3月11日午前10時、東京都高田馬場駅周辺の路上で、ライブ配信サービス「ふわっち」の人気ライバー(配信者)である「最上あい」こと佐藤愛里さん(22歳)が、最上さんのリスナーであった高野健一容疑者に刺殺されるというセンセーショナルな事件が起こった。
佐藤さんは高野容疑者に250万円を超える借金があり、度重なる催促を無視され生活苦に陥ったことから犯行に及んだとみられている。
「めちゃくちゃ怖い…でももしかしたら自分も同じような目に遭っていたかも」と伏し目がちに話してくれたのは、元ライバーのあゆみさん(29歳・仮名)だ。
あゆみさんがライブ配信をしていたのは1年ほど前。月に30万円~40万円ほど稼いでいたという。
「私は今回の事件の被害者の方とは違うアプリでしたが、昼間バイトをしながら隙間時間…とはいっても週に4日から多いと6日は配信していました」
ライブ配信事務所に所属し、配信のイロハを教えてもらったそうだが「正直、自分1人でもできたかな」と話す。
「アプリの使い方やリスナー(視聴者)のあしらい方を教えてはくれましたが、自分一人でもネットで検索すれば調べられるような情報でしたね(苦笑)。結局ライブ配信は、やっていくうちにコツを掴んでくるし、だんだん事務所に質問することもなくなってくるというか…。それでいて毎月キチンとバックを取られていたので、正直不満はありました」
不満を言いつつも配信自体は2年以上続けたそうだ。
「最初の3ヶ月の収入は、月3万円程度でした。あんまり稼げないなぁと思っていた時に、すごく投げ銭してくれるリスナーが現れました」
ライブ配信は長時間続けたからといって稼げるわけではなく、結局のところ短時間でも沢山投げ銭してくれる人がいれば稼げるシステムだという。
「そのリスナーのAさんは毎回来てくれて、来れない日は前日に『明日はどうしても無理だから』と、いつもの2倍とか3倍課金してくれるような人でした。私の配信は彼で持っているようなもの。彼がきてくれているから成り立っていました。他のリスナーたちも『Aさん!』『Aさんいつもさすがです!』と神扱いでした」
他のリスナーの課金額は、毎日多い人でも1000円前後。神リスナーのAさんは毎日最低2万円以上投げてくれていたようだが「素性は全く知らなかった」とあゆみさんはいう。
「一体なんの仕事をしているんだろう? と不思議でしたが、特に触れていませんでした。連絡先もLINEとかは交換していなくて、ライブ配信の宣伝用のInstagramでメッセージのやり取りくらいでした」
LINEも聞いてこず、過剰な連絡もなく毎日2万円以上投げ銭してくれて、さらに周りのリスナーからの嫉妬もない。最高な環境ではないだろうか。
「はい。でもAさんの課金額が徐々に減ってきたんです。毎日2万円だったのが、17000円になり、15000円になり…。最初は、毎日1000円しか投げなかったリスナーたちが頑張って補填してくれていたんですが、そう長くは続かず…」
あゆみさんの配信は盛り上がりに欠けるようになり、次第に収入も減少しはじめる。
「完全にAさんに依存していたので、メッセージで聞いたんです。『最近あまり投げてくれないね。他にお気に入りできちゃった?』って。そしたら『実はもうお金がない。あゆみに一目惚れして、なんとかしてあげたくて、給料のほとんどと貯金を崩して課金してきたんだけど、もう半年前からキャッシングして投げている』って言うんです」
あゆみさんは怖くなり、所属している事務所のマネージャーに「どうしたらいいですか?」と聞くも「どうもしなくていいよ」との返答があったそうだ。
「そのマネージャー曰く『こういうことは多い』と。いわゆるライバーにのめり込みすぎて、“パンク” してしまうリスナーは少なくないそうです。『借金してまで投げて』とあゆみさんが言ったわけではないから問題ないと助言されました」
気にせず配信を続けていたところ、またAさんの課金額は戻ったが、毎日のようにInstagramのメッセージで「今日は○○に10万円借りました!あゆみさんの笑顔のためです」「明日、マンションの査定をします」という困窮ぶりを伝えてきたという。
「怖くなっちゃったんですが、マネージャーは『そこまでしてくれてありがとう』でいいとしか言わないし、急に配信をやめても生活が苦しい。どうしよう…って思っていた矢先にAさんから『マンションの査定が終わりました。1000万円投げるので、僕と結婚してください』というメッセージが来ました」
あゆみさんはゾッとし返信も返さず、配信を辞めたそうだ。
「本当に急に何の発表もなく辞めたので、Aさんにも他のリスナーさんにも申し訳なかったんですが、怖くて続けられませんでした。ライバーの友人に話したら『もったいない! どうしようかな~とか言って、引っ張ればよかったのに!』と言われましたけど、もうこれ以上続けたらやばい! という気持ちが勝りました」
