能登半島地震では、震源から100キロ以上離れた内灘町でも「液状化」で大きな被害が出ました。
通常の地盤は、結合した土の粒子の間を水が満たしている状態で安定しています。これが地震の揺れによって土の結合がなくなり、水に浮いた状態となります。地震の後、土の粒子が水に沈み、地盤の沈下や亀裂が発生するというのが液状化のメカニズムです。液状化が起こった地域では地盤改良が必要となり、復旧に時間がかかります。行政と住民の思いが交錯する内灘町、そして同じ液状化から立ち直った新潟県を取材しました。
「みなし仮設に入れてもらい待っています。正直私自身も折れかけている」
声にならない声で窮状を訴える住民たち。
「今まで出ていった人も好きで出て行ったんじゃない。みんなここに残りたくて待ちたくて、でも待ちきれなくて。10年も20年も時間かけている暇はない」
去年11月、内灘町西荒屋地区では3度目の住民説明会が開かれました。
液状化が発生した内灘町。道路は波打ち、家は後方へ沈み込むように傾きました。震度は5弱だったものの、建物への被害は3300棟を超えています。
ボーリング調査の結果などから国交省が提案した工事の方法は2つ。地盤改良工法と地下水位低下工法です。
地盤改良工法は地盤を締め固めたり砂でできた杭を打ち込んだりするもので、近年、実績が多いものの費用が高いなどのデメリットがあります。
地下水位低下工法は、道路の下に排水管を設置し地下水位を下げるもので家屋があっても工事できる一方、地盤沈下のリスクなどがあります。
いずれの工法を選んでも着工まで早くてあと2年かかり、工期も5年から10年に及ぶ見通しです。
「どちらの工法を行うにしても当然住民の合意が必要」
住民「どっちにするにしても合意。これみんな遅い遅いと評判や。内灘町は何するにしても遅いって」
先の見えない焦りから、声に憤りがにじみます。この土地で暮らし続けるうえで、地盤に対する対策は避けては通れないからです。
能登半島地震の震源地から直線距離にしておよそ160キロ離れた新潟市西区も、元日、液状化の被害が発生しました。
見る見るうちに地面に広がっていく泥。
「こちらの家はかなり沈みこんで給湯設備が全然使えなくてもう転居された。(寺尾朝日通で)300数十世帯のうちの100ちょっと、3分の1以上は何らかの被害があった」
子どもの頃からこの町で暮らす飯塚仁さん。揺れを感じて家の外に出ると、見覚えのある光景が広がっていたといいます。
地面から湧き出る黒い水。およそ60年前の新潟地震で、この地区では液状化がみられました。
2024年の元日、過去に液状化した地盤が揺れによって再び液状化する「再液状化」と呼ばれる現象が起こったのです。
Q. 当時はここまで住宅地でなかったから知らずに建てた?飯塚さん「そうです」「あと何年も住めないという(高齢の)人もいますから何らかの支援をしてもらいたい、それが一番」
一度液状化した土地で地盤への対策をとらずに住宅の再建を進めれば、地震のたびに住まいを失うリスクを今後も背負うことになります。
一方、早急に住民の合意をとって対策をしたことで、液状化被害から再建した町もあります。
記者「新潟県柏崎市山本団地です。中越沖地震で液状化の被害がみられたエリアですが、その後対策を講じたことで能登半島地震による液状化は見られませんでした」
新潟県柏崎市の山本団地は川沿いを盛土で埋め立てた造成宅地。2007年、最大震度6強を記録した中越沖地震では液状化などで家屋50戸が全半壊の判定を受けました。
「揺れで液状化して(壁が)倒れた、下の家によりかかった。
こう振り返るのは、本間裕子さん。住民たちが当時立ち上げた「山本団地地域再建を目指す会」の中心人物です。
会では高台にある山本団地の特性を踏まえ、工法について自分たちでも研究し、市や県のみならず国交省にも直接陳情したといいいます。
本間さん「(国交大臣から)災害は個別個別で全然違うので住民の方からこういう手立てが欲しいんだと言ってもらえないと国も把握できないと。国交省から『是非やりましょう、早いうちじゃないと散っちゃうので』と」
山本団地で採用されたのは「地下水位低下工法」でした。中越沖地震から8か月で着工し、発災から2年で完成。仮設住宅の入居期限を延長することなく、ほぼ全ての住民が自宅に戻ることができました。
本間さんは住民が主体的に行動することの重要性を強調します。
本間さん「動ける人間がやらなきゃいけないと思った。阪神淡路はこういうことがあったとか色々教えてもらった。こういうのを足がかりに『あ、そっか自分もやればいいんだ』と。行動しただけ」
地震から1年。内灘町では、再び液状化が起こらないように実証実験を踏まえた慎重な対応を進めたい町の意向と一日も早く復旧を進めたい住民の感情が交錯したままです。
合意形成を進めるうえで町と住民が手を取り合って前に進む道を探る時が来ています。