兵庫県の斎藤元彦知事の疑惑を調べた第三者委員会が知事のパワハラを認定し、知事の疑惑を告発した元県幹部を県が特定し処分したことを「違法」と断定した問題。斎藤知事は委員会の調査結果公表から1週間たった3月26日、パワハラの指摘は受け入れると表明した。しかし計11件のパワハラに関する自身へのおとがめはしないとし、告発者つぶしの違法指摘は「さまざまな意見がある」として聞き入れない姿勢を明確にした。
〈画像〉記者会見でパワハラについてお詫びし頭を下げる斎藤元彦知事
第三者委は3月19日に、職員を叱りつけたりした10件をパワハラと認めた報告書を公表している。さらにパワハラを含め7項目の知事や側近らの疑惑を昨年3月に外部に文書で告発した後、自死した元西播磨県民局長・Aさん(享年60)を斎藤知事が昨年3月の会見で「公務員失格」「八百」と非難したこともパワハラにあたると指摘。
斎藤知事が側近らに指示して匿名で疑惑を知らせたAさんを、告発者と特定し処分したことは、公益通報者保護法違反だと断定している。
兵庫県議会最終日だった3月26日の正午まえ、浜田知昭議長が閉会のあいさつでこのことに言及し、斎藤知事に対し、同じくパワハラなどを問題視した県議会調査特別委員会(百条委)の調査報告と第三者委の報告について「内容を重く受け止め、それぞれの指摘に対して真摯に向かい合い早急にご自身の言葉で説明責任を果たされることを望みます」と異例の要求をした。
これを受けた斎藤知事は最後のあいさつで、
「政策を前に進めるために一心不乱にこの3年間力を尽くしたとはいえ、その過程において至らない点があったということも事実でございます。とりわけ職員の皆様には不快な思いや負担をかけてしまったことを心からお詫びをします」
と言って頭を下げた。
「斎藤知事が一連の疑惑の一部でも認めてお詫びを口にしたのは初めて」(県職員)。だが、その範囲はパワハラ問題だけに限定されたもので、公益通報者保護法に違反するとの指摘について言及はない。
「斎藤知事は第三者委の報告から1週間、『内容を精査する』と言って、受け止めを公にすることを避け続けてきました。結局議会の終了を待ち、同日午後に会見で考えを述べることになりました」(地元記者)
その会見の冒頭発言で斎藤知事はまず、Aさんが挙げた7項目の疑惑のうち6つについて、第三者委員会が事実とは認められなかったと指摘したことを強調。
その6項目の内容と第三者委の評価を順番に読み上げ、Aさんの告発文書で疑惑の当事者として県幹部や県内企業の実名を書いたことを挙げて「実名を挙げられた職員や企業、団体の名誉が回復され、良かったというふうに受け止めております」と繰り返した。
そして話が7番目のパワハラに差し掛かると、
「知事就任後、県政改革やより良い県政運営を追求していきたいという高い要求水準を有していました。そのため職員に対して厳しい言葉などで必要と考える注意や指導などを行ってきたということです。
しかし今回、第三者委員会としてのパワハラに該当するという指摘については、私自身も真摯に受け止めたいというふうに考えております。不快な思い、そして負担に思われた職員に対しましては、改めてお詫びと謝罪を申し上げたいと思います」
と述べた。
指摘を真摯に受け止めるとは、結局パワハラをしたと認めるのか、と聞かれると、
「その第三者委員会としてのパワハラの、やっぱり認定については認めていきたいという風に思ってます」
と応じ、職員を叱責するなどした10件とAさんを会見で非難したことの計11件について、パワハラを行なったと明確に認めた。これまで「業務上、必要な指導はした」と繰り返してきた主張を撤回した形だ。
いっぽう斎藤知事は、Aさんの調査や処分は「問題はなかった」と従来の主張を維持し、告発者つぶしの「違法」だと指弾した第三者委員会の判断を突っぱねる姿勢を明確にした。
斎藤知事は冒頭発言の最後として公益通報者保護法違反問題に差し掛かると、
「(違法かどうかの)主要論点については、第三者委員会の調査や視点からの指摘は尊重させていただきたいという風に思っております」と切り出しながら、「一方で、各論点については、司法専門家などによってもさまざまな考え方や意見があるというものです」と続け、違法だとする委員会の主張をひとつひとつ挙げて反論。
その上で、
「今回の初動の対応は、確かに後から見ればさまざまな課題は指摘されているというふうにしても、当時の判断としてはやむを得ない適切な対応だったという風に考えています。
懲戒処分という人事上最も重い行政行為について、県としては弁護士の助言ももらいながら手続き、内容ともに適切に進めてきたというもので、県としては適切だったというふうに考えております」と断言した。
「第三者委のパワハラ指摘は、違法かどうかまで踏み込んでおらず、『ごめんなさい。今後は気をつけます』と言えばそれ以上は突っ込みにくい。ところが通報者つぶしは“違法”とまで言われているので、認めると法的責任が生じるとみて、徹底的に認めない、という態度をとった形です。斎藤知事が最小限のお詫びをしながらこの危機を切り抜けるにはこの方法しかないだろうと思われていた、その通りの戦術ですね」(県職員)
斎藤知事は3月4日に公表された百条委の報告書を「一つの見解」と述べて一蹴し、県議会が9か月間かけた調査を軽視しているとの批判を浴びた。「今回は第三者委員会の違法指摘を“さまざまな考え方”の一つだとして自分は採用しないと主張しています。言い方が変わっただけです」(同県職員)
こうしてパワハラだけに絞って問題があったと認めた斎藤知事だが、これに関しても自身への処分はしない姿勢だ。自身の身の処し方について斎藤知事は、
「アンガーマネージメントを含むハラスメント研修を定期的に受講するとともに、ハラスメントのない風通しの良い職場づくり、再発防止に向けまして取り組んでいきたいというふうに考えております」
とだけ表明。これには「公務員が11件のパワハラを認定されたら処分なしではすまない。知事は別というのでしょうか」(県職員)と怒りの声も出ている。
記者会見では「一連の報告書を受け自身への処分は検討しないのか」との質問も飛んだが、これにも斎藤知事は「やっぱり襟を正して仕事をしっかりしていくということが大事だと思います。反省すべきところは反省して、改めるべきところは改めていきながら仕事を前に進めていくという態度を示させていただくことが自分の身の処し方、責任の取り方だという風に思ってます」と応答。
「第三者委員会は裁判官経験者も含めた弁護士らで構成されています。会見の最後には『あなたのやってることは違法行為だ』と裁判官経験者から言われた公職者が、辞職以外の身の処し方があるのか、との質問まで出ましたが、斎藤知事は『まあ、そういったご指摘は真摯に受け止めます』とだけ答えました。自分への処分は一切しないとの宣言ですね、呆れますわ」(別の県職員)
自らが設置した第三者委員会の指摘を斎藤知事が受け入れなかったことで、兵庫県政の混迷はさらに深まっている。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班