2024年1月1日、能登半島地震が発生した。大地震はいつ襲ってくるかわからないから恐ろしいということを多くの人が実感した出来事だった。昨年には南海トラフ「巨大地震注意」が発表され、大災害への危機感が増している。
もはや誰もが大地震から逃れられない時代、ベストセラーの話題書『首都防衛』では、知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」が描かれ、また、防災に必要なデータ・対策が1冊にまとまっている。
(※本記事は宮地美陽子『首都防衛』から抜粋・編集したものです)
1923年に発生した関東大震災は、我が国の災害対策の出発点といわれる。M7.9と推定される大地震は、東京や千葉、神奈川、埼玉、山梨で震度6を観測し、死者・行方不明者は約10万5000人に達した。
土曜日の午前11時58分に起きた災禍は、昼食時間と重なって火災による被害も拡大した。東京では竜巻状の火災旋風が生じ、全壊・全焼・流出の住家は約29万棟に上っている。関東南部の山地や丘陵地などには土石流による土砂災害が多発し、三浦半島から伊豆半島東岸に津波が襲来したと伝えられる。
9月1日の「防災の日」の起源となった100年前の大震災は、相模トラフを震源とする海溝型地震で、国家予算が14億円だった時代に被害総額は55億円に達している。阪神・淡路大震災や東日本大震災の被害総額が国家予算比で2割程度だったことを見ても、その被害の大きさがわかるだろう。
では、戦後の焼失と混乱を経て驚異の高成長を遂げた日本の首都が、再び大地震に襲われたらどうなるのか。被害想定の詳細については最終ページをご覧いただきたいが、それは関東大震災とも異なる、成熟都市・東京ならではのダメージも生じると考えられる。
国会や中央省庁といった政治・行政機能が集中する東京に大地震が襲来すれば、首都機能に甚大な影響が生じる。周辺にある議員宿舎や官舎などから地震発生直後に緊急参集することは理論的に可能であるものの、いざ異次元の災害が訪れれば思わぬ障害に阻まれる可能性は捨てきれない。道路寸断や火災の延焼といった被害の拡大も考えられ、首都機能をどこまで保つことができるのかは未知数だ。
当然ながら、首都の経済機能は大きい。日本銀行や主要金融機関の本店が集中し、都内の事業所数は約62万と全国の1割超を占めている。社会経済システムが損なわれることになれば、負の影響は増幅しながら日本全体に広がる。
国土交通省が2019年12月にまとめたデータによると、上場企業の本社所在地は東京が1823社で、全国の5割強を占める。外資系企業は日本国内の7割にあたる約2400社、工場の数は約2万7000所で、就業者は800万人を超える。これだけの機能はもちろん100年前にはなかったものだ。
東京都は2022年5月に公表した首都直下地震の被害想定で、直接被害額を21兆5640億円としている。
だが、これは建物やインフラなどの直接的な経済被害だけを推計したもので、企業の生産活動やサービスの低下といった間接的被害を含めれば、日本の国家予算に匹敵するダメージを受ける可能性がある。都内総生産(名目)が110兆円を超える中で首都が壊滅的な状況に陥れば、日本経済の損失は計り知れない。
総人口の1割強にあたる約1400万人が暮らす巨大都市は、昼間の人口が200万人以上も増える。近隣県から東京に通勤・通学する流入人口は約290万人で、逆に東京から出る通勤・通学者は約50万人だ。首都の昼間人口は約1600万人に上る。
東京都は地震発生の時間帯によって都内にいる人々の活動状況が異なるため、想定される被害が異なる3種類の季節・発生時刻を設定。想定シーンとして「早朝」「昼」「夕方」に発生し得る被害を評価している。
都の試算によれば、首都直下地震が冬場の平日昼に発生した場合、職場や外出先から自宅に戻れない帰宅困難者は最大約453万人に達する。都内との往来をする人が多ければ多いほど、その数が増えるのが自然だ。
東京駅周辺で約2万8600人、新宿駅周辺には約3万7500人が屋外に滞留し、駅付近に集まると考えられる。鉄道の運行停止や交通麻痺が長期化すれば、混乱やストレスはさらに増すだろう。
国際都市としての課題もある。国土交通省の「空港管理状況調書」によると、2019年に我が国の国際線乗降客数は1億334万人だった。そのうち成田国際空港は33.6%、羽田空港は17.9%を占め、首都の“玄関口”で5割を超える。国際線貨物取扱量(2019年は373万トン)は成田が54.7%、羽田は15.0%だ。大地震で空路や物流がストップすれば、日本の人・モノ・カネは行き場を失う。
東京都の「観光客数等実態調査」によれば、2019年に東京を訪れた日本人旅行者は約5億4316万人、外国人旅行者は約1518万人だった。観光消費額はそれぞれ約4兆7756億円、約1兆2645億円だ。
通勤・通学者の往来が旺盛な首都に国内外の観光客があふれる中、突如激しい揺れが襲ってくれば想定を上回るパニック状態が生じることは想像に難くない。
首都直下地震が恐ろしい理由の一つは、震源がどこになるのか想定しにくいことにある。
国の中央防災会議は首都機能がダメージを受ける12のパターンを想定する。
経済や政治、行政が直接的な被害を受ける「都心南部」「都心東部」「都心西部」の3つと、空港や高速道路、石油コンビナートなどの首都機能を支える「さいたま市」「千葉市」「市原市」「立川市」「横浜市」「川崎市」「東京湾」「羽田空港」「成田空港」の直下で起きる9つのパターンだ。どこで発生するのかによっても被害は大きく変化する。
関東平野は厚い堆積物に覆われ、地下に活断層があっても見つかっていない可能性が指摘されている。京都大学の河田惠昭名誉教授(都市災害)は「活断層がどこにあるのかわからず、どこが揺れるかはわからない」と警鐘を鳴らす。
発生する時間帯や季節、震源エリアによっても被害が変わる首都直下地震。高層ビルやタワマン、大型商業施設が林立する巨大都市に変貌を遂げた首都の被害は、はたして「想定の範囲内」にとどまるのだろうか。
つづく「『まさか死んでないよな…』ある日突然、日本人を襲う大災害『最悪のシミュレーション』」では、日本でかなりの確率で起こり得る「恐怖の大連動」の全容を具体的なケース・シミュレーションで描き出している。
「まさか死んでないよな…」ある日突然、日本人を襲う大災害「最悪のシミュレーション」