シーズン2が配信中のNetflixの恋愛リアリティショー「あいの里」の出演者は、35歳から60歳。ただ、それは“ショー”の中での話に留まらないという。高齢化社会の進む日本には、実に約800万人の“お一人さま”シニアがおり、パートナーを求める人たちが急増しているというのだ。ただ、いざ自分の親が恋愛となると、子としてはいささか複雑な心境にも。ケアマネジャーの田中克典氏は、「相手が誠実な人で、親が幸せなら、応援してあげてもいい」と説くが、注意点もあるという――。
(前後編の前編)
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※この記事は、『親への小さな恩返し100リスト』(田中克典著、主婦と生活社)の内容をもとに、一部を抜粋/編集してお伝えしています。
年をとれば、伴侶に先立たれてシングルになる人が増えます。男女を問わず、人はいくつになっても異性を求める気持ちがあります。デイサービスなど介護施設でも、利用者が介護スタッフに好意を寄せたり、利用者同士が連絡先を交換して個人的に会ったりすることはあります。元気な高齢者なら、シニアクラブや趣味のサークルなど、出会いの機会が多いでしょう。つまり、70代、80代の親だって恋をすることはあり得るわけです。
親が恋をしているようなら、なにげなく話題にしてみましょう。「お母さん(父さん)は、好きな人、いるの?」と。これも息子からはなかなか言い出しにくいので、娘がベターですね。「うん。茶飲み友だちだけどね」と親が話し始めたら、「もう年なんだから」などと恋愛感情を否定せず、話を聞いてあげてください。
相手が誠実な人で、親が幸せなら、応援してあげてもいいと思います。親の幸せを後押しするのも恩返しです。『80歳の壁』などの著書で知られる精神科医の和田秀樹さんも、高齢者の恋愛をすすめています。ワクワク、ドキドキする気持ちは脳内ホルモン、ドーパミンの分泌量を増やし、意欲や思考を司つかさどる前頭葉を活性化させるので、脳にいい影響をもたらします。
ただ、注意点もあります。相手が必ずしもいい人とは限りません。寂しさや恋心につけ込むロマンス詐欺も横行しているので、投資を持ちかけられたとかお金の話が出たら、まず怪しむべき。相手とどこで出会ったかも、親に確認してください。マッチングアプリやSNSは詐欺の温床です。相手がどんな人か、子どもの目で確かめるために、一度顔を合わせておくことが大事。会って話せば、人柄や、どういう人生を歩んできた人かが、ある程度はわかると思います。
万が一、怪しい相手ならば全力で反対する必要がありますが、そうでなければ、温かい目で見守りましょう。親子で恋愛について語るのは、特に親世代の男性は慣れていないと思いますが、普段から会話をして、フランクに打ち明けられる親子関係を作っておくことは大切なポイントです。
「若い頃は毎朝、鏡台の前で化粧をしていた母が、いつからか、まったくしなくなって。年をとって外出する機会が減って、外見を構わなくなりました」と、ある50代の女性が話していました。
高齢になれば、シワやシミが増えるのは仕方がないですが、「化粧してもきれいにならないから」とあきらめてしまうと、さらに老け込むことにつながります。女性の場合、外見が心理面に与える影響が大きいと言われています。
最近では、高齢者施設でも、化粧療法(メイクセラピー)を実施するところが増えています。化粧品メーカーの美容部員が、高齢者にメイクを施したり、スキンケアとメイクの仕方を教えたりするもので、化粧後の高齢者は、みるみる表情が明るくなり、「若返ったみたい」と声を弾ませる人もいます。
きれいになると自信がつき、「外に出かけたい」「人と会いたい」と前向きなエネルギーが生まれます。高齢者が社交性を保ち、交友関係を広げるうえでも、身だしなみを整えることは大切です。そこで、子が親に、スキンケアやメイクの仕方をアドバイスして美しくしてあげましょう。
外見に無頓着になると、口周りにうっすらひげが生えている高齢女性もいます。保湿したあと、顔の産毛を剃って、眉毛を整えてあげましょう。それだけでも垢ぬけた印象になります。ちなみに、化粧をすると、視覚、嗅覚、触覚などの感覚を刺激し、脳の血流がよくなることも報告されています。そのため、認知機能の低下を防ぐ効果も期待されています。
年をとり、認知能力が低下してくるにつれ、何事も億劫になり、「めんどくさい」と思うようになります。オシャレに対してもそうです。たんすを開ければ、たくさん服があるのに、同じ服ばかり着ている。そのかっこうがラクだからです。
他にもっといい服があっても、選んでコーディネートすることが「めんどくさい」のです。服のコーディネートというのは、意外に頭を使うものです。特に女性はそうだと思います。
トップスとボトムスの色や丈の組み合わせなどバリエーションが多いですから。「めんどくさい」親に代わって、子がコーディネートするのも、親をきれいにしてあげる恩返し。
親のたんすの中から服を見立ててコーディネートし、「明日出かけるとき、これを着てね」と、親の目につくところにかけておく。素敵な服を着れば、気分が上がりますし、出かけるのが楽しくなります。オシャレへの関心が復活するきっかけになるでしょう。
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この記事の後編では、引き続き『親への小さな恩返し100リスト』(主婦と生活社)より、帰省シーズンの今こそ参考にしたい「おすすめ親孝行3選」をお届けする。親が元気なうちにこそ実践すべき“小さな恩返し”とは――。
【著者の紹介】田中克典(たなか・かつのり)1962年、埼玉県生まれ。日本福祉教育専門学校卒業後、福祉系の出版社を経て、東京都清瀬療護園(重度身体障害者入所施設)、清瀬市障害者福祉センター(デイサービス、ショートステイ)などで介護経験を積む。1984年にはインド・コルカタの故マザー・テレサ女史の運営する施設で介護経験し、テレサ氏とも懇談する。2000年、介護保険制度の発足と同時にケアマネジャーの実務に就き、これまでに約500人の高齢者を担当した。現在は株式会社スタートラインで現役ケアマネジャーを務めている。主な資格は主任介護支援専門員、産業ケアマネ3級。著書に『介護保険のかしこい使い方』(雲母書房)、『親の介護の不安や疑問が解消する本』(日本実業出版社)、『親の介護手続きと対処まるわかりQ&A』(玄光社)、『「親の介護」は猫にたとえちゃえばいい。』(日本実業出版社)がある。
デイリー新潮編集部