顧客の貸金庫から、被害総額約17億円相当の現金や金塊を盗んだ三菱UFJ銀行の元行員の裁判が始まった。ギャンブルや投資にのめり込み犯行に及んだ元行員を待ち受けるのは、刑罰だけではない。
***
【写真を見る】「立派な家に住んでいたのに…」 元行員・山崎容疑者の自宅
山崎由香理被告(46)は、貸金庫の管理責任者たる立場を悪用した。勤務していた東京都内2支店で、昨年10月までの4年半に総額10億円超の現金、7億円分の金塊を盗んだのだ。
「今年1月の逮捕から3カ月あまりがたった4月18日、窃盗罪に問われた山崎被告の初公判が東京地裁で開かれました」
と、司法記者が振り返る。
「初公判では、昨年の3月と9月、練馬支店の貸金庫に顧客二人が預けていた約2億8800万円相当の金塊22個を盗んだとする起訴内容のみ審理されました。彼女は“全部認めさせていただきます”と述べ、犯行の動機や状況について争わない姿勢を示したのです」
動機はオンライン競馬やFX取引でつくった損失の穴埋め。消費者ローンにも手を出し、のっぴきならない状況に追い込まれて貸金庫に手をつけたのだった。
「被告はほかにも、転勤先の玉川支店で昨年10月に顧客の現金1650万円を盗んだとして追起訴されています。さらには、練馬支店で別の顧客が預けていた計約9000万円相当の現金や金塊などの窃盗容疑でも追送検されている。結果として立件されたのは、計約6100万円の現金と約3億2700万円相当の金塊26個分となりました」
立件総額は約3億8800万円分。17億円には遠く及ばないのである。
その理由を、先の司法記者が語る。
「貸金庫の中身は利用者以外は知り得ません。なので、現金の額を裏付ける記録などの証拠がない限り、被害者である顧客の自己申告だけで立件するのは困難です。金塊は、偽造防止と商品管理の目的でシリアルナンバーやメーカー名が刻印されているので所有者の追跡が可能。そのため、金塊を中心に立件されました」
顧客側の事情で、捜査機関に中身の詳細を明かしたくないケースもあるが、
「三菱UFJは、基本的に顧客の申告に沿って補償をしています。かかる費用の総額は14億円超となる見込みで、大部分は顧客の現金10億円超を補填するのに充てられる。それ以外は、被告が複数の質屋に質入れしていた金塊を引き出す代金や弁護士費用、事件のあった都内2支店で貸金庫の使用料分を顧客に返金する費用です」
顧客はもちろんのこと、銀行にも巨額の損失を与えた山崎被告に対する量刑は、
「3億8800万円相当の窃盗ならば懲役10年程度の実刑判決が想定されます。立件総額の一部でも弁済すれば刑の減軽があるかもしれません。が、資産家と報じられた夫と今年2月に離婚して今村姓から山崎姓になった彼女は、本籍を練馬区から出身地の埼玉県内に戻している。そこは賃貸住宅で、身寄りは母親だけとされます。やはり弁済は厳しいでしょう」
目下、銀行が準備している損害賠償請求も“被告にとって厳しい”と、メガバンク関係者。
「請求の詳細は分かりませんが、三菱UFJは、現状の被告から取れないと認識した上で損害賠償を請求すると思います。例えば、彼女が刑期を終えて出所した後の給与収入から返済させるといった計画も視野に入れているのでは。つまり“逃げ得”は断じて許さないということです」
法的には、刑に服せば事件自体は終わる。だが彼女がどんなに足掻こうとも、自身が犯した罪の軛(くびき)から解放されることはなさそうだ。
「週刊新潮」2025年5月1・8日号 掲載