衆院選の公示後、初めての「選挙サンデー」となった10月20日。夕方6時を過ぎ、すっかり日が落ちたJR西八王子駅北口に、1台の選挙カーが停車した。
レンタルの白いトヨタ・ハイエースの屋根には、候補者の看板がすえ付けられている。そこに書かれているのは「国民民主党」「衆議院議員候補」「弁護士・2児の父」といった文字。降りてきたのは、東京24区で、国民民主党から立候補している浦川祐輔候補である。
「浦川候補は、国民民主党が7月に公認内定を発表した新人です。東京24区では、元都議で、前回の衆院選で国民から立候補して次点だった佐藤由美氏が活動していましたが、前原誠司元外相らとともに離党した。その後、彼らは日本維新の会に合流したことから、佐藤氏は今回、東京24区に維新から出馬しています。
そうした経緯もあって、浦川候補は街頭で『国民民主を裏切った人とは一本化できない』と語るなど、佐藤氏や維新を意識した発言が目立っています」(全国紙政治部記者)
この日、浦川候補が街頭でどんなことを語るのかと注目したが、20分ほどチラシを配っただけで引き上げてしまった。拡声器を使って演説することは午後8時まで認められていて、実際、浦川候補は、肩かけできるスピーカーも用意していたのだが――。
旧統一教会とのつながり、派閥が温床になった裏金問題と、自民党への批判を一身に浴びる萩生田光一候補。ジャーナリストとして、旧統一教会問題を長年にわたって追及してきた立憲民主党の有田芳生候補。この2人のデッドヒートが繰り広げられている東京24区で、各種調査によると3番手につけているという浦川候補だが、本誌はこの候補者に注目しなければならないある事実をつかんだ。
その前にまず、弁護士でもあるという浦川候補はどんな人物なのか。弁護士探しのためのポータルサイト「coconala法律相談」に、浦川候補のことが紹介されている。
同サイトなどによると、現在31歳の浦川候補は、’15年3月に早稲田大学法学部を卒業後、’17年3月に慶應義塾大学法科大学院を修了。外資系法律事務所の勤務などを経て、現在は「エッグ」という法律事務所の代表を務めている。
また、国民民主党東京都連のメンバーでもあり、これまでに同党の立法作業や政策づくりにも関わってきたという。同サイトで、浦川候補本人が次のように語っている。
〈今、精力的に力を入れているのが国民民主党での活動です。国民民主党から法的見識を求められたら私が提供をし、私自身も国民民主所属弁護士としてお客様から信頼を頂けるので、お互いにwin-winな関係が築けています〉
〈また、議員向けの勉強会で講師を任されるなど、党の政策提言にも深くコミットしています。たとえば、最近でいえば共同親権についてです〉
つまり、国民民主党の公認候補である浦川候補は、同党の政策立案を法律面で支えてきた犖認弁護士瓩里茲Δ並減澆任發△辰燭里澄そんな浦川候補には、弁護士として猊堙垤腓平深足瓩あるという。
法曹関係者が明かす。
「浦川候補は、弁護士として所属している第二東京弁護士会から、懲戒処分を受けたのです。このことは、一部のブログやSNSでも指摘する声が上がっていました」
浦川氏が懲戒処分を受けたことは、ネット上の書き込みにとどまらず、公的文書でも確認することができた。8月7日付の官報で公表されていたのである。
同日付の官報には、懲戒処分を受けた弁護士として、浦川候補と同じ氏名の人物が確かに明記されている。具体的には、7月19日付で戒告の処分が下されたという。
一方で官報では、所属の法律事務所名は「ホワイト法律事務所」となっていて、現在の「エッグ」とは異なる。ただ、法人登記簿を確認すると、同法律事務所は4月17日付で「弁護士法人エッグ」に名称を変更したことがわかる。さらに、事務所の住所や弁護士の登録番号からも、懲戒処分を受けたのはエッグ代表で、国民民主党の浦川候補本人と考えて間違いなさそうである。
「弁護士の世界では、戦後まもなく施行された弁護士法によって、弁護士自治が確立しています。弁護士会などによる懲戒制度もその一部で、国家権力に監督権限を譲るのではなく、不正があったならば、弁護士会が自ら弁護士を罰する仕組みになっている。このため弁護士会による懲戒処分というのは、内輪の処分ではなく、市民に対する行政処分に相当するものと言えます」(同前)
浦川候補は弁護士でありながら、なんらかのルール違反をしたことになるが、その内容は現時点で明らかではなく、今後「日弁連(日本弁護士連合会)の広報誌である『自由と正義』の12月号で、具体的な内容が公表されるとみられる」(同前)という。
ただ、現在の浦川候補は弁護士である一方、衆院議員という公職をめざす立場にある。弁護士としてルール違反を犯しながら、そのことを明らかにせずに自身への投票を呼びかけていいのか。
浦川候補本人に電話で話を聞いた。
――7月19日付で第二東京弁護士会から懲戒処分を受けている。これは事実でしょうか。
「そうですね。事実です。はい」
――戒告の処分だが、これはどういう理由で?
「ツイッター(現在のX)上の不適切な発言というふうに言われています」
――異議申し立てなどをしているか。
「もちろんです。だから、確定処分ではないですね」
――どこの機関に異議申し立てをしているか。
「日弁連ですね。
第二東京弁護士会が(浦川候補を)処分したんですけど、第二東京弁護士会ってすごく政治的。立憲民主党さんや共産党さんの色が強い。僕は、すごく政治信条とか合わないなって思うことが多くて。結局、思想的な意味での処罰だから、私としてはもちろん納得するわけはないから、上級機関である日弁連で審査しているし。
(懲戒処分の妥当性を判断する仕組みは、一般の裁判と同じ)三審制なので、日弁連でダメだったら、上級裁判所でも審査してもらえることになっているはず」
――いつのツイートが問題視されている?
