「これは40年前後使用された水道管の内部です。元々きれいな空洞だったのに、水垢や不純物が大量に堆積し、腐食が進んでいます。これを放置していると、漏水したり破損が生じたりして、大事故につながるのです」
大阪市で配水管の整備事業を営む男性A氏は、ため息混じりに打ち明けた。
日本の水道インフラに異変が生じている。1月28日、埼玉県八潮市の道路が突然陥没。直径約10m、深さ約5mの穴に、74歳の男性が運転していた2tトラックが落下した。陥没の原因とみられているのが、下水道管の破損と漏水だ。
この事故から約2週間後、大阪府堺市の堺区と美原区で相次いで水道管が破損。断水や道路の通行止めなどの被害が出た。大阪市水道局の元職員の男性B氏が語気を強めながら指摘する。
「水道管の耐用年数は40~50年が目安と言われています。本来であれば、耐用年数を超える前に新しいものと取り換えなければならない。しかし、大阪の水道管の多くが老朽化して腐食したまま放置されているんです」
大阪市の惨状がよくわかる指標としてB氏が挙げたのが、「新しく入れ替えた配水管の距離」の減少だ。
「適切に入れ替えるには、毎年70~80劼阿蕕い離據璽垢膿靴靴た綟惨匹鯢枩澆靴覆韻譴个い韻泙擦鵝10年ほど前まではこのペースが維持されていました。しかし、ここ数年は40~60劼曚匹僕遒舛討い襦『令和5年度大阪市水道事業会計決算書』では総布設距離は約45劼犯省近くに落ちている。それだけボロボロの水道管が残っていることになる」
深刻さを表す指標は布設距離だけではない。冒頭のA氏は、「工事件数そのものも減少している」と嘆く。
「たとえば’19年度、大阪市が民間の業者に発注した水道管の布設工事は90件ほどありました。しかし、ここ数年でどんどん数が減り、’23年度には62件に減っています。業者や水道局職員の間では、大阪・関西万博の工事に予算がもっていかれているからだと囁(ささや)かれています。工事数が減少したことで、経営が苦しくなっている業者もいます」
A氏は、自身の災害経験を引き合いに出してこう警鐘を鳴らした。
「阪神・淡路大震災の時、水道管の破損が火災の消火活動に遅れをもたらし、甚大な被害が生まれました。経年劣化した水道管はもちろん、耐震基準に満たないものもいち早く入れ替えるべきです。もし今、南海トラフ地震が起きたら、まともに消火活動が行えず、大阪は火の海になってしまいます……」
なぜ総布設距離が減少しているのか。大阪市水道局工務部はこう回答した。
「経年化が最も進行し、過去の地震での被害率も非常に高い『普通・高級鋳鉄管』という種類の水道管の解消を最優先で進めています。中でも、口径の大きい基幹管路については、更新ペースアップを図っています。また、口径の小さい配水支管については、過去の調査結果等により設定した使用可能年数に基づいて今後の更新需要を算出したうえで、当面の更新ペースを年平均で約45劼叛瀋蠅靴討い泙后今後については、合計で年平均約53劼隆貧更新を行っていく予定としているところです」
だがA氏は「53劼旅洪靴任呂泙辰燭足りません」と反論するのだった。
だいち災害リスク研究所の横山芳春所長はこう指摘する。
「陥没事故が起きた八潮市は地盤が軟弱な地域でした。地盤が弱いと、下水道管破損によって、土砂が水道管の中に流れ込んで道路の下に空洞ができてしまう。その結果、道路が車などの重みや振動に耐えきれず、陥没が発生したとみられます。大阪府は埋め立て地が多く、かつては海が内陸まで入り込んでいたので、地盤が軟弱な地域が多い。万博の会場も埋立地です。大阪は他府県よりも一層、水道管の老朽化リスクに備えねばならない」
現場の切迫した警告を、横山英幸市長(43)や吉村洋文知事(49)はどう聞くか。
『FRIDAY』2025年3月7日号より