は運動にふさわしくありませんので、もし履いてくる生徒がいたら注意するようお願いします」
それに対して私は質問しました。
「くるぶしソックスって、スポーツメーカーから出されているものもありますし、陸上選手は昔から履いていますよね? なぜ運動にふさわしくないのですか?」
すると体育教師はこう言ったのです。
「くるぶしを守るためです」
……いや、たとえ長い靴下を履いていたとしても、そこまで防御力は高くないと思うのですが……。しかも「体育の時は半袖・半ズボン!」と言って、肘・膝を丸出しにさせておきながら、なぜくるぶしだけはそこまでして守ろうとするのでしょうか(笑)?
体育教師の声高な主張に対して、他の先生からの反論はなく、結局、くるぶしソックスは禁止になりました。変だと思っている先生もいたはずですが、教員は忙しすぎるので、そこで徹底討論している時間も余力もないのです。
そうして1人の教師がなんの根拠もなく、100%主観で主張したことが、そのまま校則になってしまい、後々まで残ることになってしまったのです。そういうことは、本当によくあります。
髪形もそうです。ブラック校則問題の中でよく話題に上がるのが、『ツーブロック禁止』と『ポニーテール禁止』。
ツーブロックというのは、頭の上の部分は長さを残して、サイドを短く刈り上げた髪形のこと。昔からある髪形なのですが、2020年頃に再びこれが流行りはじめた頃の話です。
ある学校で生徒指導の先生が、「おいお前、なんだその髪形は。そんな髪形許されるか!」と急に言い出したんですね。
それで、そのまま『ツーブロック禁止』という校則になりました。理由なんてありません。ただの主観です。
ところが、ツーブロックはあっという間に全国各地、ほとんどの高校で禁止になりました。なぜかというと、ツーブロックはそれだけ全国で流行っていたからです。
流行りというより、今ではミディアムヘアの男性がツーブロックなんて、むしろもう当たり前になっています。理容師さん曰く「日本人は頭のハチの部分(サイド)が張っているので、ツーブロックにしてサイドのボリュームを抑えないとバランスが悪くなる」とのことです。
だから、高校生に限らず、会社員も、学校の先生だってツーブロックの人もいます。決して奇異な髪形ではないのです。
ところが一部の教員の中には、流行っているもの=よくないもの、という考えが昔からあります。衣服の乱れが心の乱れ、ファッションに気を使っている暇があったら勉強しろ、というのです。
「そんな髪形で入試に行くつもりか!?」と言う教師もいますが、なぜ社会一般で許容されている髪形で行って落とされるのでしょう?
声がデカい一部の先生が流行っているものを敵視したり、主観で決めつけたりして、理不尽なブラック校則をつくっていく。このようなことは、今でも続いています。
ちなみにツーブロックについては、2020年7月に東京都議会で「(都立高校では)なぜツーブロックはダメなのでしょうか?」という質問に対して、当時の教育長が、「外見等が原因で事件や事故に遭うケースなどがございますため、生徒を守る趣旨から、定めているものでございます」と回答し、「ツーブロックが原因で事件や事故に巻き込まれることなんてあるのか?」と大きな話題となりました。
奇しくもこのことがキッカケでブラック校則は世間の関心を集めることとなり、結局、東京都教育委員会は都立高校では「2022年度から理不尽な校則を全廃する」と宣言するに至りました。
『ポニーテール禁止』も、意味不明なブラック校則のひとつ。
鹿児島市の女子生徒が「校則でポニーテールが禁止されているのはなぜか?」と担任に尋ねたところ、「男子がうなじに興奮するから」と返答されたという南日本新聞の記事がYahoo!ニュースにも掲載され、瞬く間に大きな話題となったのです。
その波紋は海外にまでおよび、私のところにも、海外メディアから取材が来ました。
まったく意味のわからない謎ルールですが、教師からすると「あるある」なのです。
さすがに「うなじに欲情する」などとは言いませんが、私が勤務したほとんどの学校でもポニーテールは禁止でした。こういう社会の常識からかけ離れたヘンなルールが、地域限定ではなく、全国規模で存在しているのです。
たとえば生徒が髪を真っ赤にして就職試験に行くとしたら、「それはちょっとマイナスになるんじゃないかな。あなたはどう見られたいの?」という指導をするかもしれません。
もちろん、グローバル化が進む社会の中で、髪色や髪形、そもそも外見的な要素で人を判断するのはよくないという考えもあるでしょう。でも少なくとも今の日本社会では、一般論として、そういう奇抜な髪色は良い印象を与えないことはたしかだと思います。
では、ツーブロックやポニーテールはどうでしょう? ツーブロックなんて、むしろ爽やかで、好印象だと私は感じます。
くるぶしソックスも、ポニーテールもそう。誰がどんな靴下を履いていようが、誰も何も思わないでしょう。学校の謎のルールは世間一般の感覚と乖離しているのです。
「下着は白! 靴下は白! 靴も白!」とかいう校則もそうです。
逆に、一般的には白い靴下はビジネスマナー的にNGとされています。スーツに白い運動靴というのも変でしょう。
ところが学校では制服に、白い靴下、白い運動靴じゃないと「身だしなみがおかしい」と言われます。
下着もそう。特に女性の場合は、白いブラウスに白い下着だと透けてしまうため、あまり好まれないことが多いです。男性でもベージュやグレーの肌着を着用する人も多くなっています。
ところが学校現場では、わざわざ服をめくって調べるほど、なぜか白の下着に異常に執着をしています。白=清潔感がある、という認識なのだと思うのですが、社会で通用しないようなルールをわざわざ押し付ける必要があるのか疑問です。
思春期の女子に関していうと、『体育で下着の着用禁止』という異常なルールが話題になったこともあります。
「汗をかくので、体操着の下に下着(ブラジャー)を着用してはいけない」というルールが川崎市の多くの小学校で存在するということで、2021年に話題になったのです。でも、高学年の女子ともなると、当然、胸が成長してきます。場合によっては、ブラジャーなしで運動したら胸が揺れたり、運動しづらいこともあるでしょう。
なので、ブラジャーの着用を認めるかどうかを、教員がその子の胸を『目視』して判断するというのです。しかも、男性教員がチェックすることもあったそう。
もう完全に人権感覚が狂っています。チェックする本人も、周りの教員も、なぜその異常性に気づかないのでしょうか? 誰かが止めることはできなかったのでしょうか?