事務所にも「また違うアプリで配信したら?」と打診されているそうだが、今回の事件のニュースを見て「やっぱりもう2度とやらない」と真顔だ。
「ケースは違いますが、私もあのままAさんに課金させ続けていたら事件になっていたのかもしれない…。誰か一人のリスナーに依存せず、大人数のリスナーに支えてもらえるようになれたらいいんでしょうけど、私にはそこまで裁量がなかったし…」
現役ライバーのえりなさん(37歳・仮名)も、今回の事件を見て「私も殺されるかもしれない…」と青ざめたという。
「ライブ配信は画面越しにコミュニケーションを取るアプリとはいえ、沢山投げ銭をしてくれる人の中には『リアルに会いたい』という人が多い。私は、ある一定の額を投げてくれたら食事までOKにしていました」
だが、課金するだけしても「別にリアルで会わなくてもいい」という人もいれば「課金してあげるから先に会って」という猛者もいるようだ。
「リアルで会おうとしない人はマジで神! そういう人だけだったら最高なんですが、なかなか現実は甘くない。先に会いたい勢は完全無視しますが、中には本当に投げてくれそうな人もいて悩んだこともありましたねぇ」
えりなさんにもあゆみさん同様、毎日数万円投げてくれる太いリスナーがいるようで「もう2000万円くらい投げてもらいました」と話す。毎月2回ほどランチに行き、毎日ラインでやり取り。性的な交渉もないため「ストレスもなかった」というが…。
「ある日、急にLINE電話がきたからおかしいなって思ったら、奥様からでした。実は私財や別荘までも勝手に売却していて、調べたら全部私に投げ銭していたと。それで奥さんがかなりヒステリックに『今まで旦那があんたに使った投げ銭を全部返せ』っていうんですよ。最初はひら謝りしていたけど、私も気が強いからブチ切れちゃって『私は全く頼んでいません! 旦那さんが勝手に投げただけ!』と言ってガチャ切りしました」
「面倒くさい」と、Bさんを配信アプリもLINEもブロックし、気にせず配信を続けてきたえりなさん。
「そしたら急にまたよく投げるリスナーきたなぁと思ったらBさんの新しいアカウントでした(笑)。『嫁のことは気にしないでくれ』って。私としては、投げてくれるし、いい人だからいてくれる分には問題ない。OKして、今度はバレないようにpaypayでメッセージのやり取りをしていました」
また毎月のランチも復活した頃、今度は知らない電話番号から電話がきた。
「探偵でも使ったのか、奥様からでした。また怒鳴られて『もうお金がないから、主人をブロックしてくれ』って散々言われたけど『だから私は誘ってないですよ』と毅然とした態度をとっていました」
それからも色々な番号で毎日のように電話攻撃が続き、最終的には「殺してやる!!!」と奥様に叫ばれたようだ。
「話半分にしか聞いていませんでしたが、奥様は精神的にきてる感じでした。でもこちらとしても(投げ銭するのを)頼んでいるわけではないし、Bさんは『嫁のことは気にしないで。借金は虚言だよ』というばかり。ただの奥様の嫉妬ならいいけど、本当に家計が火の車だったら…と考えたら私も彼女に殺されてしまう可能性はありますよね?」
そうこう言いつつも、えりなさんはBさんのおかげもありライブ配信で月80万円以上稼いでおり「なかなか急に辞めれない」と苦笑する。
「メンタル的にはきついこともあるけど、自宅でできるライブ配信は自分にあっていてすごく楽。Bさんを徹底的にブロックして配信をしても、普通のOLよりは全然稼げる自信はありますが、うーん。配信の中で他ライバーと競ったりするんですがBさんが抜けると、明らかに「落ちた」感は出てしまう。それはちょっと恥ずかしいっていうのもあって…変なプライドじゃないですけど。本人が良いって言ってるんだから、もう良いんじゃないかなぁという気持ちもありました」
だが、この事件の報道の直後に奥様から「最終通告」なる手紙が届いたそうだ。
「探偵を使ったのか、家もバレてしましたね…。奥様からしたら、今回の騒動は私を脅す良い材料となったんではないでしょうか」
えりなさんは再度Bさんをブロックしたが「今後もライブ配信を続けていく上で、リスナーとの金銭トラブルは避けては通れない道なのかもしれない」と俯く。
「Bさんに限らず、今まで多く投げ銭をしてくれる人は幾度となくトラブルがありました。スマホ1台で簡単に出来る反面、リスクは大きい。何も求めず投げ銭だけしてくれるお金持ちリスナーを捕まえられたらラッキーですが、もうそれはガチャでしかない(苦笑)。本当に危険と隣り合わせだっていうことを今回の事件で学びました」
スマホ1台で誰でも簡単に参入できるライブ配信。だが誰でも簡単に稼げるわけでもなく、稼げた後にも個人間のトラブルが起きないとは言い難い。
いま一度、リスクについて考え直す時が来たのかもしれない。
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