スペックのいい男性との結婚を望む、40代女性の婚活の行方――(写真:ABC/PIXTA)
仲人の経験則でいえば、男性は、婚活でお相手選びをするときに重視するのは、女性の若さと見た目だ。若ければ若いほどよく、きれいな女性にばかり申し込みをかける。スペックのいい男性ほど、女性の若さと見た目にこだわる傾向にある。
こうした背景から、女性は歳を重ねるほど同じ年頃のスペックのいい男性との結婚が難しくなる。
仲人として婚活現場に関わる筆者が、婚活者に焦点を当てて、苦労や成功体験をリアルな声とともにお届けする連載。今回は、41歳女性の婚活の苦悩をお届けする。
先日入会面談に来た、あやみ(41歳、仮名)が言った。
「アプリで出会った同い歳の男性と、半年くらいお付き合いしていました」
有名な大企業に勤めていたので、はっきりとは聞いていなかったが、高年収なのは予想がついた。
「男女の関係もあったし、私の家にもよく遊びにきていたので、その先には結婚があるものだと思っていました。でも、結婚の具体的な話が出てこなかった」
そこで、41歳になった日に、思い切って聞いてみることにした。彼が誕生日のお祝いランチを予約をしていたレストランで、あやみが結婚について切り出した。すると予想もしていなかった答えが返ってきた。
「ごめん。なかなか言い出せなかったんだけど、妻とはまだ籍が抜けていないんだ。お金のことでもめていて、らちが明かなくて」
「バツイチだ」と言っていたのは、うそだった。
「もう青天の霹靂でした。バツイチといわれれば離婚していると思いますよね。その日は食事も途中で席を立って、1人で店を飛び出しました」
駅に向かう道すがら、涙があふれてきた。電車の中では泣くのを必死に我慢し、ある駅で降りた。そこには、悩んだときに訪れる占い館があった。
「いつも観てもらう先生がいたので、泣きながらすべてを話しました」
すると、その占い師は言った。
「41歳の誕生日が、新しい道を歩く運命の分かれ道になったんです。今別れて、結婚を真剣に考えてくれる独身の男性に出会ったら結婚もできるし、年齢的にも最後のチャンスに子どもを授かれるかもしれませんよ」
その言葉に背中を押されて、彼とは別れる決心をした。
その夜、LINEで別れ話をすると、彼はすんなりとそれを受け入れた。
〈うそをつくつもりはなかった。ただ、あやみにどんどん引かれる自分がいて、言いそびれてしまった。ごめんなさい〉
あっさりとした幕切れだった。悲しかったが、何か腑に落ちないモヤモヤを感じた。
そこで、彼と同じ会社に夫が勤めている大学時代の友人に、恥を忍んですべてを話した。本当は結婚が決まったら、サプライズで驚かせるつもりだったのだが、彼の素性を探ってもらうことにした。
すると、妻とは別居しているわけではなく、2人目の子どもが生まれたばかりだというのがわかった。
「彼は、『社員寮で暮らしている』と私には言っていました。だから、私の家には来るけれど、彼の家には行ったことがなかった。ただ、泊まっていくこともあったので、まさか妻子がいるとは思いもしなかった」
泊まることができたのは、奥さんが上の子どもを連れて出産のために数カ月里帰りしていたからだった。
ここまで話すと、あやみは言った。
「結婚相談所にいる人たちは、独身証明書を出しているから、みなさん独身ですよね。私には、もう時間がない。もし半年くらいでお相手が見つかったら、最後のチャンスに子どもが望めるかもしれない。真剣に婚活をします」
まず、結婚相談所でお見合いを組みやすくするためには、きれいな写真を撮り、魅力的なPR文章の入ったプロフィールを作ることが大切だ。
ことに、写真はお見合いを組む呼び水となる。筆者の相談室では、お見合い写真を得意とするスタジオで、撮影をしている。
服装は、男性の場合はスーツが原則。体にジャストサイズのスーツに、ネクタイは色違いで3本くらい持ってきてもらう。そのなかからどれが一番本人の顔に合うかを、カメラマンやスタジオスタッフと一緒に決めている。