ここまで異常な校則を放置した先生方はさすがに罪深いと思いますが、通常の学校に見られるようなブラック校則については、実は多くの先生が「ヘンだな」と思っています。でも、それを変えるには、一部の声のデカい、押しの強い先生と戦わなくてはなりません。先生にはそんな余力もないし、正直そこまで徹底抗戦するメリットが先生個人にあるわけでもありません。
ブラック校則がそのままになってしまうのは、そのためです。
『生理休暇』取得など、世間では女性の生理に対して配慮をすることが当たり前になってきています。
しかし、なんと驚くべきことに、生理でも水泳の授業を休ませてもらえない学校が、実はけっこうあるのです。
水泳の授業をやれるのは6月終わりから7月にかけての3~4週間と、かなり短い期間しかありません。
ところが、思春期ともなると「プールに入りたくない」「水着になりたくない」という子が一定数いて、毎回毎回『生理』という理由で休む子がいるのです。
授業を休むのは、テストを受けていないのと同じですから、当然成績は下がります。でもズル休みを野放しにしておくのもよくないということで、夏休みに補習の時間をつくって、そこで泳がせる学校もあります。
そこまではまだ理解できるのですが、「絶対にズル休みを許さない」という厳しいスタンスの体育教師が時々いるのです。そういう先生の中には「生理で休む」という生徒に、「生理でもタンポンを入れていれば血は出てこないんだから、プールに入りなさい」という人もいます。
これは、さすがに男性教員は言えませんから、女性の体育の先生がそう言うそうです。たとえ女性だとしても民間企業でこれを言ったら、即セクハラ・パワハラ認定されるでしょう。
中には「生理中で休む人はグラウンド3周」とか「腕立て・腹筋・背筋100回ずつ」とか言われる学校もあるそう。生理休暇を導入している世間の動きと逆行するような指導です。
思春期の女の子は、「生理で休みます」と申し出るのも恥ずかしいと言います。そんな中、勇気を出して言ったのに「タンポン入れて入れ」と突き返されてしまう。その時の女子生徒の心中を考えると心が痛くなります。すごくショックを受けると思います。
また思春期の生徒をはずかしめるルールといえば、修学旅行のお風呂場での『全裸水滴チェック』というのがニュースになったこともあります。
これは、浴場から出た後に体がちゃんと拭けていないと、脱衣所の床が濡れてしまうため、水滴がついてないかを教師がチェックするというもの。なんと、担当教師の前で、全裸でバンザイさせてクルリと一周させる学校もあるというのです。まるで強制収容所ですよね?
恐ろしいことにこれが全国各地の学校で行われているのです。これが異常だと気づかない教師は人権感覚が完全に欠如していると思います。
私は2020年からSNSで、「くるぶしソックス禁止っておかしいよね?」「ツーブロック禁止ってなんで?」という話をしはじめました。すると、それに対して中高生からは「そうだよね」「うちの学校もそうです」「どうすればいい?」というコメントが大量に寄せられ、共感を集めたのです。
一方、大人の視聴者からは「えっ、くるぶしソックスって何?」「ツーブロックって禁止なの? 初めて聞いた」という反応がほとんど。それくらい世間の関心は薄かったのです。子どもたちがそんな理不尽な校則に縛り付けられているなんて、多くの大人は気づきもしなかったことでしょう。
ブラック校則は、生徒がいくら声を上げても、それで変わることは滅多にありません。「生徒がワーワー騒いだからルールを変えました」というのは、学校にとって体裁が悪いからです。
では、どうしたらブラック校則を変えることができるかというと、もっとも効果的なのは、保護者が声を上げることです。学校は保護者の声は無視できません。一番効き目があるのは確実に保護者の意見です。
たとえば自分の子どもが生理でもプールを休ませてもらえなかったとか、胸の発育をチェックされたとか、そういうことがあったら、バンバン連絡するべきだと思います。「クレーマーと思われないかしら?」と心配する方も多いですが、そういう理不尽から子どもを守れるのは親だけです。
子どもは適応力が高いため、異常な環境に置かれても、それが変だと気づかずに受け入れてしまうことがあります。大人がいち早く気づき、子どもたちを救ってあげてください。
(静岡の元教師すぎやま : YouTuber、TikToker、LGBTQ、教育評論家)