「すごい人なのよ。(彼の名前を)検索してみて。いろんな事業をやってることが分かるから」――ある男との出会いで、危険ドラッグにのめり込んでしまった21歳の女性。やがて彼女に最悪の結末が訪れる。2014年に起きた事件の背景をノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『実録 性犯罪ファイル 猟奇事件編』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/続きを読む)
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なぜタワマンに変死体が…? 写真はイメージ getty
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その事件は犯人の沢崎徹(当時35)の母親から、こんな110番通報があったことから発覚した。
「3日前に息子に会ったとき、『交際相手の女の子を殺した』と聞いた。自首するように勧めたが、その後、連絡が取れなくなった。本当に自首したかどうかを調べてほしい」
警察はそのような事実はまったく把握しておらず、管轄の警察署が確認に動くことに。現場は34階建てのタワーマンション。沢崎は12階の一室で、家賃30万円以上を支払って住んでいた。
そこに被害者の西郁美さん(21)の遺体があった。ベッドの上に布団をかけられた状態で横たわっていたが、なぜかその上には宗教関係の本が置かれていた。
沢崎の行方を追ったところ、別の女性とホテルで宿泊中であることが分かった。任意同行を求めて事情を聴いたところ「首を絞めたが、殺す気はなかった」などと供述した。
「それならなぜすぐに救急車を呼ばなかったのか?」
「そ、それは…」
そこには複雑奇怪な、さまざまな“事情”が潜んでいた。
沢崎が郁美さんと知り合ったのは事件の1年半前。当時、郁美さんは卒業目前の短大生で、デパートの紳士服売り場に就職が決まっていた。飲食店で酔客に絡まれていたところを助けてくれたのが沢崎だった。
その場で話をして意気投合。元ホストの沢崎にとって、世間知らずの箱入り娘を口説き落とすなど簡単なことだったようだ。郁美さんは「好きな人ができた」と母親に打ち明け、「その人の家の近くで一人暮らしがしたいの…」とねだった。
「すごい人なのよ。『沢崎徹』という名前で検索してみて。いろんな事業をやってることが分かるから」
母親としては14歳も年上で、高級マンションに住んでいることにも驚き、「そんな派手な人が短大を出たての小娘なんか本気で相手にするはずがない。遊ばれるだけだからやめときなさい」と忠告したが、恋する娘はまったく聞く耳を持たなかった。
「徹さんはそんな人じゃない。ちゃんと働くようになったら、一人暮らししてもいいって言ったよね。今まで我慢してきたんだから、私の好きなようにさせてよ!」
もはや両親は反対できなかった。
一人暮らしを始めてしばらく経った頃、郁美さんが沢崎とのドライブ帰りに実家に立ち寄ったことがあった。そのときも沢崎は車から降りようとせず、挨拶さえしなかった。
「やっぱり遊ばれてるだけなんじゃないのか…」
それから半年ほどが経ち、郁実さんの実家に社会保険が切れたという通知書が届いた。「どういうことなのか?」と郁美さんに問い合わせると、「ごめん…、心配を掛けると思ったから…」と言って、一人暮らしを始めてから今日までの生活の変化を語った。
「徹さんと付き合い始めたことを知って、元カノの一人が自宅や職場に嫌がらせにやってくるようになった。それが原因で過呼吸になり、救急車で運ばれたこともあった。職場には『自主退職してください』と言われた。でも、まだ実家に帰るのはイヤ。もう少しこっちで頑張りたい。昼は徹さんの会社で事務員として雇ってもらっているし、夜はおにぎり屋でアルバイトしているから、食べるものにも困らない。大丈夫だから、心配しないで」
このウソを見抜けなかった両親を責めるのは酷だろうが、実際の生活はさらに違ったのである。
郁美さんは沢崎と付き合い始めてからドラッグを使ってのセックスを覚え、その資金を稼ぐためにSMクラブで働くようになった。

さらに郁美さんは危険ドラッグや覚醒剤にも手を出した。すべてはセックスで強い快感を求めるためである。
〈《懲役9年から一転…》21歳の恋人を失神させようとしたら突然死→裁判では「危険ドラッグによる中毒死」を主張した元ホストはどうなった(2014年の事件)〉へ続く
(諸岡 宏樹/Webオリジナル(外部転載))