すかいらーくグループが運営する人気しゃぶしゃぶ食べ放題チェーン「しゃぶ葉」で、ネコ型配膳ロボットが運んでいる、別の客の料理を横取りする客の存在が、SNSで話題となっている。みんなが笑顔になれるはずの食べ放題で、いったいなぜこんなことが起きているのか? 食べ放題とはいえ料理の横取りについて弁護士に解説してもらった。
【画像】すかいらーくグループの猫型配膳ロボット、配膳と同時に空いた皿なども下げる
「しゃぶ葉」で発生しているトラブルが耳目を集めている。
2月26日、X(旧・Twitter)に投稿されたあるポストが多くのユーザーに拡散され、利用者のマナー低下が嘆かれているのだ。
〈しゃぶ葉、確かに安いんだけど、最安価コース(豚肉のみ)を選んだグループが、配膳中の猫ロボットから他のテーブルに配達中の牛肉や寿司を奪っていく。そんな治安の悪い店というイメージがな(実際にやられた)〉
ネコ型配膳ロボット「BellaBot(ベラボット)」が一度に複数のテーブルへ料理を運ぶ際、ほかのテーブルの料理まで「横取り」する客がいることが明らかになったのだ。
さらに、この投稿をきっかけに、SNSではほかの客に横取りされた体験談が次々と寄せられた。
〈ワシもやられたなぁ。空の猫だけが来た。店員に伝えて、どのテーブルがやったのかも確認してしっかり伝えたけど、一切対応してもらえなかったわ。しゃぶ葉は好きだけど、こういうところがちょっとうーんって思う〉
〈隣のテーブルの分と同時に来て、全部取られた。隣の客はたぶん牛タンコースじゃなかった…でも牛タンを取って、その家族のお母さんが普通に食べていて、えーって思ったよ。食べ放題だから頼み直したけど…〉
これを受け、しゃぶ葉を展開するすかいらーくホールディングス広報室は3月3日、ウェブメディア「J-CASTニュース」の取材に対し、「わかりづらい点があり、お客様にご不便をおかけしてしまいましたことをお詫び申し上げます」と謝罪した。
「食べ放題なら再度注文すればよいのでは?」と思うかもしれないが、しゃぶ葉では料金が以下のように分かれている。(※一部店舗では価格が異なる)
【1】豚バラしゃぶしゃぶ食べ放題コースが1979円(税込み)【2】肩ロースも含まれる豚しゃぶしゃぶ食べ放題コースが2309円(税込み)【3】牛&豚しゃぶしゃぶ食べ放題コースが2709円(税込み)
【1】のコースの客が、【3】のコースの牛肉などを横取りしているということだ。
なぜこのような騒動が起こるのか。
しゃぶ葉では基本的に配膳ロボットが注文したコースに関係なく、一度に料理を運ぶ。テーブル付近まで料理が届くと、ロボットは止まる。
配膳ロボットに備わった三段あるうちのいずれかの棚に自分の注文分が乗っており、客側がロボットのモニターに表示されている料理を自ら取るシステムだ。
これがファミリーレストランのように、ハンバーグやスパゲッティといった明らかに異なる料理であれば、このようなことは起こりづらいだろう。
しかし、しゃぶ葉では牛肉も豚肉も同じ色の皿に盛りつけられているため、取り間違えが起きやすいのだという。
「回転寿司とは異なり、皿の色が分けられていないため、見間違えてしまうのも理解できます。しかし、SNSの投稿を見る限り、牛&豚コースの客しか注文できない寿司を横取りするケースも報告されています。
自分が注文していない寿司を取るというのは、わざとやっているということ。こうした行為はただの泥棒です」(月刊誌編集者)
もちろん豚肉と牛肉の見分けがつかない人もいるため、悪気なく間違えて横取りしてしまった客も多少はいるだろう。しかし現在、日本全国のしゃぶ葉で、このような横取りが報告されているのだ。
なかには「1000円多く払いたくない」という理由で、安価な豚バラコースを選び、こっそりとロボットから牛肉を取る客もいるという。
こうした迷惑客を店側は訴えることができるのだろうか? 武雄法律事務所の大和幸四郎弁護士は、次のように解説する。
「自分が注文していないものを横取りする行為は、財物の占有者(事実上の支配者・管理者)の意思に反して、その物を自己または第三者の占有下(支配下・管理下)に移すことになるため、刑法235条の窃盗罪が成立すると思います。
さらに、横取り目的で入店すると、威力業務妨害罪(刑法234条)にも当たります。そして、裁判では『故意ではない』という言い訳は通用しません」
窃盗罪が成立すれば、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される。つまり、しゃぶ葉での横取りは万引きと同じなのだ。
もしも、横取りの様子を店舗内の監視カメラで撮影されて訴えられたり、SNSに動画として投稿されれば、言い逃れはできない。
「当然ですが、店も慈善事業で食べ放題を提供しているわけではありません。利益が出るように価格が設定されているため、それを損なおうとする行為は、法益を侵害しているということで犯罪に当たると思います」(大和弁護士)
すかいらーくホールディングスの広報部は、
「今後も入店時にロボットの利用方法を説明するとともに、テーブル端末にて商品到着をアニメーションで表示し、『どの棚のお肉を取るのか』が分かりやすく伝わる機能を準備しております」
と再発防止策を検討している。
とはいえ、それで悪意のある客による横取りを防げるかというと、正直なところ難しそうだ。
現実的に、店側はどのような対応策を取るべきなのだろうか? 前出の大和弁護士は、こう語る。
「理想的なのはテーブルの区分けですよね。豚バラ食べ放題コースと牛&豚食べ放題コースを、かつての禁煙席と喫煙席のように完全に分離する。それができれば、悪意のある客を排除できるでしょう」
食べ放題は、何をしてもよい無法地帯ではない。ルールを守って楽しむ食のエンターテインメントである。
ネコ型配膳ロボットも、混雑を防ぎ、人件費を削減するために導入されている。それは、高校生や学生など誰もが安価に食べ放題を楽しめるようにするためだ。
その善意を踏みにじるような行為は決して許されないだろう。
取材・文/千駄木雄大