法律に「万引き」という言葉はなく、窃盗という犯罪でしかない。店に陳列されているものを客のふりをして盗み取ることを万引き、と呼ぶ習慣は江戸時代からあり、「間引き」が転じた言葉であるなど語源も諸説あるが、その言葉には、子供が駄菓子をポケットに入れて盗んだ、というような金額も規模も小さいイメージが強いため、現実の犯罪と乖離した印象をうえつけてしまいがちだ。ライターの宮添優氏が、外国人の窃盗被害に悩むドラッグストア関係者たちの苦悩をレポートする。
【写真】狙われるドラッグストア。大胆かつ悪質な犯行が増えている
* * *「ふざけるなと言いたい。万引きなんかではない、あれは外国人の窃盗団なんですよ。万引きなんて言葉を使うから、我々の苦境がはっきりと伝わらない。記事にするにしても、連中が窃盗団であることは明記してもらいたいと強く思います」
冷静だが、怒気のこもった低い声で筆者の取材に答えるのは、主に西日本エリアに展開するドラッグストアチェーン店の男性幹部。警察庁が先日、近年増え続ける、来日外国人によるドラッグストアでの「万引き」被害についての分析を発表し、業界団体へ防犯対策を徹底するように申し入れを行ったと報道された。その分析によると、2021年から2023年まで、外国人による万引き1件あたりの被害額が約7万8千円であることがわかったのだ。日本人による万引き1件あたりの被害額はおよそ1万円だったため、外国人による万引きは、その約8倍にまで膨れ上がる、というデータだ。
「もちろん、日本人の万引きも許せないし、1万円も商品を盗まれたら、ドラッグストアみたいな小売店は立ちゆかなくなる。それが平均で8万円ですから、もはや万引きなどというレベルではなく完全な窃盗。しかも、外国人は集団でやってくる窃盗団、もしくは強盗団なんですよ」
この男性幹部が憤るのも無理はない。彼が勤務するグループでは、複数犯による店舗での万引き、窃盗被害が多発しており、この数年は特に悪質だという。バックヤードなどに無断で入ってくる外国人と鉢合わせたり、その直後に、飲料や紙おむつなど段ボール十数箱分を盗まれるような危険な状況に陥っている。単独犯ではなく、集団でやってきて窃盗をはたらくのだ。
「買い物をする雰囲気とはちょっと違う外国人客の集団がやってきたのを見て、現場の責任者は注意をしていたと言います。彼らはこそこそしたり、特に隠れるようなこともせず、本当に堂々と商品を持って行く。中には、パートの女性従業員が見ている目の前で、盗品を車に積み込む例もあった。注意でもしたら、暴力を受けたり連れ去られたり、どんな怖い思いをするかわからないので、見ないふりをするか、そこから逃げるしかない」(ドラッグストア店幹部)
店には常時、4~5人の従業員を配置しているというが、少しレジが混んだり、棚卸しの量が増えると店頭で堂々万引きされても、そしてバックヤードに侵入されても気づきにくい。特に郊外の店舗は、一部の外国人らが「ツアー」のようにして、集団で万引きや窃盗をしに繰り返しやってくるという。茨城県内の大手ドラッグストア店の責任者の女性も「窃盗ツアー」の複数の外国人が店へやってきたことを振り返り、その恐ろしさを訴える。
「ワゴン車が3台入ってきたかと思うと、そこから十数人の外国人が降りてきました。最初は、近くの農家で働く実習生かと思ったのですが、どうも様子が違う。数人は店内に入ったのですが、他の数人は迷うことなくバックヤードに侵入し、無言で段ボールに入った化粧品やベビー用品を運び出し始めたんです」(大手ドラッグストア店の責任者)
すぐに異変を察知した従業員たちは、恐怖のあまり従業員控え室に逃げ込んだ。そして、彼らの様子を防犯カメラで確認したが、なんと外国人たちは防犯カメラに向かって「ピースサイン」まで見せていたという。
「泥棒までされ、馬鹿にされ、でも本当に恐怖でした。すぐに警察を呼び、防犯カメラ映像も提出。当然、被害届けも出しましたが、犯人たちは未だ見つかりません。系列店でも同じような被害に遭っています。万引きなんて可愛いものではない。警察は、外国人窃盗団をしっかり捕まえてほしい」(大手ドラッグストア店の責任者)
狙われているのは郊外のドラッグストアだけではない。東京・新宿にあるドラッグストア店では、以前は店の外に陳列していた商品を全て店内に戻した。外国人観光客による度重なる万引きや、窃盗被害への対策だという。店の従業員が打ち明ける。
「店外の陳列商品は、もともと高額なものはなくティッシュや水などといった安価なものでした。しかし、それでも盗まれる被害が続出しやめました。近年は外国人観光客が増え売り上げも相当上がっており、本部側も、外国人客が多い店舗に外国人スタッフを配置するなどして対応してきました。しかし、今では被害が多すぎて、いくら売れてもマイナスになる日だってある」(新宿のドラッグストア従業員)
また別の日には、別々に入店してきた10人ほどの外国人客が去った後、女性用化粧品など30万円分が万引きされていたことも発覚。10人ほどの外国人客はその後、店の近くで落ち合っていたことも、防犯カメラの捜査で判明する。
後日、犯行に関与した疑いのある東南アジア系の外国人窃盗集団が逮捕された。報道では「万引き商社」などと呼ばれ、日本国内で万引きした商品が、日本国内の外国人アジトに持ち込まれ、主に海外向けに転売されている実態なども紹介された。
筆者も以前、都内のドラッグストアで万引きしているアジア系外国人を発見したことがある。店のスタッフにすぐに報告し、従業員が外国人客に声がけしたことで万引きは未然に防がれた。だが、その外国人は従業員に向かって「こんなにあるからいいだろう」「こんな安いのだから気にするな」と堂々と片言の日本語で反論していたのには、思わず閉口してしまった。従業員は「万引きか」と疑えば、時に「外国人を差別するのか」と押し切られることも少なくないとうなだれる。犯行に及ぶ外国人たちにも、生活に困窮する技能実習生だったり、別の第三者に唆された者である人たちがいることも事実だ。しかし、だからと言って窃盗という犯罪が許されるわけではない。
畑からは野菜や果物が、そして建設現場やソーラー発電所からは高価な銅線や建設用機材、そして市民の乗用車までが、今では外国人窃盗団の格好のターゲットになっている。グローバル化や来日外国人の増加で、日本人だけで暮らしていた日本のこれまでの常識は通用しなくなっていることは明らかだ。