朝に多い → 心筋梗塞・脳梗塞・くも膜下出血・不整脈
月曜日に増える → 狭心症
冬に33%増 → 心臓死
病気が生じやすい“魔”の時間帯が存在することをご存じでしょうか?
脈拍や呼吸、睡眠はもちろん、細胞分裂やたんぱく質の製造まで、人体はさまざまなリズムにしたがって「いつ」「何を」おこなうかを精密に決めています。そのリズムの乱れが、健康を害する引き金になっているのです。
病気が生じやすいタイミングがあるのはなぜか? 薬が効く時間、効かない時間はどう決まるのか? それらを治療に活かす方法は?
時計遺伝子やカレンダー遺伝子の機能としくみから、体内時計を整える食品まで、生体リズムに基づく新しい標準医療=「時間治療」をわかりやすく紹介する『時間治療 病気になりやすい時間、病気を治しやすい時間』から、そのエッセンスをご紹介します。
今回は、時間治療のなかでも、健康維持につながる習慣を身につけていく「生活治療」の観点から、食事と健康について考えてみます。意外なおすすめ「プチ断食」とは? そのポイントと、逆効果になりかねない注意点も解説します。
*本記事は、『時間治療 病気になりやすい時間、病気を治しやすい時間』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
前回までの記事でご紹介してきた「時間治療」のなかで、食事や運動、睡眠など、日常における生活習慣を点検し、病気につながりやすい習慣を取り除く一方、健康維持につながる習慣を身につけていくことを「生活治療」とよびます。
生活治療の効用にも、薬と同様に「効く時間」と「効かない時間」があります。ここでは、「生活治療における時間治療」のうち、食事に関する生活治療を考えてみましょう。
じつは、「食事の回数」も重要なファクターであることがわかっています。
たとえば、1日1食しかとらない生活習慣は、健康にどう影響するでしょうか?
2007年、アメリカ・ボルティモアのカールソン医師らは、同じカロリーの食事を1日1食でとった場合と1日3食に分けてとった場合とで、血糖等への影響がどうなるかを比較しました。1食しか食べない人は、3食の場合に比べて空腹感が倍増し、血糖値が高くなりました。糖尿病を患っている場合には、症状が悪化することも報告されています。
食事の回数が1日1回の場合は、いわば「24時間の断食後に食事をとる」ことに相当します。断食中は血糖値が低く、断食後の食事ではそのリバウンドで一時的に血糖値が上昇し、「血糖値スパイク」という状況になってしまいます。
すると、血糖値スパイクを抑えるためのホルモンであるインスリンが過剰に分泌され、こんどは血糖値が下がりすぎてしまいます。この高血糖と低血糖の繰り返しが、脳卒中や心筋梗塞の要因になってしまうことがあるため、きわめて危険な状態です。
反対に、1日に何度も食事をとる習慣のある人の場合はどうでしょうか?
