2022年6月29日に大分県別府市で起きた、大学生2人が車にはねられ死傷した「別府ひき逃げ死亡事件」。赤信号で停車中の2台のバイクが後方から軽乗用車に追突され、大学生1人が死亡した。軽乗用車は100キロ近いスピードで追突し現場にはブレーキ痕もなく、故意に狙った可能性があるとみられている。
【映像】“整形経験あり”八田容疑者の特徴(動画あり)
現場から逃走した八田與一(はった・よいち)容疑者(28歳、当時25歳)は、道路交通法違反容疑で初の重要指名手配に指定されたが、いまだ行方はわかっていない。
事件を追い続けた『ABEMA的ニュースショー』ディレクターの取材記録をもとに、八田容疑者を知る人々から得た証言の数々を交えながら事件の真相に迫った。
この事件は、ディレクターの故郷・別府市で起こった。現場はよく知る場所だった。この小さな街を逃げてもすぐに捕まる。その上、スマホも財布も持たずに裸足で逃げたと聞けばなおさらのことだった。一体そこからどうやって逃げたのか。その疑問が取材のきっかけだった。
亡くなった大学生の遺族のもとへと向かったディレクター。父親は「発生して半年が経っても捜査の進展はない。マスコミの力をお借りしようと思っても、この事件を扱ってくれるところがないんです…」と嘆いた。
進まない捜査にしびれを切らした母親は、情報提供を募る活動を行なっていた(後に、「別府願う会」と呼ばれる)。「息子のママ友たちが協力してくれて、HPやインスタを立ち上げてくれてなんとかやっています。でもあまり知られていないので情報がまだ…」。
そんな両親の思いを聞いて本格的に取材を開始した。元徳島県警警部の秋山博康氏とともに全国各地を飛び回り八田容疑者の人物像などを調べ続けた。その膨大な取材記録から事件の真相が明らかになった。
交際相手によると、八田容疑者はかなりの綺麗好きだったという。「本当に潔癖だよね」「潔癖じゃなくて、綺麗好きって言ってよ」といったやり取りもあったそうだ。
さらに、大阪市西成区を中心にディープな街へ潜入する動画を配信するYouTuberをよく見ていたといい、八田容疑者は「俺もできれば働かなくても食っていける方法?不労所得っていうやつで生活したいんだよね」と語っていたという。
ABEMA的ニュースショーが入手した動画内でもこう語っていた。
「私にとって人生のプラン、そんなものはありませんね。ないですね。どうやってこれから生きていくかっていったら、生活保護というシステムがあるんですよ。介護料金とか全部タダになるんですよ。病院もね。将来を見据えて、安定した生活をおくるという意味で。万引きとかしたりして食べていけば(笑)」
また、小さい頃から引っ越しを繰り返していたため、学校でいじめを受けていたとも話していたそう。「いろんなところに引っ越して、いじめられたりとかさ。だからちょっとキレやすいところがあって」。
そして、かつての交際相手が驚いたというのが“逮捕歴”だった。「俺、前に捕まったことあってさ」「マジな顔するなよ、お前(笑)」。
実は、ひき逃げ事件の前に逮捕歴があり、執行猶予付きの有罪判決を受けていた。つまり、ひき逃げ事件は執行猶予中に起こされたものだった。
留置所で過ごした男性によると、八田容疑者は誰にも見られないのに爪のケアをしたり、美意識が高く、男性の化粧にも興味があり、整形経験を明かしてきたこともあったそうだ。
生活を続ける上で、男性が感じたのは、「ケチ」だということ。留置場内は1週間で上限2000円まで、菓子や生活用品などを購入できる。入所前に財布をなくし無一文だった男性は、何も購入することができなかったが、周囲はお菓子をくれるなどの手助けをしてくれた。しかし八田容疑者は1つもくれなかったという。
男性と八田容疑者の隣の部屋には、窃盗で逮捕された20代男性が、ひとりで入っていた。その20代男性は、反社会的勢力に属する人物と思われ、裏社会に精通し法や制度の知識を持っていたそうだ。
ある時、八田容疑者が「生活保護を受ければ働かなくていいと聞いた」と話しかけると、20代男性は「最低限のお金はもらえるし、やり方によっては、ある程度の生活ができる」と返した。生活保護の細かいやり方や制度の話を教わっていたのだ。
また、「人ともめた時の対処法」も聞いていた。八田容疑者が「人ともめてムカついて攻撃したい時」について聞くと、20代男性は拉致を提案した。「車を横付けして、相手を乗せて、ボコボコにして、傷が消えるまで監禁しておけばいい」「シャブ打って、山にでも捨てる。仮に通報されても、薬物中毒患者のざれ言になる」といった趣旨の話をしていたという。
その会話の中で、一番手っ取り早い方法として紹介されたのが、「車でひいたらいい」。事故扱いになるため、仮に捕まっても、暴行や傷害には問われないと説明。八田容疑者は「その手があったか」と納得していたという。留置場での会話の影響があったかは不明ながら、約1年後にひき逃げ事件が発生した。
