花粉症の人たちにはつらい、スギ花粉が舞う季節が迫ってきた。
花粉をなくすことはできないか――。その願いに応えようと、全国に先駆け、神奈川県厚木市の県自然環境保全センターで、花粉を出さない無花粉スギの苗を大量生産する計画が動き出している。(石黒穣)
センターの一角には昨年末、育苗箱にスギの穂先がぎっしりと植えられていた。「挿し木にしてそろそろ1年。根が順調に伸びており、春先に畑に移植する。種子を用いず、挿し木で増やすのがポイントで大幅な増産が見込める」。主任研究員の斎藤央嗣(ひろし)さん(54)が解説してくれた。
挿し木の親木は、突然変異により雄花に花粉がつかなくなった無花粉スギの成木20本余り。県の試験林で育てているもののうち、成長速度や材質が特に優れた「エリート」を選んだ。
挿し木は、親と遺伝的に同一なクローンになり、無花粉の性質に加え、ほかの特徴も引き継ぐ。10年ほどかけ、挿し木を2世代繰り返し、エリート無花粉スギのクローンを数千本に増やす。「2030年代半ばに、それらを親木にし、無花粉スギの苗を毎年数十万本の規模で生産する」。斎藤さんが構想を語る。
同センターでの無花粉スギの苗作りは、県内初の無花粉スギ「田原1号」が秦野市で見つかったのをきっかけに、15年以上の歴史がある。種子から苗を育て、毎年約1万本出荷してきた。
ただ、種子を発芽させて作る苗は、遺伝の法則で花粉のあるものとないものが半々になる。無花粉の苗を選別するには時間も手間もかかり、量産の妨げになってきた。
花粉が従来のものより少ない少花粉の品種もスギとヒノキで共に普及しつつあるが、それでも飛散量がゼロにはならないため、無花粉への期待は大きい。
スギとヒノキを合わせた県内の人工林面積は約3万5000ヘクタール。このうち近年は、毎年20~30ヘクタール伐採されている。仮に花粉を大量にまき散らす樹齢30年超の木を毎年200~300ヘクタール伐採しても、山の保水機能などは損なわれないという。
斎藤さんは「そのペースで切っても、伐採後のスギの植林はすべて無花粉の苗を充てられるようになる」と自信をみせる。伐採を進めるには国産材の需要を高める必要があるが、それもできれば「花粉の飛散量は劇的に減らせる」。