女性の場合は、顔が華やかに映えるように、トップスは白や明るい色にする。襟元は鎖骨がチラ見えするくらい開いているデザインがいい。スカートも明るい色が基本だ。黒やグレーなどの顔色が沈んで見える色は、避ける。
あやみは、柔らかな素材の白いブラウスにシャーベットオレンジのスカートをコーディネイトして、その日は撮影に臨んだ。
ヘアメイクを終え写真を撮ることになり、カメラの前にたったあやみに、カメラマンが言った。「笑顔でいきましょう」。
すると、口をキュッと結んだまま、笑顔を作った。
「歯を見せて笑いましょう。その方が笑顔は素敵になりますよ」
と言うカメラマンに、あやみが言った。「私、歯を見せて笑うのは好きじゃないんです。相手に媚を売っているように見えるじゃないですか」。
そして、最後まで歯を見せて笑うことはなかった。その様子は頑なだった。
もともときれいな顔立ちをしているあやみは、サイトに登録すると、たくさんのお見合いの申し込みがかかった。
ただ41歳という年齢もあり、申し込みをかけてくるのは、40代後半、50代、60代の男性が多かった。年齢の近い男性だと、年収が300万円、400万円台で、「最低でも、700万円以上」と年収を切っていたあやみの条件からは、大きく外れていた。
「年収を取るか、年齢を取るか。この男性は50代だけれど、1000万円を超えていますよ」
筆者が言うと、ここにもあやみの頑なな性格が垣間見えた。
「年収がどんなに高くても、50代の男性とはお会いする気持ちになりません。たとえばですが、この62歳の方、お医者さんだから年収が2500万円ありますが、お金があればいいってもんじゃない。62歳なんて、親子の年齢ですよ」
そして、こんな言葉を漏らした。「男の人って、きれいな同世代よりも、見た目が普通の年下を選ぶんですね」。
自分の容姿に自信があるのだろう。だまされたとはいえ、お付き合いをしていたのが同い年のハイスペック男性だった過去もあり、現実がなかなか受け入れられないようだった。
あやみは、続けた。
「男性の気持ちはわかります。若い子を選びたいのは、子どもがほしいからですよね。でも、女性側も子どもがほしいからこそ、できるだけ年齢の近い男性と結婚したいんです。50代の男性と結婚したら、子どもが小学生のときに、還暦ですよ」
子どもを授かることを考えたら、男女ともに相手の年齢にこだわるのは、人間の本能だろう。
また男性の場合、本能的な理由だけでなく、若いパートナーを選ぶことは、経済的・社会的な成功の象徴とされる側面もあると筆者は考えている。有名な実業家が、親子ほど歳の離れたタレントを恋人や結婚相手に選ぶケースも、その一例だろう。
また逆も然りで、有名女性タレントなどが10歳も20歳も年齢の離れた男性と結婚すると、“してやったり”的なニュースになる。
あやみは3カ月活動を続けたが、「私が結婚してもよいと思う相手がサイトにはいませんでした」という理由で、退会していった。
学生を終えて社会に出た頃、男性も女性も、自分の価値観がそれほど定まっていない。考え方も柔軟なので、人の意見も聞けるし、他人の意見を受け入れる間口も広い。
男女の年収格差もそれほど広がっていないし、好きになってしまえば男性の年収が低かったとしても気にならない。だから、20代は結婚しやすい。
ところが、年齢を重ねるにつれて、職種や男女間の年収格差が広がっていく。さらに経験を積み、知識を蓄えていくうちに、物事を見るときに、自分の判断基準やものさしができてしまう。それが人を頑固にする。
“人に媚びているように見えるから、歯を見せて笑わない”“50歳以上の人とは会わない”というあやみの気持ちもわかる。
この連載の一覧はこちら
しかし、結婚とはそもそも、それまでまったく違う環境で育ってきた相手の考え方や価値観、ライブスタイルを受け入れることなのだ。
婚活をするとなると、どうしても自分の理想を掲げがちなのだが、そこに頑なにならず、まずは相手を受け入れる気持ちで、相手に接してみたらどうだろうか。
そうすることで、これまで気づかなかった異性の魅力を見つけることができるかもしれない。
(鎌田 れい : 仲人・ライター)