中居正広氏の女性トラブルをきっかけに、窮地に立たされたフジテレビ。長年、同局に君臨するフジサンケイグループ代表で、フジテレビ取締役相談役の日枝久氏が表舞台に姿を見せないことも批判されている。日枝氏とはどんな人物なのか。「文藝春秋」(2013年10月号)に掲載したジャーナリスト・森功氏による日枝氏(当時同社会長)のインタビューを一部紹介する。
【画像】文藝春秋のインタビューに答えていたフジテレビの日枝久会長(当時)
(文中一部敬称略)
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「今日は何でもお聞きになって結構です。現存している人のプライバシーは控えさせていただくかもしれませんが、その他についてはお答えします」
ときに冗談を交え、それでいて慎重に言葉を選びながら、日枝は長時間のインタビューに応じた。
フジテレビの日枝久氏 文藝春秋
2013年3月期の連結売上げ6320億円。フジサンケイグループは、日テレの3264億円など他局と比べ事業規模で群を抜いている。が、本業の生命線である視聴率競争では冴えない。19時から22時までのゴールデン、19時から23時までのプライム、6時から24時までの全日という「視聴率3部門」で、一昨年、7年死守してきたトップを日テレに奪われ、昨年はテレ朝にも後れをとって民放3位に甘んじている。
日枝久は編成局長時代の1982年、初めて視聴率三冠を獲得し、以来30年の間、日テレと争いながら19年も三冠王の座をもぎ取ってきた辣腕の民放経営者だ。88年に社長に就任してから、実に四半世紀にわたり、トップとして経営のハンドルを握ってきた。そのフジテレビの視聴率が、かつて味わったことのない凋落を見せている。インタビューはそこから始めた。
――まずは現在の視聴率、業績不振原因についての分析、反省点について。
「私は編成局長時代から、テレビが多チャンネルになり、放送と通信がせめぎ合う中で勝つためには、視聴率だけで競う広告収入だけではなく、総合的な売上げ、利益で競うようにしよう、と言い続けてきました。フジテレビを中心にしたメディアのコングロマリット(異業種経営企業体)をつくろうと社員を鼓舞してきました。が、やっぱりテレビはグループの中核です。視聴率が下がると、外から『あそこの局は元気ない』と言われます。
7年間視聴率三冠を守って来た。その前が日テレ、さらに日テレの前の約10年はうちがトップでした。私はこの7年間、ちょっと社内が疲れてきているかな、と感じてきました。視聴率がいいと、やはり保守的になり、何かを変えるにしてもものすごく臆病になる。そして案の定、2011年に日テレに抜かれ、12年になれば少し回復するかなと思ったら、今度はテレ朝との三つ巴になった。ここらで手を入れないとまずい、と思っています。
そこで今度の(6月の)株主総会で、メディアコングロマリットと放送事業を分けた。グループ全体を束ねるメディア・ホールディングスと現業の事業会社であるフジテレビを分離したのです。これからはますますテレビだけじゃ食っていけない時代になるので、時代の変化に対応しながら、全体の経営の多角化をやっていこう。ただし、メディア・ホールディングスの中核であるフジテレビは、グループの半分以上の利益をあげている。そこに金属疲労が見えてきた。だから、もう一度テレビ会社の原点に戻ろうとしています。組織を変えてどうこうじゃなく、空気を変えてみる。そのために分けてみたという順序かもしれません。亀山君(千広社長)がテレビの最高責任者、太田君(英昭社長)がメディア・ホールディングスで全体像を考える形に変え、今、スタートしたところです」
01年7月に日枝久が社長から会長に就任して以来、フジテレビの社長は村上光一、豊田皓、そして今度の亀山で3人目だ。なのに、会長だけは代わっていない。
――取締役人事を巡っては、長すぎる日枝体制が組織の硬直化を招いているという指摘がある。
「放送業界からすれば、そういうご批判もあるだろうとは思います。しかし、社長と会長の業務はまったく異なる。社長は毎日、目の前の視聴率で悩み、ストレスを抱えてたまらなく疲れるわけです。だから若くないとやれない。一方、会長である私はテレビの編成や番組づくりに一切口を出しません。グループ全体の方向性を決め、それから投資やM&A(企業買収)といった資本関係や外部との関係の仕事をする。従って番組の企画やタレントの起用などは、すべて現場に任せ、番組制作のプロダクションの担当者に会うことなど、この十何年ありません。ジャニーズ事務所社長のジャニー(喜多川)さんや(姉の)メリー(喜多川)さんとも会っていない。去年かおととし、ジャニーさんが演出した帝劇の芝居で会ったくらい。渡辺プロの渡邊美佐さんとは昔話をするだけで仕事の話なんてしない。社長は業務執行の最高責任者ですから、一切任せています」
※本記事の全文(約1万字)は「文藝春秋 電子版」でお読みいただけます(森功「フシテレヒはなせタメになったのか」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・いつまで会長を続けるのか・ライブドア事件の背景「あれは禁じ手です」・「『あの野郎、長くいやがって』という声も聞こえてきます」・「安倍さんとは長い付き合いなんです」・フジテレビのDNAとは「時代の変化を見て新たな挑戦をしろ」
また、2017年の日枝氏のインタビュー「フシ日枝久独占告白 社長交代劇の内幕」(森功)も、「文藝春秋 電子版」でお読みいただけます。
〈「道筋をちゃんと付けないと、僕は無責任になる」フジテレビ日枝久氏が明かした“経営者の責任”「うちだけの特殊性かもしれないけれど…」〉へ続く
(森 功/文藝春秋 2013年10月号)