本人の物静かな印象とは対照的に齋藤元彦兵庫県知事(47)をめぐる騒動はヒートアップの一方だ。選挙で「外野」から応援したNHKから国民を守る党の立花孝志党首(57)の過激な言動に続いて、今度は選挙活動の一端を「担ってくれた女性」が物議を醸している。
【写真】ドレッシーな服装で笑顔を見せる折田氏。この「キラキラ感」も、20代女性を操るための戦略だったのだろうか
兵庫県西宮市の広告会社「merchu」の折田楓社長(33)が発信した「note」の内容から「公選法違反ではないか」という可能性が取り沙汰されている。最悪、同法上の買収が立件されれば齋藤知事は失職し、公民権停止で再出馬もできない。
merchuの折田楓社長 本人SNSより
noteで折田氏は「広告全般を任せていただいた立場として、まとめを残しておきたい」といい、「アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画(以下略)など責任をもって行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用しました」「私自身も現場に出て撮影やライブ配信を行うこともありました」と綴っている。齋藤現知事が会社を訪れ、本人や社員と協議している写真までアップしている。
「merchu」は、SNSやWEBサイトで、企業などのイメージアップを請け負う会社だ。齋藤知事は約71万円を「merchu」に支払ったことを明かしているが、公選法で報酬の支払いが認められるのは車上運動員(いわゆるウグイス嬢)、運転手、ポスターを掲示する運動員などに厳しく限定されている。
そうでない人に報酬を与えてSNS配信などをしてもらっていれば、公選法の買収に当たる。齋藤知事は連日「公選法違反には当たらないと認識している」を繰り返すものの根拠も示さないので、県の選挙管理委員会には連日、仕事もできなくなるほど問い合わせが来ているという。
疑惑の噴出後、折田氏のnoteは何か所も削除され、同社のHPからは固定電話番号が削除された。折田社長の携帯に電話してもつながらない。
merchuのオフィスは、桜の名所で知られる夙川の近く、阪急苦楽園口からすぐのビル4階にある。
しかし扉に何かが入ったビニール袋がぶら下がっており、中には誰もいない様子だ。同じ階にあるオフィスの男性は「エレベーターであいさつする程度でしたが、とても感じのいい女性でしたよ。着飾ったりするような感じも全くなかったです」と話す。

ビル内の幼児スクールの女性は「ここはオフィスビルですが居住用の部屋が2つあり、1つをmerchuさんが使っているようです」と話した。
折田楓氏とは、どんな女性なのか。
西宮市で開業医の娘として育ち小、中学校は宝塚市の名門私学、小林聖心女子学院に通い、高校は甲南学園(神戸市)がフランスで経営する日本人学校『トゥレーヌ甲南』に通った。
同校は2013年に廃校になったが、同校をよく知る神戸市のある女性は「トゥレーヌ甲南校は、年間約600万円ちかい学費(寮費込み)がかかります。そんなに勉強はできなくても入れるけど、相当裕福な家庭の子弟じゃなければ無理ですね」と話す。バブル真っ盛りの1991年に開校したが、経営が行き詰まり閉校した。
高校卒業後に折田氏は帰国し、帰国子女枠で慶応大学に入学。3年生の時にフランスの著名なESSEC(ビジネススクール)に交換留学した。卒業後はフランス語を生かしてフランスの銀行の東京支店に勤めたが、故郷で母親が経営していた結婚相談所を手伝うために退社。しかし、結婚相談所の経営はうまくいかず畳んだ。
西宮市で「merchu」を立ち上げたのはその後だ。慶応大学時代の男性と結婚し、子供もいる。

SNSやインスタグラムを駆使した広告戦略で徐々に仕事を広げ、広島県などからも広報事業を請け負い、関西ではテレビ出演もしている。
2018年4月には「情報スタジアム 4時!キャッチ」(サンテレビジョン)で 「神戸市も注目する『インスタ映え』の効果とは?」というタイトルで折田氏がインスタグラマーのテクニックを紹介している。
折田氏はSNSではおしゃれな服装や高級な装飾品を身に着けて高級ワインを飲むようなリッチなイメージの写真を投稿しているが、サンテレビジョンの記者が意外な実態を教えてくれた。

