「犬も歩けば歯医者にあたる」「コンビニよりも多い」。そんな言葉で知られる通り、全国で実に約6万7000軒(コンビニは約5万7000軒)もある「歯医者」に、ある《異変》が起きている。
11月6日、衝撃のニュースが飛び込んできた。2024年(1~10月)に発生した歯医者の倒産・廃業件数が、年間ベースで過去最多を更新したのだ。
大手信用調査会社・帝国データバンクの調査によれば、10月までの時点で倒産(負債1000万円以上、法的整理)が前年比倍増の25件、休廃業・解散(廃業)が101件発生し、合計126件が市場から“淘汰”される形に。この数字は、23年通年の104件を更新するだけでなく、統計史上最も早い倒産ペースを示しているという。
なぜ、ここへきて歯医者の倒産や休廃業が加速度的に起きているのか。同社情報統括部の飯島大介氏は主たる理由として「歯科医の高齢化」を挙げる。
「歯科医は、医師と比べて開業率が圧倒的に高い業種です。そのため歳を重ねてもやめる人は少なく、今日では経営者の平均年齢が60歳を超えるほど歯科業界の高齢化が進みました。
今回『休廃業・解散』となった歯科医院を見ても、代表者の平均年齢は69・3歳と70歳に迫るほか、最高齢では90歳以上というケースも見受けられました。したがって、歯医者が市場から急速に淘汰されている一番の理由は、高齢を理由にリタイアを決めた歯科医が急増したことにあります」
ただ一方で、従来より危惧されていた歯科業界の過当競争にくわえ、直近の経営環境の変化に伴う資金面での逼迫により、倒産に追い込まれる歯医者も増えているのも現実だ。
厚生労働省が10月31日付で公開した『医療施設動態調査(令和6年8月末概数)』によれば、今年7月から8月にかけてのわずか1ヵ月で、歯科診療所の施設数は42も減少している。つまり、小規模(負債1000万円未満など)の倒産も含めれば、実に1日に1軒以上のペースで歯医者が消えている計算になる。
飯島氏が続ける。
「そもそも以前から、歯科外来患者数は減少傾向にあります。これは少子高齢化に加え、若年層による予防治療への意識の高まり、そして治療技術の向上によるものです。
そして直近では、虫歯治療で用いる銀といった合金など、治療に用いる材料費が高騰しています。さらに追い打ちをかけたのがマイナ保険証。関連設備の導入など電子化が求められ、新たな設備投資が必要になったことも、歯医者にとっては大きな負担となりました」
こうした要因を踏まえると、倒産を余儀なくされる歯医者が出てくるのも仕方ないのかもしれない。これまで供給過剰だった歯科業界だけに、このままいけば適正な数になって良いのでは、という見方もある。
だが、本当にそうだろうか。むしろ患者側にとっては「悪徳歯科医」をつかまされるリスクが高まる恐れがある。
「生き残りをかけて、今や歯医者側も収入を確保することに必死です。歯科治療への報酬は出来高制。しかも現行の保険制度では、歯科の診療報酬は医師と比べると低く設定されています。そこで、どんな手を使ってでも治療をしよう考える歯科医も出てくるわけです」(医療ジャーナリスト)
歯科といえば、これまで診療報酬の不正請求が度々問題になってきた。ただ、今年12月2日からマイナ保険証を基本とする仕組みに移行されることで、不正請求はより起きにくい環境になると予想できる。となると、大きく儲けようとする悪徳歯科医が出る行動はひとつだ。
「あまりに高額な保険診療を繰り返せば、今後はマイナ保険証ですぐに不正がバレ、厚労省から指導が入るはずです。したがって、インプラントやセラミックなど高額な『自由診療』を、必要以上に患者に強いる歯科医が増加するかもしれません」(同)
近所の歯医者がその数を減らしても、歯医者選びは今まで以上に慎重に行ったほうが良さそうだ。
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