「’20年です。当時、コロナ禍の全盛期で。僕って、もともと有名な人なんですよ。コロナに関するツイートをするので有名な人だったんですね。
知っている人は知っているんですよ。『万バズ』とかもちょいちょいしていたし。万バズって、ツイッター(現X)が、何万リツイートとか、何万いいねとかになるやつを万バズっていうんですけど。バズるっていうやつ。
そういったコロナ系のツイートが多いんですよ、政治的なね。僕のコロナに関するツイートって、FRIDAYさんには申し訳ないですけど、メディアの(コロナ報道の)やり方はあまり気に入らないですよと。恐怖を煽ったりしすぎじゃないですかって、報道に対してずっと、ずっと言い続けている人なんで。
別に、コロナが怖くないとか、ワクチンについてはまったく言及したことないし、僕、ワクチン普通に打っているし、『反ワク』って言われる人と一緒にされると心外なんですけど」
浦川候補は’20年当時、このようにツイッターでコロナ関連の発信をするなかで、あるアカウントに注目したという。そのアカウントの持ち主は、自身が新型コロナウイルスに感染したと訴え、その後の後遺症の容態などをリポートしていた。その内容がテレビ局などの目に留まり、報道番組にも出演するなど当時は有名な存在だったという。
その一方で、このアカウントに対して、「ミュンヒハウゼン症候群(他人の関心や同情を引くために故意に病気を装う作為症)」を指摘する多数の声が上がるようになった。
浦川候補が続ける。
「で、ツイッター上で『こいつ、ミュンヒ(ハウゼン症候群)でしょ』と言っているアカウントが多くなって、で、僕も『ミュンヒハウゼン症候群でしょ』みたいな感じで言って。そうしたら(コロナ感染を訴えていた)アカウントの信奉者に『弁護士がこんなこと言っていいのか』みたいな感じで、(第二東京弁護士会に対して)懲戒請求された。それが通ったみたいな話です(弁護士の懲戒請求制度は、弁護士に懲戒理由があると考えられる場合、所属弁護士会に対して誰でも懲戒請求できる)」
――今回の懲戒処分は、どのような規定に抵触しているか。
「弁護士職務基本規程っていうのがあって、そのなかで『弁護士としての品位を害する行為はしてはいけない』っていう(趣旨の)条文があって、(弁護士職務基本規程は全部で)80条くらいの条文があるのに、それしか使われない」
――浦川さんとしては、恣意的に条文を適用されて罰せられたということで、不服に思っていると。
「そう、全然そうです。弁護士会の処分っていうのは、私たちのなかでは、もう本当にこれ、悪のくじ引きみたいなもんなので、かわいそうって感じなんですよ」
――悪のくじ引き?
「だって、ほとんど恣意的だから、もう本当、なにがあれ(ルールや罰則規定)に触るのか、全然わかんないんですよ。人によっては、全然軽いやつ(違反行為)なのに(重い罰則である)業務停止のときもあるし、もう意味わかんなすぎて。判断権者が3人ぐらいしかいないから、(懲戒処分を判断するにあたり)その人たちの気分みたいなところ、考え方に寄りかかりすぎていて。あと、反省したか、お金積んだかとか、そんな感じなんですよ。
だから、同業者のなかでは(懲戒処分されることは)かわいそうっていう感じなんですけど」
――浦川さん自身は、今回の処分は確定したものではないので、衆院議員の候補者として選挙戦に臨むにあたって、有権者が考慮に入れるような情報ではないという考えか。
「いや、そんなことはないですよ。そんなことはないけども、(懲戒処分を受けたことは)弁護士会のシステムがものすごい狂っているというふうに思うきっかけになった。
僕、弁護士になりたかったわけじゃないから。なので、それを変えたりっていう意味も込めて、昨年に国民民主党の公募に申し込んで、実際、受かったので、(弁護士)業界変えたいっていうか。(第二東京弁護士会が)こういうこと(懲戒処分)をするならば、政治的に、これを変えるのであれば、もっと上のところ(衆院議員)に行くしかないじゃないですか。だから政治家になりたいっていうこともある。
(懲戒処分を受けたことをどう捉えるかは)有権者の判断ですけど、僕の話としては、こういうこと(第二東京弁護士会が懲戒処分をしたこと)自体、頭がおかしいから、こういうことを変えるためにも、私を押し上げてくださいみたいな」
自身を懲戒処分にした「頭がおかしい」弁護士会を変えるためにも、衆院議員に当選させてほしいというのである。
一方、弁護士として懲戒処分を受け、このような考え方の浦川氏を公認候補者とした国民民主党はどのように説明するのか。書面で質問状を送ったところ、同党東京都連の石黒達男幹事長(練馬区議)名で次のような回答があった。
〈浦川氏からは懲戒処分の対象となった事案については候補予定者に関しての留意すべき事項として相談を受けていました。(中略)懲戒処分の対象となった事案については本人から報告を受け、SNS上で言葉が苛烈になったことについては真摯に反省をしているとのことであった。(中略)SNSにおける投稿内容については十分に注意するように浦川氏に対して要請しています。浦川氏はこれまでの経験や能力からも衆議院議員候補に適任(だと考えている)〉
浦川候補は、懲戒処分の根拠となったツイッターでの発信が4年前のものだったことをふまえ「4年前の交通事故のことを責められているようなもんですから」とも語っている。
果たして有権者はどのように受けとめるのか。判断がくだる投開票日までまもなくである。
宮下直之(ノンフィクションライター)[email protected]
取材・文:宮下直之(ノンフィクションライター)