インバウンド需要が活性化するなかで、風俗産業にも外国人観光客が集まっている。全国で初めて「インバウンド向け風俗店」が摘発されたが、その裏側はどうなっているのか。その実態をレポートする。
歌舞伎町の雑踏で、キャッチが外国人男性に声をかける。しばらく話した後に連れ立って居酒屋やバーの入る雑居ビルの6階へ。塗装の剥げた扉の先の待合室は欧米、アジアからの観光客と思しき人たちで溢れている。
〈Our shop provides Japanese style service by Japanese girls(私たちの店は日本人の女の子による日本式のサービスを提供します)〉
そう書かれた紙が手渡され、順番に呼ばれて奥の薄暗く狭い部屋に通されていく──。関係者への取材に基づけば、2月初旬にインバウンド向けに売春する場所を提供したとして摘発された歌舞伎町の風俗店「SPARAKU(スパラク)」の店内はそんな様子だったという。
警視庁は同店を含む2店舗を経営する須藤一樹容疑者(54)ら店舗関係者7人を売春防止法違反容疑で逮捕した。
「須藤容疑者は容疑を認め、『日本人女性と安く性交渉できることを売りにしていた』と供述したそうです。客の6~7割は外国人観光客でこれまで11億円の売り上げがあったといいます。店からは米ドルや中国元のほか、アルゼンチン、カタールなど16か国の通貨が押収されました。インバウンド向け風俗店が全国で初めて摘発されたとして大々的に報じられた」(全国紙社会部記者)
外国人観光客をターゲットにした同店は、ほかの風俗店とどう違ったのか。客を呼び入れていたキャッチのひとりが言う。
「スパラクは『メンズエステ』という名目を掲げ、日本語と英語のホームページとLINEの予約システムがありました。だけど、それを見て予約するのは日本人だけ。メインの客層は外国人観光客で、キャッチが客を呼び込む『ちょんの間』のような店。店に入ると在籍している女の子の顔写真パネルを見せられて、選ぶシステムでした。営業も朝方までやっていた」
もう1店舗は店があるビルの階数から、通称「5階」と呼ばれていた。風俗業界関係者が言う。
「スパラクは5年ほど前から営業していたが、『5階』は急増する外国人客に対応するためか、近年新しくできた店でした。歌舞伎町で違法売春は珍しくないけど、(摘発される可能性が高い)店舗型は目立つので多くはない。ただ、言葉の通じない外国人相手に、待ち合わせやホテルの予約を必要とするシステムは難しすぎる。この店はそこを狙ってうろつく外国人に声をかけ、料金の折り合いがつけば案内するという流れでした」
摘発された店舗で働く女性たちは「歌舞伎町」という土地柄ならではの集め方がなされていたという。
「須藤容疑者は、大久保公園周辺で売春の客待ちをする女性を自らスカウトしていた。自転車で大久保公園を回って、女性たちに『立っているのは寒いし、うちの店で働かない?』と声をかけていたのを見ました」(同前)
『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』の著者で客待ちをする女性たちを取材してきたノンフィクションライターの高木瑞穂氏が言う。
「昨年10月に立ちんぼの一斉摘発があってから、赤いベストを着た警察官が2日に1回は巡回し、私服警官の数も増えました。その点、訪日客は警察ではないと類推できるから女性にとって安心してお客にできるようです。最近は多くの立ちんぼ女性が店舗にも在籍するようになりました。店での空き時間を使って公園に立っているのです」
こうした外国人観光客をターゲットにした風俗店は歌舞伎町だけではないようだ。
「インバウンドという言葉が使われるようになった2010年代の初頭には、各地の風俗店は『外国人お断わり』を掲げ、入店を制限していました。それが最近はめっきり減った。むしろ外国人観光客による売り上げをあてにするようになりました」(同前)
ルールが厳しいとされる日本最大の風俗街、東京・吉原でも変化が生じているという。
「吉原にも外国人観光客向けのコーディネーターがいて、慣れていないとわからない手順をサポートしています。『外国人可』の店に案内しますが、最近は訪日客を受け入れない店のほうが少ない。歌舞伎町には『日本人お断わり』を謳う店まで現われたと聞きます。同様の現象は全国に広がっているとされます」(同前)
今回摘発されたインバウンド向け風俗店は、氷山の一角かもしれない。
※週刊ポスト2025年3月28日・4月4日号