「本人は『そんな恰好が好きなわけじゃないんです。顧客は20代の女性が多いため、幸せそうなキラキラ感をみせて憧れてくれるようにしているんです。あくまでも戦略的なことです』と話していましたね」
「本人は普通に感じの良い女性でしたよ。お金持ちの令嬢には違いないでしょうけど結婚相談所の経営などで苦労もしたようです。慶応大学の同級生というご主人も起業していたけどうまくいかなかったのか、今は彼女の会社にいると聞いています。今回のことで相当悩んでおられるでしょう」
折田氏は件のnoteで「東京の大手代理店ではなく、兵庫県にある会社が手掛けていた」ことをアピール。今後の選挙でのPR依頼を期待したのだろう。「齋藤さんを勝たせたのは私ですよ」とはしゃぐ気持ちはわかるが、公選法のことなどはよく知らなかったようだ。
立花党首や折田社長のSNS効果もあって、齋藤氏のSNSのフォロワーは9月末の約8万人が選挙直後には3倍以上に増えていた。

しかし当の齋藤知事は、折田氏について「若干の戸惑いがある」と話している。県幹部の自殺やパワハラ問題など四面楚歌の状態で立候補し、「独りぼっちからの逆転当選」のイメージで人気の高まった立場としては、法律違反があるかどうかは別にしても表沙汰にしてほしくなかった内容だろう。
そのため「齋藤支持者」から折田氏への批判も強まっており、「顧客からの仕事内容を公表するなんてとんでもない。ましてや協議している写真まで公表するなんて。もう誰も依頼なんかしないだろう」という声も多い。
また兵庫県の複数の有識者会議の委員を有償で務めていた折田氏が、県知事選で齋藤氏の支援をしたことも問題になっている。
11月27日に会見した齋藤知事は二言目には「代理人に聞いてください」を繰り返すばかりだったが、直後に代理人の奥見司弁護士が会見した。

奥見氏によれば齋藤知事と折田氏の出会いは、自動失職して再選を目指す中で、齋藤氏の支援者がボランティアを探して折田夫妻が浮上したという。
しかし齋藤氏側はmerchuに対してSNSでのPRなどは求めておらず、あくまでもポスター制作などの依頼だけだったと主張した。そして折田氏のnoteについて「事実である部分とない部分が記載されている。広報全般を任されたというのは事実ではない」とした。「盛っている」との言葉も使い、虚偽や誇張や粉飾があることをにおわせたが、「折田社長を訴えたりする予定はない。今は、あくまでも違法性がないことを周知させたいだけ」とした。

選挙期間中、折田氏は齋藤氏の選挙カーに上って齋藤候補の足元にしゃがみこんで最至近距離から、動画撮影してライブ配信していた。齋藤氏は会見では折田氏について当初「名前は知っていました」程度に話していたが、そんな人を選挙カーに上がらせはしまい。
会見で奥見弁護士に「選挙カーにまで上がらせて動画を取らせているのは、相当の信頼関係があったはず」と尋ねると、奥見氏は「そうでなくとも上がらせることもあるのではないか」と答えた。
「折田さんはビジネスとしてとらえていたのではなく、齋藤さんを熱烈に支持したボランティアということですか?」と畳みかけると「そうです」という回答。
ちなみに騒動になってから齋藤知事は折田氏と連絡を一切取っていないとのことだ。会見後に理由を訊くと、「齋藤知事と、折田社長が共犯として口裏合わせしているようにとられるから」とのことだった。

齋藤知事は公選法を扱う総務省の出身なので同法に詳しいうえ、選挙も初めてではないので慎重だったはずだ。
「齋藤知事は女性を登用したいと言っている。ひょっとするとあの女やったんと違うか」と話す神戸市民もいる。
県民は侃々諤々だが、最大の関心事はやはり刑事事件になるかどうかだ。

「ポスター制作を担っただけであれだけの発信をするのは不自然。対価も71万円で済むはずがない。ここは兵庫県警が動かなくてはおかしい」(在阪のスポーツ紙記者)とみる向きは多いが、28日時点では齋藤知事に対して捜査機関の接触はないという。
県議会の百条委員会への齋藤知事の登場は未定だが、下手をすると折田氏の会社をめぐっての百条委員会設置もあり得る。まさに兵庫県の行政は停滞しっぱなしである。
(粟野 仁雄)