女性は、八田容疑者との出会いについて「マッチングアプリで知り合った」と明かし、美容関係で働いていたため、メイクにこだわっていると聞いて会ってみたいと思ったという。そのころの八田容疑者は金髪でメイクをしていて、「メイクが得意」と語っていたそうだ。
デート当日は、会ってすぐにカラオケに行き、仕事や恋愛、美容のことなどについて話した。「俺は機械系の仕事をしている。でもいつかはこの仕事を辞めて、資格取るために勉強してるんだ」「美容関係は俺も興味ある。メイクをしないと外歩けない。だから家を出る前は結構時間がかかるんだよね」。
さらに、出会って間もない中、八田容疑者は女性に「本当に好きなんだよね」「付き合って」と言い、いきなり女性を抱きしめてキスをした。女性は「その後も圧が強くて怖いなと思った」と明かした。
しかし、出会って2カ月後、八田容疑者に送ったLINEは既読にならず、連絡も取れなくなったという。そして、その女性とマッチングアプリで出会ってからおよそ10カ月後、ひき逃げ事件が発生した。
八田容疑者はマッチングアプリで次々と女性に会っていたことが取材でわかっている。
その日、八田容疑者は会社を休んでいた。午後4時過ぎ、のちに大学生とハチ合うショッピングモールでコップを購入していた。防犯カメラ映像からは、几帳面で綺麗好きな性格が見て取れた。
大学生2人はバイクで古着屋へ行き、その後フィルムカメラを見に行こうとなりショッピングモールへ移動した。結局気に入ったものがなく、2人は駐輪場に戻った。そこで大学生(亡くなった大学生)のもとに八田容疑者が歩み寄ってきた。「お前、何見てんの?」「はあ?」「ケンカ売ってんの?」「あ、いや、すいません。ほんとすいません」といったやり取りがなされた。
その光景を離れた場所で見ていた大学生(けがをした大学生)は、先輩に会って挨拶をしているのかと思ったという。その後「知り合い?」と尋ねると、「いや知らん人だよ。なんか因縁つけられて。とりあえず面倒臭かったからごめんなさいって謝ったけど。ほんま変なやつやったわ」と話していたそうだ。
その後、大学生2人はバイクに乗ってショッピングモールを後にした。赤信号で止まっていた際に「さっきの気にするなよ。どうせ変な奴に決まっているから」「おう」と話をしていた。それが2人の最後の会話となった。
後ろから、車のエンジン音とアクセルを踏み込むような音が聞こえ、軽自動車にはねられた。大学生(けがをした大学生)は、地面に叩きつけられたものの意識を取り戻した。大学生(亡くなった大学生)は道路に倒れ込み、駆けつけた人々が必死の介抱を行なって、後に病院に搬送された。
病院に来るよう言われた母親は、車で急いで向かった。その途中、病院から電話があり、息子が心肺停止の状態であると伝えられた。母親は過呼吸に陥り運転が不可能となってしまった。やがてタクシーに乗ってやってきた父親が追いつき、病院に到着すると主治医から「色々手を尽くしたのですが…残念ですが……」と告げられた。
後日、亡くなった大学生の父親は、大学生(けがをした大学生)から「(亡くなった大学生は)アイツに殺されたんです!」「一方的にいいがかりを付けられて…ただ頭を下げて謝っていました」と事件当日に起きたことについて説明された。
事件発生から1年が経った頃、大分県警は八田容疑者が事件直後に逃走する防犯カメラの映像と、市内のヨットハーバーで八田容疑者が脱ぎ捨てたとみられるTシャツや車内に残されていたリュックやスニーカーなどの遺留品を公開した。
また、同時期に八田容疑者の車両と被害にあった大学生のバイク2台も公開された。車のフロント部分とバイクの後方部分が大破しており、100キロ近いスピードとノーブレーキで衝突したとされるその衝撃が伝えられた。
交通事調査故鑑定人で元宮城県警の佐々木尋貴氏は「車やオートバイの壊れ方を見るとかなりの高速度で追突したというのは間違いなくわかる。加速してアクセルをふかしながらぶつかったと思われる」と推察した。
「捜査の仕方は間違いではないんでしょうけど、ただ油断はしていると思う。多くの交通事故捜査は、その車を探し当てるためにものすごい努力をする。今回の場合、車もあるし、人も特定されていた。いずれ出てくるというところがある。そこが現場を処理していた人間から言えば油断だ」(佐々木尋貴氏)
もう一つの疑問は、八田容疑者がヨットハーバーで脱ぎ捨てたとみられるTシャツだ。警察はTシャツの公開を遅らせた理由に「誤った憶測」が広まるといけないからと説明している。誤った憶測とは、海に飛び込んだことを指している。事実、別府では、八田は海に飛び込んで死んだという声が蔓延し、また八田容疑者の祖父も取材でそう語っていた。
