「見立真一に似た男が写っている――」
昨年末、そんな情報とともに、本誌記者のスマートフォンに一枚の写真が届いた。複数の日本人男性とカンボジア人女性が、和やかに笑顔を見せている集合写真だ。子供を抱えている女性もおり、親しい家族同士の交流会にも見える。
情報提供者によると、この中に写っている一人の男について、「見立ではないか?」との噂が現地で広まっているという。
見立真一といえば、「六本木クラブ襲撃事件」の主犯格として知られる人物だ。’12年9月2日午前3時40分、目出し帽をかぶった9人の男が東京・六本木にあったクラブ「フラワー」を襲撃。VIPルームにいた飲食店経営者の男性を金属バットで撲殺した。見立を含む犯人グループは半グレ組織「関東連合」のメンバーらで構成されており、その凶暴性を世に知らしめる象徴的な事件だった。
情報提供者によると、写真の流出元はあるカンボジア人女性のSNSで、投稿の日付は’20年10月1日。プノンペン国際空港から車で約2時間半、避暑地として知られる国立公園内にあるリゾート施設で撮影されたものだ。情報提供者が言う。
「カンボジア人による電話で宿泊の当日に予約され、10月1日のチェックアウト時に、そのカンボジア人によって支払いが一括で行われています。本来、カンボジアの宿泊施設は、外国人宿泊客のパスポートのコピーを取る必要があるのですが、代表者のカンボジア人のIDのみがコピーされていたようです」
事件から約2ヵ月後、見立容疑者はフィリピンに逃亡しているが、明らかになっている足取りはそこまでだ。事件当時33歳だから、現在は45歳。今までに「マニラで発見説」や「死亡説」など、幾度となく目撃情報が出ているが、逮捕には至っていない。
写真に写る男性の顔は、目つきや毛の生え際、顔の骨格など、指名手配ポスターで見る見立容疑者の顔つきと確かによく似ているが……。取材を続けると、「見立真一カンボジア滞在説」を裏付ける新事実も浮上した。見立と思しき人物が写っている集合写真には、関東連合との関係が深い人物の姿も確認できるのだ。
その一人が、事件の現場となったクラブ「フラワー」の元オーナーだったX氏。フラワーはもともと関東連合とのつながりが強く、事件の被害者が入店した時も、店の関係者が襲撃グループに連絡を入れたとされている。さらに、写真には別の関東連合の元メンバーも写っていた。
X氏は、現地在住の日本人への恐喝や暴行など、たびたびトラブルを起こしているという。
「一昨年、カンボジアで特殊詐欺をしていた日本人グループ25人が摘発される事件がありました。そのグループの拠点に毎日弁当を届けていた日本食店の事実上のオーナーがX氏でした。SNSにはX氏とカンボジア人の政府高官が仲睦まじく写真を撮っている様子も投稿されており、カンボジア政府との癒着が懸念されています」(関係者)
さらに本誌記者は、現地の飲食店で撮影されたX氏の動画も入手。そこには、
「おめぇカネ払う気あんのか!」
「お前らカンボジアで仕事させんからな!」
「見かけたら、さらってぶっ殺すぞ!」
などと、携帯電話の通話相手を脅すX氏の姿が映っていた。
見立真一が本当にカンボジアにいるかは定かではないが、その存在が噂になるほど、カンボジアが日本人犯罪組織の拠点と化しているのは事実だ。その理由は主に二つある。
一つは、カンボジア警察の腐敗。警察が賄賂を受け取って交通違反者を見逃すなどは日常茶飯事で、凶悪事件を起こしても賄賂次第で逮捕を免れるケースもあるという。実際、汚職・腐敗防止活動を行う国際NGO法人「トランスペアレンシー・インターナショナル」が発表している「世界腐敗認識指数ランキング」でも、カンボジアは’23年に世界180ヵ国中158位と最悪レベルに位置している。
腐敗は、出入国を管理する入管にも蔓延している。本誌記者がカンボジアの陸路国境を訪れた時も、入国に必要なビザ発給の代金とは別に、手数料として賄賂を求められた。賄賂さえ払えば、犯罪者も偽造パスポートで容易に入国できる恐れもあるという。
犯罪組織を呼び寄せるもう一つの要因は、銀行口座開設の条件が極めて緩かったこと。最近は犯罪目的の口座利用を防ぐため、厳しくなっているものの、外国人でもすぐに口座を開設できていたため、脱税目的の資産隠しやマネーロンダリング(資金洗浄)がやりやすかったのだ。
後編記事『旅行者を拉致、電気ショックで虐待して犯罪を強要…!日本人組織の拠点も乱立…「カンボジア闇社会」で起きている恐怖の犯罪手口』に続く
「週刊現代」2025年1月25日号より
旅行者を拉致、電気ショックで虐待して犯罪を強要…!日本人組織の拠点も乱立…「カンボジア闇社会」で起きている恐怖の犯罪手口