2010年のスウェーデンの報告では、1日3食未満の食事習慣の人に比べ、1日6食以上をとる習慣のある人に肥満が少ないことが確認されました。その理由として、6食以上の食事習慣の人は、野菜や果物などの線維性食品の摂取量が多く、脂肪摂取量は少ないことが挙げられています。
一見、体に良さそうに思えますが、体内時計のはたらきに基づいて栄養のあり方を考える「時間栄養学」の視点からは大いに問題があります。
食事の回数が1日5食以上の場合は、一日中だらだらと食事をすることになってしまい、体内時計が乱れる原因となってしまうからです。多食によってコレステロール値が低く、肥満も少ない人がいたとしても、将来的に脳梗塞や心筋梗塞などの合併症を起こしやすくなることが危惧されます。
2008年のスウェーデンのカロリンスカ研究所の報告によれば、規則的な食事をとる習慣には糖尿病の予防効果が認められました。一方、不規則な食事習慣を続けていると、16歳から43歳になるまでの27年間の追跡調査では1.74倍の高率でメタボリックシンドロームになってしまうこと、60歳からの20年間の追跡調査では脳梗塞や心筋梗塞になるリスクが1.74倍高かったことが報告されています。
時間栄養学の立場からは、1日3食がおすすめということになります。
先ほど「食事の回数が1日1回の場合は、いわば24時間の断食後に食事をとることに相当」すると指摘し、その弊害を紹介しましたが、断食の仕方によっては良い効果を生むことがあります。
その一例が「プチ断食」です。
プチ断食とは、朝食開始から夕食終了までの時間を短くする「食事時間帯の制限」のことです。たとえば、食事をする時間帯を6時間として、残りの18時間を絶食すれば、18時間のプチ断食ということになります。このようなプチ断食によって、肥満や高血圧の改善に効果があることに注目が集まっています(図「1日のうちの早い時刻に制限して食事をすると健康度が改善する」)。
食事時間を制限する時間制限食で、健康度が改善する。インスリンが効きやすくなって糖尿病が改善し、血圧が下がり、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす酸化ストレスも低くなったことが観測されている。食事をする時間帯が6時間の18時間断食の効果を調べた2018年の報告。
18時間よりも長い断食は逆効果の場合もあり、最近は朝食時間を含む、たとえば8時から20時までを食事時間帯とする、12時間断食でも十分とされている。
体重100kg前後の肥満の人に、食事時間を朝食開始から10時間に限定する14時間のプチ断食を3ヵ月続けてもらいました。すると、体重と腹囲が減り、高血圧が改善し、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)も低下しました。このような現象が起こる理由は、体内時計が「24時間のうちで食べてよい時間」を決めているからです。
さて、プチ断食を実践する際には、いくつかの重要なポイントがあります。
まず、「朝」を主体としたプチ断食にすることです。特に、起床後1時間以内の朝食が有効であるとされています。
朝食には、睡眠中に低下していた体温を上昇させ、脳や体を目覚めさせるはたらきがあり、これを「ブレックファスト効果」といいます。乱れた体内時計の修復とパワーアップに欠かせない効果です。反対に、朝食をとらずにいると太りやすく、習慣的に夜食をとっていると肥満につながります。
「朝」を主体としたプチ断食にするのは、このブレックファスト効果が高くなるからです。朝食の時間が決まれば、「食事時間帯」が決まってきます。仮に朝食を6時30分にとるとすれば、食事をしてよい時間は16時30分まで、ということになります。
朝を主体としたプチ断食に比べ、朝食をとらずに、昼食から夜食を主体としたプチ断食をした場合には、肥満や高血圧の改善効果はみられません。プチ断食の観点からも、朝食は絶対に必要なのです。
また、プチ断食の時間を18時間よりも長くすると逆効果です。
細胞が細胞内にたまった不要なたんぱく質を分解するしくみを「オートファジー(自食作用)」といいますが、その作用が活発になりすぎて筋肉量が減ってしまったり、また脂肪肝になってしまったりするリスクが生じてきます。
オートファジーは本来、筋肉や脂肪を適切に分解して細胞の健康を維持するためのしくみですが、絶食でそのはたらきが活発になりすぎると、かえって健康を害することにつながりかねないのです。
プチ断食の効果は、16時間、15時間、14時間、13時間のプチ断食でほぼ同じです。
早稲田大学の柴田重信教授の研究では、8時から20時までを食事時間帯とする12時間のプチ断食でも、体重や腹囲、高血圧、LDLコレステロールなどの改善効果が十分に得られることを確認しています。
その結果をふまえれば、まずは「朝に光を十分浴びる」ことと、「朝を主体とした
12時間のプチ断食をおこなう」ことから始めてみるのはいかがでしょうか。毎朝6時に起きる人なら、18時以降は食事をしないということですから、比較的簡単に実行可能だと考えられます(仕事上の会食などがある日は、例外としてかまいません)。
12時間の断食に慣れてきて、さらに大きな効果を求めたいと思うようになったら、14
時間、15時間のプチ断食へと進めていけば良いでしょう。くれぐれも無理のないところから試してみてください。
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続いては、「体内時計を整える食品」についての解説をお届けします。
時間治療 病気になりやすい時間、病気を治しやすい時間
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