元徳島県警警部の秋山氏は捜査歴42年の経験から「八田容疑者は今も生きている」と断言する。「間違いなく、ここ(ヨットハーバー付近)で飛び込んだら周辺で腐敗して発見される」。
遺族は警察の初動捜査に関する情報開示を求めたが、すべて黒塗りにされていた。父親は「初動捜査が間違っていたのではないかと。最初から一生懸命やっていただければ、もっと早く八田容疑者を逮捕できたのではないか…」と語った。
この事件をめぐって、遺族らは八田容疑者の容疑を道路交通法違反から殺人罪、および殺人未遂罪への変更に求めていたが、1年以上が経過し進展が見られないことから、大分県警に告訴状を提出した。そして容疑変更に賛同するおよそ5万2000人の署名も手渡した。
元東京地検特捜部の若狹勝弁護士は「本人の供述を聞くことができないため、殺意があったかどうかはわからないから、殺人にはしがたいというのは時代遅れの人が言うこと。客観的に人を殺すに足りる行為をしていれば、容疑者がなんと言おうと、裁判では有罪・殺人罪になる。100キロで止まっているところにぶつかれば、死んでもおかしくない状況。客観的に言うと殺意を認めるには足りることになる」との見解を示した。
告訴状を提出した父親は「警察の応対をしてもらった方の雰囲気から、書類は受理したものの殺人罪への切り替えは難しいのかなというのが率直な意見ですね」と語っていた。その言葉のとおり告訴は受理されたものの殺人罪への変更はなされないままだ。
大分県警本部に取材を申し込み、話を聞くと「殺人容疑となると、現状は100%とも言えないところもある。では何が足りないのか、そこはちょっと申し訳ないのですがお話できないところがある。しかし道交法違反だけで終わる事件ではない」と語った。
「これが足りないと、それが表に出れば、当然八田容疑者が知ることになります。逮捕した後に当然弁護士が対抗措置をとるわけです。八田容疑者を厳罰に処したい。そのために言えないところがある。そこはご了承いただきたい」と続けた。
初動捜査については「その日のうちに逮捕できたのがベストなんでしょうけど、それができていない。現場では鑑識が証拠を採取して、八田容疑者を特定。そしてすぐに逮捕状を請求して指名手配した。しかし、すぐに捕まえるというだけが初動捜査ではありません。それ(逮捕)ができれば一番いいが、他県警の発生事情から見てもそこはなかなか、難しい面もある。批判があるのであれば反省しなければいけない」と述べた。
息子が亡くなってからも毎日、LINEを送り続けているという父親。「毎日LINEを…亡くなる直前までしていましたね。今でも毎日、送っているんですけどね…。当然返事は来ませんが…」。
そして、まだ一度も仏壇の前で手を合わせることができていないという。「いまだにLINEをしているので」「座ったら死んだと認めてしまう」と胸中を語った。
「ずっと下を向いていても、息子の無念も晴らせないので、息子の分までみんなで生きていくという覚悟を持ちながら、前向きにしようとは思っています」
亡くなって2ヶ月ほど経った頃、卒業アルバムの作文を見返そうと息子の部屋に行った母親。いろいろな思い出に浸りながら部屋を整理していると、卒業証書の間から母に宛てた手紙が見つかった。
「いつも文句言うのも、『勉強しろ』って言うのも、俺のためと思って言ってくれてるの分かっとる。でも、何か自分が負けてるようで言い返してしまう。ごめんね。心配してくれとるのに勝手に自分の道に進んで行こうとしてごめんね。でも、絶対に後悔させないから。
どこに行っても頑張るから、これからもよろしく。本当にいつもありがとう!」(亡くなった大学生が母親に宛てた手紙)
「高校に入ってからも私はずっと『頑張れ』と言い続けていました。もっともっと大きくなって欲しくて、一つ目標をクリアしては次の目標に向けて、休む間もなく頑張れ頑張れと言いました。一つずつ、しっかり褒めてあげればよかった。一つずつ、しっかり認めてあげればよかった。
サッカー選手の夢を諦める時、苦しみながらも見つけた次の目標。スポーツから勉強へ方向転換した後の息子の頑張りには本当に感心させられました。
仕事に就いた時、目標だった父親を超える経営者になった時、よく頑張ったと言ってあげたかった。一緒に祝杯をあげて、お酒を交わしながら、いつもの得意気な顔でする自慢話を聞きたかった。
たくさん一緒にやりたい事があった。たくさん一緒に行きたい所があった。簡単で便利な言葉、『頑張れ』。何度も何度も息子に言った、『頑張れ』。今はただひたすら自分に『頑張れ、頑張れ』と言い聞かせる毎日です」(亡くなった大学生の母親)
情報提供は別府警察署(0977-21-2131)まで。X(旧Twitter)の番組公式アカウント(@News_ABEMA)のダイレクトメッセージでも情報を募集している。
(『ABEMA的ニュースショー』より)